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無名の剣士  作者: むー
第一章
6/31

5

多くの方に見ていただき非常にうれしくおもっています。

ありがとうございます。



 いくら瑠璃子といえど、その一撃は避けきれなかった。

 今までの必殺は最低限、横に回り込んでから繰り出していたから、スピードや破壊力はでなかったが(それでも人が気絶するくらいの威力はある)

 今度のは体の勢いをそのままに最短で突き入れたのだ。

 食らった方はただじゃすまない。

 案の定、瑠璃子の体は何メートルも吹き飛んだのだった。

 さすがにこれは見ていた審判もギャラリーも驚いた。慌てて瑠璃子に駆け寄る。


 誰か担架持ってきて!

 いやそれよりも救急車呼べ!


 みんな慌てふためいている。誰がどう見ても病院送り直行である。

 その状況を作り出した当の本人はどこ吹く風だ。


 さて終わったしあとは任せて帰るかね、と無責任なことを考えて後ろを向いた。

 その瞬間ざわめきが起きた。

 

(なんだよ、文句あんのか?)

 

 そう思って振り返ってみる、何と瑠璃子が立ち上がろうとしていたのだ。 

 どう考えても立てるはずがない、手応えはこれ以上ないくらい完璧だった。

 

「ぅ……ぁ……」


 うわごとのように何かを呟き、竹刀を杖がわりにしながら、なんとかその場に踏みとどまっている。

 いつ崩れ落ちてもおかしくない。

 というより、まともに意識があるのか疑わしいくらいだ。


(おいおい……)


 さすがにこればかりは渚も本心から呆れた。


「お前まだやるのか?」

「…………」


 答えはない。やはり意識がないのだろう。

 ただ、絶対に諦めないという意思の力だけでその場にいるようだった。

 無論こんな状態でやれるはずがないのだが、虚ろな目でこちらを睨んでくる。


「どうにもわからないな。

 お前がここまでしてオレに剣道をさせたい理由はなんだ?

 そんなに出たい大会なのか?」

「…………」


 答えが返ってくるはずがないのに、さらに続ける。


「お前がその竹刀を置かない限りオレはお前を打たないといけないんだぞ?」


 その一言はさすがに周りの目を厳しいものにする。

 これ以上やるんですかと。


「あーすっかり悪者だな……オレを責める前にそいつに竹刀を置くように言え」

「……」


 あたりはシーンと静まり返る。


「それじゃあオレは帰るぞ」

「ぁ……」


 本当に帰ってしまいそうな渚の気配を察したのか、身じろぎする。


「あのなぁ、ほんといい加減にしろよ。お前はもう戦える状況じゃないんだよ。

 これ以上オレは打ち込むつもりはないし、周りだってそれを止めるだろう。

 お前の負けなんだよ」


 それでも瑠璃子は諦めない。竹刀を握りなおす。


 …………。

 剣道場は異様な静けさに包まれた。

 

 渚自身、いまさら剣道部に入るなんてまっぴらごめんだった。

 ましてや大会なんて冗談じゃない。

 しかし瑠璃子は瑠璃子でどうしても引けない理由があるらしい。

 意識のない状態でも諦めようとしない。

 ギャラリーにいたってはこの状況に割って入るほどの勇気はないのだろう。

 誰もが俯いてしまう。

 

 そんな中、渚はゆっくり考える。

 大体からして最初の出会いからして普通じゃないと。

 すべて計画通りに進まないと。

 仮にもこちらは本気を出したんだ、そのこと事態、驚嘆に値する出来事なのに、それを食らって立ちが上がるなど非常識にもほどがあると。


 まったくもって面白い奴だ。

 

 純粋にそう思った。

 そしてコイツに対してある感情が芽生え始めたのも事実だった。


 ここで勝ち名乗りを上げて帰るのは簡単だ。

 だが、そうしてしまってはこの奇妙な縁に対して勿体無い気がした。


「オレはなぁ昨日の一件もあるんだが、もう剣道をするつもりが無かったんだよ。

 本当だったら竹刀を持つのも嫌なんだ。これだけはわかってくれ」

「ぁ……ぇ……」


 理解しているのか定かではないが瑠璃子がいやいやと首を振る。


「お前は負けたんだよ。約束通り剣道部には入らん」

「うぅ……」


 泣きそうに唸る。

 そして終わらせまいと今にも襲いかかってきそうだ。

 それをみやって。


「だが気が変わった」


 ピクリと瑠璃子が反応する。


「お前が目を覚ました時、まだオレにこだわるんだったら理由を話に来い。

 どうしてそこまでオレに入部させたいのか一から全部だ。

 それの内容しだいでは……まぁ入部はしないが、ここに教えに来てやってもいい」


 それを聞いて周りが恐怖した。

 瑠璃子が吹っ飛ぶところを目の当たりにしたのだ。

 誰もが勘弁してくれと思ったに違いない。


「どうだ?」


 それを聞いて理解してなのかは分からない。

 もうとっくに限界は来ていたはずだ。

 返事がないまま瑠璃子の体から力抜け、そのままドサリと崩れ落ちる。


 その手からは竹刀がゆっくりと転がった。 

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