第十話 決闘
たてこんでて遅くなりました、次話です
僕はロイ。ロイ・ベリンジャー。貴族、ベリンジャー家の御曹司。アカデリアランク4。
今僕は訳あって闘技場に立っている。精一杯の怒りを込めて対面の奴を睨みつけていると、奴が芝居がかった喋り方でこんなことはやめようと言い出した。くそっ、どこまでも馬鹿にしたやつめ。
奴は渋っていたが、諦めたようだ。腰にさしてあるアカデリアで配布される初級杖に手をかける。
まだ?などと僕と仲のいい友人や興味本位で見ていた奴らが急き立てる。来るなと言ってあったのだが。
開始の合図がかかる。だが、あいつはしかけてこない。そんなことは予想通りだ。なぜなら奴は魔術がほぼ使えないからだ。どうしてランク4にこれたのかも不思議なほどに。そのくせ、僕の話にはあしらうような態度をとる。
要するにこの戦いは絶対に僕が勝てるようになっているのだ。今までの無礼を粛清してやる。
予定通り僕は得意の火魔法を連射する。奴は体を捻って避けに徹しているのでそう簡単には当たらない。
「どうした?そのままじゃいつまでたっても勝てないぞ?」
からかってみたが効果なし。このままでは負けないが、勝てない。攻撃は当たらなくては意味がないからな。これはさっさと勝負を決めてしまった方がいいかもしれない。
「全く…貴様に魔術を教えた者もさぞ凡庸なんだろうなァ…」
「…あ?」
その時、奴の空気が変わった。僕の位置からでも分かるほどに殺気を放っている。いっちょまえに杖を構えてこちらを見据えている。それにビビったわけではないが、さっさときめてしまおう。
「はぁぁ…『隕石』!」
僕の最大の魔術である大きな火球がやつの頭上へ落下していく。これをここから避けるのは不可能だ。同等以上の魔術でかき消すしかない。
野次馬達から歓声があがる。
僕が勝ちを確信したその瞬間。
火球がかき消されていた。
「ーー『逆滝』」
「な!?」
何が起きたか分からなかった。僕が最大魔術を放ったのに奴はなぜ立っている!?
僕と野次馬たちの顔が青ざめているのを一瞥し、やつはこう告げた。
「師を愚弄したのは絶対に許しませんが、ハンデとして魔術を使わずに倒してあげますよ」
次の瞬間、やつが凄い速度で突っ込んできていた。速い。速すぎる。慌てて風魔法で上空へ避難する。するとやつは杖を剣のように構えて落下位置へとかけてきた。すかさず僕は火魔法を放つ。しかしやつは。本当に魔術を使わず、僕の怒涛の火魔法をかわし、受け流し、弾き、近づいてきた。その速さは人間のそれをはるかに凌駕している。そして顔をあげると僕は…喉元に杖を突きつけられていた。
「そん…な…」
「勝負あり、ですね」
あいつが僕に要求してきたのは召喚石が本物かどうか鑑定してもらいもし違ったらそれを皆に話して謝罪する、というだけのものだった。
しかしやはり僕は完敗だったことにイライラして、昇級試験で必要以上の魔術を使ってしまっていた。まあ合格だったのだが。
いつまでも気にしてても仕方ない。折角ランク5になったのだから、気分も切り替えてーーーー
「…なっ!!?」
僕の目に憎たらしい黒髪の少年が映っていた。




