第二十二話 チンピラとテンプレとコンワク
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アカデリアの中では着々と準備が進められていた。
もうヴェーリエの軍隊はすぐそこまで迫っている。ゆっくりしている暇はない。
つい先程、ヴェーリエの軍から交渉、もとい宣告があったのだ。
「全面的な降伏をするなら、侵攻はやめてもいい。決断するなら今だけだ」
という一方的なものだったが。
というかふざけんな。
先生達も誰が降伏するか、といきり立っていた。
もっともだ。
しかも一方的に侵略しておいて何を言ってるんだろうか。
こんなの周りの国が黙ってないだろうに。と思ったが、奴らにも言い分があるらしい。
ふむ。みんなも聞いてみよう。
「我が国の重要職の一人であり一国民でもある男が貴国に観光に行ったところ我が国の国民であるというだけで攻撃をうけ、満身創痍の状態で戻り、やがて死亡した。これは許すまじき行為である。よってここに戦争を申し込む」
ほう、確かに言いたいことは分かる。俺でも激怒するだろう。無論、もし本当にこの手紙の内容が本当だったなら、の話である。
…よし。
相手の言い分は分かった。
ぶん殴るぞ。
観光とかなに言ってるかわかんないし、その言い方だとうちの国に観光者いないことになる。
何がユルスマジキ行為だ。お前らの方がよっぽどユルスマジキだよ。
そして問題はまだある。戦力だ。
奴らの戦力は前述したとおり凄まじい数だ。
それに比べてこちら側は、個人個人の能力は高いのだが、如何せん数が少ない。
街の人はとりあえず避難させ、王宮魔導師や近衛兵も集めたが、それでも奴らの数には及ばない。
通常ならこれでも十分なのだが、さっきの爆発のせいで怪我人が多数でているのが問題だ。
順次ヒラリー先生が応対しているらしいが、いくら先生でも魔力がきれないというわけではない。
…あれ?もしかしてこれやばいんじゃね?
と思った俺の不安を一瞬で吹き飛ばしたのは校長だ。
防壁、つまり結界を張ったのだ。
これが強いのなんの。大抵の攻撃はへっちゃらで、見方は通り抜け放題というクソチート結界なのだ。
原理?知るかそんなもん。少なくとも俺には理解不能ですね。
さすが校長。
そして普段は戦うところを見られ
ない先生方も総動員するらしい。すげー気になるが。
一方俺はというと。
資材を調達したりと基本的に雑用をしていたのだが、ときたま先生から直々に指示がでたりした。
戦う時は先生たち主力のサポートらしい。
なんでたかだかランク6の俺がそんな扱いなのかというと、やはりスパイ撃退が大きかったらしい。そんな期待されても困るんだがね。
なんせ一歩間違えば死だ。
あの時ビビってしまった『死』が、敵に向かっていた『死』が、今回はあらゆるところで俺を狙っている。すぐそばで口を開けて待っている。
怖くないといえば嘘になる。
でも、こんな理不尽で居場所を奪われるのを指を咥えて見ているわけにはいかない。
今回の戦いは護るための戦いだ。
それを肝に命じておこう。
そんなことを思いながら雑用をこなすため街ーーすでにもぬけの殻だーーを歩いていたところ、声が聞こえた。
「や、やめてください…」
うん?
もう避難勧告がでて結構たつし人なんかいないと思ってたけどまだ逃げ遅れた人がいるのだろうか。
声のした方を振り返る。どうやらそこの路地から聞こえてきたようだ。
路地。女の人の声。大変な状況。
…ふむ。テンプレだな。
そう思った俺だが決めつけはよくないので何も知らない風を装ってその路地を覗いてみた。
「どうかしたんですか?」
「あぁ?」
…怖い。
なんで丁寧語で状況聞いただけで喧嘩腰なんだよ…
そこには何か荷物を抱えた女の子一人と屈強そうな悪漢が二人いた。
現場です。
決めつけて良かったんだね。
「いえ、この辺りは避難勧告がでていて危ないですよ」
「っせーな。国外にでも逃げねー限り死ぬことくらい分かってんだよ!」
ん?どういうことだ?
負けることを想定しているようだ。
まあ負けても死にはしないけどね。
「俺達は見たぞ…敵の軍隊を。あんな軍に勝てるわけねえじゃねえか…」
なるほど。戦力差をみて愕然とした訳か。
そしてどうせやられるなら、ともぬけの殻の街でやりたい放題していると。そういう感じだろう。
「いいから、その娘嫌がってるじゃないですか、やめましょう」
「うるせぇん」
「『水砲』」
悪漢二人の顔面でボウリングの玉くらいの大きさの水の玉が弾ける。せっかくこっちが下手に出てるのに絡んできやがって…気絶ですんで良かったと思うべきだろう。
「あ、あの…」
助けた女の子が声をかけてきた。
ここは男らしくいいとこを見せとこう。
「ああ、大丈夫ですか?僕は当然のことをしたまでですから」
「いえ、その二人うちの店のお得意様だったんですけど…」
「…」
あれえ?
やっぱり決めつけて良くなかった…
こんなテンプレないと思ったんだよ!畜生!
「…まずいことしちゃいました?」
「あ、いえ、困ってたのは本当なんで」
話を聞いたところ、お得意先なのをいいことに格安で商品を買って国を出て売ろうとしていたらしい。
うむ、屑だな。
無駄にならなくて本当に良かった。
「あれ?でも避難勧告聞きましたよね?なんで逃げてないんです?」
「うちの父が頑固で店を離れるわけにはいかないと…」
へええ…今時そんな職人気質な方もいるんだな。
感心していると、女の子が思いついたように言った。
「そうだ、助けてくださったお礼も兼ねてうちの店にいらっしゃいませんか?魔術師の方ですよね?」
資材調達の途中だし、もしかしたら使えるものがあるかもしれない。
そんな軽い気持ちで俺はついて行ってみることにした。




