第二十一話 戦いの火蓋
第一章最終話です
ところ変わって、いや、ところ戻ってというべきか。
ソウ達は、ロイの処置をするためアカデリアへと急いでいた。
「すみません、怪我人の治療をお願いします!」
急いで駆け込んだので治癒術師の先生は驚いて俺たちに注意しようとしたらしいのだが、ロイの傷を見るなり血相を変えて奥へ引っ込んで行った。
しばらくすると奥から違う先生が出てきた。いかにも保険医といった感じの人だ。
「私が治癒術師主任のヒラリーよ。怪我人は?」
そういって俺たちを見回すと、ロイの腕で視線を止めた。とたんに顔をしかめ、事情を聞こうとしたようだが、治療が先だと思い直したようで治療を始めた。
だが、そうゆっくりもしていられないのだ。
「あの、すみません。ランク5の先生のルパート先生を…あともう一人できるだけ偉い…上層部の先生を呼んでいただけませんか?」
「…急ぐの?」
「ええ、とても」
ヒラリー先生はそれを聞くと、さっき最初に慌ててひっこんだ先生に用件を伝えてくれた。
そして俺たちに向き直り、ロイの傷は治せない、肉体を再生させる技術は流石にないと言って、傷口を清潔に塞ぐことをメインに治し始めた。
すると程なくして二人の先生が入ってきた。
一人は俺たちの(ケンタは除く)担任のルパート先生、もう一人は顔は見たことある気がするけれど、知らない先生だ。
横を見るとケンタが目を丸くしている。何だろうか。
「ベリンジャー!?どうしたんだねその腕は!?」
「先生、落ち着いてください。今からそれを伺うのでしょう?」
ルパート先生は錯乱しかけたが、もう一人の先生になだめられ冷静になった。
「随分偉い人がでてきたな」
ケンタが俺の耳元で囁く。
どうもケンタはこの先生が誰か分かっているらしい。
「私はアカデリア副長、教頭のワタヌキだ。君は?」
「…ソウ・スメラギです」
「!ほう…して、話とは?」
おお。副長。
No.2が出てきたか。
予想以上だ。
「まず、今マギロデリアがヴェーリエに下るという意見を出している皇族はカザート皇で間違いありませんよね?…いえ…出していた、というべきでしょうか」
「!何故それを…それに出していた、とは?」
俺はとある筋からの情報で皇族が脅されているのだと知り、その皇室に乗り込んで侵入者を撃退したことをかいつまんで説明した。
自分しかできないことだと奢って。
敵の元へ乗り込んで。
終いには仲間を傷つけた挙句に取り逃がしたという、ある種大失態とも言える現状を。
話した。
「そんなことが…しかし、何故それなら我々を頼らなかったのです?」
「俺には信用できても他の人にはできない情報源だったからです」
「そんなものは言ってみないとーーー」
「先生は幽霊がここにいるといわれて信じますか?」
そこでワタヌキ教頭は言葉を切った。
大半の人はそんな馬鹿なことは信じない。
そしておそらく自分もそうであると気づいたのだろう。
「敵は逃がしてしまいましたが、恐らくここまでくるともう攻めてきてもおかしくないでしょうね」
そして俺は話を戻す。
これからのヴェーリエの動きだ。
ここまでしておいて引き下がるとは考えにくい。
だが考えもなしに突っ込んでくるほど馬鹿じゃないだろう。
何かしらキッカケをつくってくる筈だがーーー
「ソウ!大変じゃ!このマギロデリアの中にもスパイがいて爆弾をーーー」
俺が考えを告げようとした瞬間、イサナが駆け込んできた。俺がそれを教頭に告げようとしたその時。
ドォォォォォン!
振動と共に爆音が響いた。
開戦の合図だ。




