第十六話 シリアスは唐突に
次話です
いつまでたってもイサナはいなくならなかった。飽きるほど市場へ行って、一日中遊んでも満足しなかった。
これだけ連れて歩いてて変な噂の一つもたってないのが不思議だ。
どうしたら満足するんだよ。
「なあイサ…っていねえし!」
最近あいつはアグレッシブすぎる気がする。なんかあったらどうするんだ。
それにしても最近先生達やお偉い人たちが騒がしい。何かあったんだろうか。
俺がその理由を知るのはその翌日だった。
翌日、どこもかしも一つの話題で持ちきりだった。ニュースも、その辺のおばちゃんの井戸端会議も、アカデリアも。
こういった類の話は身近には関係ないと思っていた。いや、そうであって欲しいと思っていた。
でも。それでも。
現実は受け入れなくてはならない。
魔法都市マギロデリアは、その国ごと、奴隷へ身を落とそうとしていた。
皇族の一部が軍国ヴェーリエの軍門に下ると言い出したのだ。理由は不明。唐突な事だった。
授業が急遽中止となってしまい暇をしていたところ、急に部屋のドアが開いた。突然で驚きながらも目をやると、そこには切羽詰まった様子のイサナがいた。
「やっと帰ってきたか。全く一人で出るなら何か一言…」
「ソウ。」
「!」
いつもと違った真に迫ったイサナの表情に俺は言葉を詰まらせる。今まではこんな事はなかった。
俺が叱った時も。
俺に怒った時も。
出会った時も。
いずれも真顔に近くはあったが、感情が見て取れたーーが。今回は違う。無表情で、言うなれば緊迫した顔で、イサナは告げた。
「例の皇族は脅されておる。ヴェーリエの刺客が皇居に侵入し、財産及び家族を人質にして話を進ませようとしておるのじゃ」
「は!?」
「これは交渉でも何でもない、れっきとした侵略、じゃ」
「…おいおい、何の冗談だよ」
全く、何を言い出すかと思えば。そんな洒落にならないような冗談をーーー
イサナは。
ただ俺を見据えていた。その瞳は十分すぎるほどに冗談ではない事を物語っていた。流石に俺もそこまで馬鹿じゃない。
だが。腑に落ちない事はたくさんある。
「分かった、信じるよ。でも…どうしてお前は」
イサナは。
この目の前の何の変哲もない幼女は。一体どうして、否、どうやって。
「お前はどうやってその情報をしいれたんだ?」
無論、この情報を他の人が知っているかもしれない。噂になっていて、それを偶然聞いたとか。しかし、それならばみんなが疑問顔をする理由が見当たらない。悩むべくもないはずだ。
「それは…」
「誰だよお前ら?」「む、こっちが聞きたい」
イサナが口を開きかけたその時。俺の部屋の前で口論が聞こえた。だいたい予想がついたのでためいきをつきつつドアを開ける。
現在俺の部屋には俺、イサナ、ケンタ、ロイ、ルナの5人が座っている。
部屋の前で鉢合わせしたらしいのだが、前々から紹介しようと思っていたので丁度良かったとばかりにまとめて部屋にいれたのである。
そうしてお互いの紹介が終わったので俺は本題、つまりイサナに聞いたことについて皆に話すことにした。
次でやっとそれらしい戦闘に入れるかも…です