第二十四話 閃光破壊
「何!?もう進軍してきているだと!?」
ワタヌキ副長の怒鳴り声が耳に響く。
どうやら予定より早く進軍してきているようだ。
まあ戦争なんて予想通りにはいかないものなんだがな、本来は。
俺は早速ロイとルノアと準備にとりかかる。ロイは片腕がないので今回はサポートだそうだが。ソウは…なんか用事があるとかで頬をだるんだるんに緩ませながら出かけて行った。
もう始まるっていうのにどうするつもりなんだろうな。
ふと外を見てみるともう結界のすぐそばまで軍が迫っていた。そろそろ出陣かな?
俺たちが結界のところまでたどり着いたときにはもうやつらは攻撃範囲の内に来ていた。こちらの軍は先生達の指示に従って魔法を放ち始める。
敵は堅実だった。
盾を構えた者を一番前に備え、後ろからは弓矢で後方支援、そして度々剣士が遊撃で出てくるという最もスタンダード、言い換えるなら最も隙がない編成でじわじわと攻めて来た。
こちらも魔術を撃ち続けているので、多少被害を与えてはいるが、決定的なダメージは与えられない。
早速このまま膠着状態になるかと思われたが、そこは校長の結界。
完璧な出来だった。
遊撃で出てきた剣士達は次々にその壁に阻まれ、その無防備になった瞬間次魔法で吹っ飛ばされてゆく。
この結界が破られるまでに大半の戦力は削れそうだな。
この時は誰もがそう思っていた。
どんなものでも。
小さな綻びから崩れるものだ。
じわじわと広がる毒のように。
徐々に壊れてゆく欠片は、戻すことはできない。
きっかけは見た目で別格と分かる者が来たことだ。
それも三人。
一人は屈強そうな大柄な男。その男はかなりの巨漢であるにも関わらず、その大柄な躯体の二倍はあろうかという大剣を背負っていた。
一人はさっきの大柄な男とは打って変わって背の低い男で、本当に戦争に来ているのか疑いたくなるほどの軽装だった。腰には短剣を二本差していてスピードファイターだということが見て取れる。
最後の一人は物腰の柔らかそうな、しかしそれでいて素人にも分かるほどの強者の雰囲気を纏っている長髪の男。ゆっくりとしていながら、まるで隙のない動きだ。
このたった三人の攻撃で、マギロデリア勢は一気に崩されることになる。
その三人は雑兵達に指示を出しつつ自ら赴いて来た。
「おやおや…この結界のせいで滞っていたのですね。いやはや、素晴らしい」
長髪の男はこちらを賞賛するようにそう言った。ーーーその刹那。
物凄い轟音が響いた。
音の方を見やると、先程の大柄な男がその大剣を結界に向けてふるっている真っ最中だった。
「…ふむ、硬いな…」
そうつぶやいて何度も剣を振るう。勿論それを黙って見ている俺たちではなかった。次々と魔法を放ち、破壊を妨害する。
すると、危険を察知したのかあっさりと引き下がる男。
しかし、それと入れ替わるようにして小柄な男が飛び出して来た。
「同じところを何度も攻撃されりゃいかに強固な結界でも壊れるってもんだぜ!」
この男は予想通り速さと手数で攻めるスタイルのようで、両手に携えた短剣を突風のごとく振り回していた。
この男にも魔法を放ったのだが、先程の男と違い身軽なせいか、全ての魔術を受け流しあるいは相殺しつつ結界への攻撃の手を休めない。
このままではマズイな。ここは俺が一肌脱ぐとしますか。
「けっ!そんな雑魚魔法じゃ俺様の勢いはーーーうおっ!?」
俺の水魔法が奴を襲う。威勢のいい言葉をかき消されるように後ろへ吹き飛んだ男を見て、俺はニヤリと笑う。
「もうちょっと体大きくしたほうがいいんじゃねえか?」
分かりやすい挑発だったのだが、その男は驚くほど食いついて来た。
「あいつ…ぶっ殺す!」
目を血走らせながら物騒な言葉を吐いている。…怖い。
「ピノ。挑発に乗るんじゃありませんよ」
長髪がピノと呼ばれた俺が挑発した男をなだめている。
だがあの三人が強敵であることに変わりはない。このままではいたちごっこだ。
「あの三人組は少数精鋭で妨害する!後の者は予定通り雑兵を蹴散らせ!」
指揮官の言葉に瞬時に皆反応した。いい判断だと思う。…俺が精鋭側に入れられているのが気に食わないが。ちなみにルノアも精鋭側だった。
「さて…相手も統制は取れているようですし、一気に破壊するとしましょうか」
「『大渦弾』」
俺の周囲に数個の渦が浮かび、合図と共に相手に襲いかかる。
しかし長髪は難なく弾く。やはりこいつが一番強いようだ。
俺は標的を変え、ピノに渦を放つ。
その時長髪の剣が閃光を纏い始めた。
「ちっ…レイオス!いいとこ取りかよ!」
ピノが苛ついたように叫ぶと同時に、長髪の男ーーレイオスは結界へ疾走した。
そして。
「これは闘気。魔力を魔法へ転換して放つのではなく我々は闘気へ転換して纏っているのですよ」
刺突の構えから、先程二人が攻撃していたただ一点に、その突きは放たれた。
「『雷撃一貫』」
轟音と閃光が満ちるとともに強固な結界にその一点を中心として大きなヒビが入った。そしてとどめとばかりに巨漢が一撃を加える。
それが終わりで始まりだった。
その一撃で、結界は完全にーー決壊した。
「さて…ここからですね」
レイオスが不敵に笑った。
タイトルってちゃんとした方がいいんですかねえ…(今更
追)ちゃんとしました←




