第二十五話 擬似不死身
ケンタ回です
そこは文字通り戦場であった。
敵味方の兵士が入り乱れての大乱戦である。いたるところで人が倒れ痛みに呻いている。
目の前の敵を倒せば別の敵に倒され。その繰り返しだ。
だがそれは当然であるといえる。
なぜならーーーこれは戦争なのだから。
結界を破壊した主力の3人は、妨害してきた精鋭をまず狙うことに決めたようだ。
それが決まるや否や、迷いなくケンタのもとへ向かって行ったのは言うまでもなくピノである。彼は根に持つタイプらしく、挑発されたことを忘れてはいなかったのである。
「テメェ…さっきはよくもバカにしてくれたな、ああ?」
「はあ…」
どこまでガキなんだ、とため息をつくケンタ。
だがいくら見た目も精神もガキだろうと、こと戦闘に関して油断など決してできないことも彼は理解していた。
先刻の攻防でそれは明らかだったのである。
「その首…もらう!」
そう言うや否や、ピノはトップスピードでケンタへと突っ込んで行った。一見無謀にも見えるこの攻撃だが、この場面においてこの行動はとても有効だったと言える。
理由は主に二つだ。
まずはピノの体格等による速度。まず素人なら気づいたときには既に目の前にいるであろう程のスピードを持ち合わせたピノによる突進はそれだけで不意打ちとなり得る。
そしてもう一つはケンタが魔術師であるという点。近接攻撃を主としない魔術師との距離を一気につめるという行動は非常に効果的だ。その証拠に実際問題ケンタは対応しきれなかったのだから。
「くっ…」
「まだまだこれからだぜっ!」
ケンタはその猛攻に反撃することができない。防御で手一杯だったのだ。それを見越してか、徐々にダメージを与えてゆくピノ。
だが、このまま簡単に終わるようなケンタではなかった。
ケンタは防御しつつピノの攻撃の一切を観察していた。そして攻撃パターンの内で最も隙、すなわち一撃と一撃のラグが大きな箇所を特定したのだ。
だが、いかに隙があるとは言っても息もつかせぬ連続攻撃の最中である。反撃する程の大きな隙ではなかった。
「右左右右上…ここだな」
だからこそ、彼は反撃はしなかった。ただし、ある仕掛けを施した。
「何かしたかぁ?…うおっ!?」
ケンタは攻撃魔術ではなく、治癒魔術の一種である活性化魔法をピノの腕にかけていた。
いかに剣を振り慣れているとは言っても、この長時間怒涛の連打を繰り出し続けていれば腕は疲れる。体、筋肉には疲労が蓄積するのだ。そこへ急に筋肉疲労がなくなりその上活性化までされたとなればその腕はどうなるか。当然予定よりも大きな動きになる。ケンタはそこに目をつけた。彼は小さな隙を大きなズレへと転換したのだ。
この攻防に関しては、ケンタがうまかったというべきだろう。ピノは見事に一瞬で体制を立て直して見せたのだから。
だが、そこを見逃すケンタではない。
「『爆破』」
爆発によってお互いを吹き飛ばし、距離を開くことに成功していた。
一度食らった以上、同じ轍は踏まない。ケンタはそこから攻撃魔法を連射し始めた。完全に立場を逆転させたのだ。…が、威力が不完全であるが故に段々とその距離を縮められていた。
「ちっ…マズイな…」
「ハッハァ!甘い甘い甘い甘いぃ!」
もはや戦闘狂である。若干引きつつも、ケンタは思案していた。作戦はあるのだが、後に響くために使いたくない作戦だった。しかし、躊躇してはこちらがやられる、そう判断したケンタは覚悟を決めた。唐突に魔法を止めたのだ。
その刹那、ピノの刃がケンタを捉えた。肩から腿にかけてざっくりと切り裂かれ、血がふきだす。
ケンタの体は最初に蓄積されたたくさんの小さな傷と今の深手により、満身創痍となっていた。それに気を良くしたのか、ピノは笑いながらゆっくりと近づいてくる。
「俺を馬鹿にしたりするからそうなるんだよ、バァカ」
そう言ってケンタに目を向けたピノは驚愕した。
ケンタがここまでの状態となったのは、やはり相性だろう。しかしピノにとってもケンタは相性の悪い相手であった。
なぜなら。
そこにいたケンタの傷は一つ残らず完治していたからだ。
実はケンタは攻撃魔法より治癒魔法の方が得意な治癒術師だったのだ。
全身に治癒術式をかけ、ピノへ疾走するケンタ。
それを切り刻んで返り討ちにしようとするピノ。
この瞬間、既に勝負は決まっていたと言える。なぜなら攻撃をものともしない治癒力を持つケンタは相手の攻撃を気にしなくてもいいというアドバンテージを持つこととなったのだから。
「てめぇ…こんなもの持ってやがったのか…」
ピノは自分の左胸に刺さった短剣を見下ろし、そのまま崩れ落ちた。
こうしてピノとケンタの戦いは幕を閉じたのである。
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「や…ばい…かも…」
目の前の巨漢を見上げ、かろうじて意識をつないでいたルナは絶望的な状況であった。
今まさに息の根を止めようとその大剣がルナの目前に迫ったその瞬間。
大男の顔面が爆発した。
ルナが辺りを見回すとーーー
「なんとか間に合ったみたいだな…大丈夫か、ルナ」
そこにあったのは、見慣れぬ杖を携えた、ソウの姿だった。
ヒーローは遅れて登場するもんだぜ(ドヤァ




