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imagic  作者: みげるん
第一章 魔術師学校編
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第二話 自棄と奇跡

次話です

 


 俺は気分転換のためにも日課をするため立ち上がった。

 扉を叩く音も止んだので、わざわざ閉めておくこともないと扉の鍵を開けておく。

 その瞬間、見計らったようにケンタが俺の部屋に入ってきた。

 そして俺の手元に目線を下ろし、驚いた顔をする。

 ……こいつ、部屋の前で待ってやがったな?



「なんだ、お前まだやってたのか!?」


「……まあな」



 俺は短くそう言うと手に持った木刀を振り回し始めた。

 そう、剣術の修練だ。

 振り回す、といっては語弊があるかもしれない。

 流石に闇雲に木刀を振り回して修練だ、と言うほど俺も馬鹿じゃないし、素人でもない。

 ケンタ(バカ)じゃあるまいし。

 そしてその馬鹿に俺は答える。



「誰がいつどんな状況になるかわからない。だから魔術だけじゃなくいろんな事ができるようになっていた方がいい」



 何度も答えてきた、予め頭の中に用意されていた言葉をすらすらと口に出す。



「俺はともかく、他の奴らには魔術が使えない言い訳にしか聞こえねえけどなあ」


「俺の魔術の才能が分かる前からやってたの、お前は知ってるだろ?」


「そうだけど」



 実際魔術が使えないと分かる前から剣術の練習をしていたのだが、今となっては魔術に挫折したからだと思われても仕方ないだろう。

 一応アカデリアをやめてない時点で諦めたわけじゃないのだと少し考えれば分かることなのだが、そう考えられることはおそらくないだろう。

 別段困ることもない。


 自分の下を見て安心する。人はそういう生き物なのだ。

 だから知ってくれている人がいるだけで十分だ、と呟いて俺は剣を振る。

 実は今では剣術の方が魔術よりも得意なのだが、それは秘密だ。


 一通り修練を終えるとタオルで汗を拭き、疲れもろとも洗い流すために風呂へと直行した。

 なんら特別なことのない、いつも通りの日常だ。

 そしてその日はその後たいしたこともなく寝床についた。

 どうせ明日もその先も、同じような毎日が続くのだろう。

 俺はどこかでそう考えていたのかもしれない。


 ところが次の試験で、予想し得ない奇跡が起こる。



「7回目か…よし」



 俺は決意を固めて試験場に入って行く。

 通いなれた空気だ。

 それは勿論いい意味ではなく、耳をすませば嘲笑が聞こえてくるようで嫌になる。

 だが、ここで挫けるわけにはいかない。

 そう思って俺は一歩ずつ確実に歩を進める。


 試験場には外には魔法が飛び出ないような作りになっている透明な球体が置いてあり、そのすぐそばに試験官が座っている。

 大きなガラス玉のようなものだ。

 どういった構造になっているのか不思議だ。

 いつか知ることが出来る日がくるだろうか。

 そんなことを考えているといつもの試験官がまたか、といった目で俺を見てくる。

 この試験官とはもう顔なじみだ。

 はは、うれしくねえ。



「また君かね…このランクで諦めずに7回も挑戦してくる子はそういないぞ?」


「諦めませんよ」



 笑って答えた俺にやれやれといった具合に期待のかけらも見えない目を向ける試験官。

 メンタルの強くない俺には少々こたえる視線だ。

 ……まあもう慣れたが。

 はは、うれしくね……あれこれさっきも言った?


 そんな自分に嫌気がさしながらも準備を整える。

 例え1パーセントでもあるなら俺は何だってやるさ。



「やるだけやってみなさい。一定の大きさ以上の魔術を使えれば合格。……開始」



 試験官の合図と共に魔力をためていく俺。

 杖を持つ手に無意識のうちに力が入る。

 だめだ、落ち着け俺。

 ビークールだ、よし。


 落ち着いて、授業や講師達のアドバイスを思い出してゆく。

 体の中心に力をため、それを呪文と共に解き放つ感覚。

 それを全身を使って実践する。



「……『フレイム』!」



 俺はギュッと瞑った目をゆっくりと開く。

 ……やはり小さい。

 指導の通りにやったはずだが、今俺に見えているのは人魂サイズの火の玉だ。

 合格にはひと回りもふた回りも足りない。

 しかし、どれだけ力を込めてもやはり大きくなる気配はない。

 やっぱ…-才能ねえのかな……


 できる限りのことはした。

 先生には勿論、恥をしのんで友達にもアドバイスを求めた。

 書物を読み、体を動かした。

 そうしてわかったことが一つ。

 ──努力と実力は比例しない。


 現実は、非情だ。

 目の前の酷い魔術を眺め諦めかけた俺は、教わっていたコツやアドバイスを全て頭から追いやった。

 そして剣を振る時のように、若干自棄になりながら叫んだ。



「燃えやがれ畜生!」



 その瞬間。

 目に飛び込んで来たのは球いっぱいの炎だった。


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