第十一話 すれ違い
前話のソウ目線です
俺は今貴重な体験をしている。必死の説得。つまりニゴシエーションだ。よく人質をとった犯人にするやつだ。
「もうやめましょう、親御さんは泣いてますよ!」
「貴様…ふざけてるのか!?」
…交渉失敗だ。もちろん俺がいるのは立てこもった犯人の前ではない。そう、闘技場だ。詳しくは二話前を参考にして欲しい。ていうか面倒くさい。多分今俺はここまで人間表情を殺せるのか…と言うほどに無表情だと思う。
「やれやれ…で、何を賭けるんです?」
「む…勝ってから決める!」
「うわ…めんどくさ…」
「何!?」
どうにかしてなかったことにできないかと思ったが、それは叶わないようだ(約束を放棄して逃げようと思ったが、ロイの取り巻きに連行された)。拉致はいかんだろ…
「まだ?」「早くやれよー!」「ロイさーん!」
わずかな観客が急き立てる。
開始の合図だ。だが俺は仕掛けない。なぜならこの手の輩は勝ったら勝ったでその後突っかかってくるからだ。うまく立ち回って引き分けかいい感じに負けることにしよう。
ロイは余裕をかましながら火魔法を連射してくる。俺はそれをいかにもギリギリと言った具合でかわしながらやりすごす。
ロイが煽ってくるが気にしない。そろそろ飽きて来たのでいい感じに負けようとした…その時。
「全く…貴様に魔術を教えた者もさぞ凡庸なんだろうなァ…」
ブチッ…
「…あ?」
ここで堪忍袋の緒が切れた。フィオ馬鹿にするのは絶対に許さない。
そう、フィオのメンツを保つために仕方なく倒すのだ。
ロイがトドメをさそうとしたのか、特大の火球を放ってきた。やつは自信満々そうだが、こんなのフィオの魔術に比べたら下の下だ。
俺は頭の中でイメージする。そしてそれは、現実となる。
次の瞬間地面から水が勢いよく噴き出した。間欠泉のようなイメージだ。予定通り俺の魔術はロイの魔術をかき消した。こっちを見たロイが信じられないという顔をしている。俺だってこの一週間遊んでいた訳じゃないんでな。
そこでいい作戦を思いついた。
「師を愚弄したのは絶対に許しませんが、ハンデとして魔術を使わずに倒してあげますよ」
俺はそうハッタリをかましておく。ロイを倒すのはわけないが後々恥ずかしくなるような負け方をさせてやりたい。俺は杖を剣のように構え、駆け出した。だがここで俺はある工夫を施した。こっそり足に風魔法を纏わせ、高速移動をしていたのだ。だがロイは俺の言葉をすっかり信じ、慌てて上空へ避難する。俺はすかさず風魔法で気流を少し操作し、落下地点を誘導する。予定通りの位置に落ちてきたロイに俺は杖を突きつけこう言った。
「勝負あり、ですね」
…勝っちゃった。いやあ、怖かった。いや、ほんとほんと。あんな風に倒してやるとかフィオのためとか大見得を切っといて負けたらどうしようって内心ガクブルでした。実際勝てて心底ホッとしているし、自信にもなった。結果論でいえばロイに感謝だな。…いやそこまでする義理はないか。
一応ロイへ勝った見返りとして召喚石の件について正直に話すよう言っておいた。これで俺が間違ってたら赤っ恥もんだな、うん。
まあこれから会うこともないだろうからーーー
ちなみに、この時俺は昇級試験に受かっていたので、ランク5の教室で席についていた。
俺が何気無くドアの方に目をやり、目があったのは…
「まじかよ…」
驚愕に顔を染めた、ロイ・ベリンジャーだった。




