表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

紅葉の天婦羅

作者: 大熊猫

「紅葉、綺麗だね」


 彼は舞い落ちた一葉を手のひらに乗せてそう言った。ふんわりと、ほにゃりと、そんななんとも形容し難い笑顔が好きだった。


「うん、きてよかった」


 彼に私も釣られて頬がゆるんだ。胸のあたりがあったかい。でも、心臓の鼓動は落ちついていて。


「あ、そうだ。ねぇ、知ってる? 紅葉って食べられるんだよ。関西ではね、紅葉を使ったお菓子みたいなのがあるんだ」


 でも、こう、ちょっと、ずれてるような気もする。水族館に行って、鰯の群れを美味しそうだとか、鯨を見てあれで何日分の食糧になるんだろうとか。そんな、おかしさ。

 でも、紅葉を食べるなんてちょっと興味惹かれてしまった。


「え、紅葉って固そうだよね? それをどうやって食べるの?」


「食用の紅葉の樹があってね。その葉っぱを丁寧に洗って、一年間以上塩漬けにするんだ」


 食用の紅葉があるなんて。そもそも、紅葉を食べようとしたことに驚きだった。食にかける情熱はすごいものだ。


「それでさ、塩抜きをして形を整えた葉っぱを、お砂糖と胡麻で味付けして、衣をつけたら、菜種油で天婦羅にするんだ」


「一年も塩漬けにするなんてとても手間かけるんだね」


 そこまでして、紅葉が食べたいのか。なんというか、河豚の毒を避けるかのようだ。河豚を食べたことはないけれど、あの、毒がどこにあるか判断できるようになるまでどれくらいの時間をかけたのだろう。どれだけの人が挑戦したのだろう。

 紅葉を食べる執念にそれと近いものを感じた。


「まぁ、これはあくまでも美味しく食べるために行うことなんだけどね。元々は、食用紅葉や砂糖を使わず、普通の紅葉をそのまま天婦羅にしたみたいだから」


 僕も食べたことがないんだけど、と彼は恥ずかしそうに言った。薄い朱に染まった頬は紅葉のようだった。繊細で見ていて美しいと思う、そんな紅葉。


「それってさ、どこに行けば食べられるの? 折角だからさ、旅行に行こうよ」


 彼と一緒に食べる紅葉の天婦羅はさぞかし美味しいことだろう。


「大阪だよ。ちょっと遠いけど。うん、食べ歩きの秋だね。行こっか」


 これからの話しに花を咲かせていると、いつの間にかに公園の出口まで着いてしまった。

 黄色と赤の絨毯はそこで途切れていて、異界との境界線みたい。

 きっと楽しい旅行になるだろうな。そんなことを思いながら帰り道を歩き始めた。





 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ