第十八話 忍び寄る暗雲
少しずつ長めになっていく…
街がざわついている。
まあ、これが俺様の狙ったこと、もとい上層部の狙ったことなんだが。
男が皇居から街を見下ろしそう言った。
軍国ヴェーリエ。
その実態は国民全員が兵として管理されており、徴兵令がでれば徴兵されることは義務である。まあ、一部の女性と子供は例外的に除かれるが。
そしてヴェーリエには最高戦力部隊である国王直属騎士団が存在する。その構成は隊長、副隊長、七幹部が存在し、そしてその七人に一部隊2000人の精鋭部隊があたえられているという、圧倒的戦力なのである。それに加え、徴兵による国民の兵団。まともな白兵戦でこの国の軍に勝てる軍はそうないだろう。
そして何を隠そうこのマギロデリアの皇居でほくそ笑む一人の男、名をダリエラ。彼こそ、七幹部のうちの一人なのである。
「クク…これで後は内部崩壊を待つだけ…ちょろいもんだ」
彼は隠密行動を得意としていた。だからこそ、会議でこの任務ーーーつまり皇居に侵入し人質をとり、脅迫することで混乱を引き起こすことーーーが出た時、自分が最も適任だと信じて疑わなかったのだ。そして実際、このときまでは何の弊害もなくことは運んでいた。
そう、このときまでは。
ダリエラは、まさか隠密が得意な自分が隠密で、それもまだ若い魔法学校の生徒に討ち取られるとは思いもよらなかったのである。
実際、彼は素晴らしいほどに手際良く、任務を遂行していた。
今回はばれてはいけないので、腹心の部下二名だけを連れ、予定通り権力を持った独立貴族の成り上がりである皇族、カザート卿、現カザート皇の住居に音もなく侵入、一瞬にして人質を確保した。
ここまででたいしたものなのだ。
だが。
ここでダリエラは油断をした。
任務は完了したも同然だと軽く見ていたのである。
ばれるはずがない。
彼もまさか霊などという存在は想定していなかったのだから。
「もう少しで終わるぜ、カザートさんよ」
「くっ…」
カザート皇にはどうすることもできない。まさに絶体絶命だった。
しかしここでダリエラは異変を察知する。手下二名のうち一名と音信普通になったのだ。
あの二人には屋敷の外を監視させている。何かあったのか。
不審に思ったダリエラはもう一度だけ通信を図った。
「おい、どうした」
「ハッ、すみません!通信機器の不具合でございます!異常ありません!」
「同じく、以上ありません」
ただの機械トラブルだったようだ。一安心するダリエラ。
しかし事態は見えないところで進行していたのだ。
安心して寝転がり、目を閉じかけたその時。束の間の安心は恐怖へと変わった。
見知らぬ気配が4つ、感じられたからである。
彼は曲がりなりにも幹部。それほど甘くはなかったのだ。
しかし幸運にも、いやダリエラにとっては不運にも、気づくのが遅すぎた。
目の前に飛来してきた物体に、反射で短刀を振りかざす。
反応は上々だった。…が、飛んできたものは部下だった。
ダリエラが振りかざした短刀は無情にも部下の体を引き裂く。
無意識とはいえ、ダリエラは部下にとどめをさす形となってしまったのである。
そして仲間の身体から噴き出す血液がダリエラの視界を奪う。
その瞬間を見逃さず黒髪の男が火魔法を放った。
「くっ!」
全力の反射でかろうじて直撃は避けたが、右腕に当たってしまう。
「チッ…やべえな…」
ーーーーー
よし。うまくいった。
予定通りイサナの先導で見張りの二人を背後から無力化し、内部へ侵入。
そして現在。
敵は火魔法を直撃はしなかったものの、右腕にくらって黒焦げだ。もうあの腕はもう使えないだろう。
しかもこちらは四人で囲っている。
この時点で勝ちは決まっているだろう。
しかし。
この後俺は自分の甘さを呪うことになる。




