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無名の剣士  作者: むー
第一章
24/31

23

 気付けば新年は開け、新学年がスタートしていた。無事に二年生に進級出来た渚たちだ。

 

 そんなある日である。

いつものように瑠璃子に稽古を付けていたのだが、瑠璃子の剣に違和感を感じるのだった。

 気合が入っている、と言えば聞こえはいいが、明らかに力が入りすぎている。

 かと思えば、どこか上の空であるし、どうにも落ち着きの無い剣だ。


「おい、ルリ」

「はい?」


 いつもこの二人の稽古は渚の指導の声と瑠璃子の気合の声だけで、あとは息を付く間も無いほど打ち込むのだが、いつもと違う様子にさすがの渚も声を掛けざるをえなかった。

今の状態の瑠璃子に稽古をつけても、はっきり言って無駄だ。


「お前今日どうした? 雑念が多すぎる」

「……えっと、そうですかね?」

「あぁ、明らかに変だぜ」

「あーあれですね! ついにインターハイ予選が始まるんで、ちょっと気合入っちゃったみたいですね!」


 元々、嘘をつくのが上手くないのもあるが、今のは明らかに嘘だとわかる。


「ま、いいけどな。言いたくなったらいつでも言えよ?」

「…………」


 それっきり、瑠璃子は黙ってしまった。

さすがにこの状態で稽古をつけても身にならないので早々に切り上げることにしたのだった。

他の部員たちはまだ稽古するようだが、自分たち二人は着替えに戻った。


 着替えている間中も瑠璃子はずっと無言だ。

 渚も自分から問い質すことはしなかった。

 それは本人が話す気にならないと意味が無いだろうと思ったからだ。

 黙々と身支度を整え、着替え終わったらすぐに学校を出るのだった。


 二人並んで歩いて行く。

 たった半年ほどだが、夕方前に学校を出るのは随分と久しぶりの気がする。

 そう考えると、剣道を止めようと思っていたのに、未だ剣道をしている自分が少し面白い。


 以前の通学路は紅葉の時期で様々な色合いを見せていたが、今はどこからともなく桜の花びらが舞ってくる。もうすっかり春だった。


 こうして静な通学路を二人で帰っていると、急に瑠璃子が口を開いたのだった。


「ナギさん。私、バイト増やしてもいいですかね?」


 今まで母親と二人で暮らしている瑠璃子は、家計を助けるため、実はバイトをしていた。


 剣道をしながらAOもしてバイトもする。

 相当大変だろうに、平気でこなしているのだ。


「んー? どうしたんだ急に。買いたいもんでも出来たのか?」

「いえ、そう言うわけでは無いんですけど、もうちょっと稼ぎたいなーって思って。ただそうなるとAOの時間が削れちゃうかなって……」

「まぁあくまでアレはゲームだしなぁ。リアル優先でいいと思うぜ。メンバーには言っておくよ」

「そう言ってもらえて良かったです」

「まぁでも領地戦に出れなくなるのは困るがな」

「そうですよねー……」


 安心した声を出したすぐに後に少し落ち込む様子を見せる。


「何だ、そこまで予定あったのか?」

「いえ! そんなことは無いです。安心してください」

「お前の安心は、安心できねーけどな。ま、そんな改めなくて良いんじゃねぇか?」

「ありがとうございます」


 そんなやり取りをしたのだった。

 別段、渚に許可を取る必要は無いように思えるが、今の自分たちは一蓮托生と言うのだろう。

 誰かが引退すれば、それだけで今の連合がどうなるかなど、簡単に想像が付く。


 ここでいつもの分かれ道に来たのだった。

 渚と瑠璃子の家の方向が変わるので、この場所で分かれるのだが、今日は何やら瑠璃子が話したそうにしていた。


「どうしたよ?」

「いえ、えっと……」


 何やら言いづらそうにしている。

 こういう時の瑠璃子を急かせるのは良くないのは過去の経験から学んでいる。

 だからゆっくり待っていたのだが、

 ――rrrrrrrrr!!

 渚の携帯電話が鳴るのだった。


「瑠璃子わりぃ、出るぜ」

「あ、はい」


「おーカナからだわ。――もしもし?」

『もしもしナギ姉!? 今どこにいるの!?』

「ちょうど分かれ道のところにいんだけど、そんなに慌ててどうしたんだよ?」

『ちょっとAOで大変なことが起きたの!! 早く帰って来れない!?』

「はぁ!?」


 驚いた渚だった。

 新設とは言え、ギルドを作ってからそこそこの期間になる。

 ちょうど安定期に入った時期なのだ。

 それにも関わらず、香奈がこんなに慌てて連絡してくるということは……。


 嫌な予感がした。


『詳しくは家に帰ってきてから話すから! 早く帰ってきて!!』

「わかった、ちょうど瑠璃子もいるからコイツも帰らせる」

『了解! じゃあ待ってるよ』


 そう言って電話を切ったのだった。


「大体はわかったか?」

「えーっと……何か不測の事態が起きたってことくらいしか……」

「オレも詳しくはわかんねーけど、とりあえずカナのあの様子じゃよほどのことだ。急いで帰るぞ」

「…………」

「何だよ?」


 瑠璃子が返事をしなかったのだ。

 先ほども何か言いたげだったのも気になるが、あの香奈の慌てようも気がかりだった。


「ルリ、まだ言いたいことあるのかもしれない。どんな話かわかんねーけど、今ここで悩んでるんだったら、ちゃんと聞いてやるから心の準備をしてからまた来いよ」

「……そう、ですね。そうします。なんだかネギさんがすごくやさし……」


 少し困った笑顔で言ってきたのだった。


「んなことねーよ。オレはただカナの話が気になって、早く帰りてぇだけだ」


 そんな渚の言い分を聞いて、今度はくすりと可愛らしく笑ったのだった。


「そうですね、気になりますし早く帰りましょう」

「あぁ。じゃあまたゲームの中で!」

「はい!」


 最後にそう言って別れたのだった。


 瑠璃子と分かれてから全速力で戻る渚だった。

 この時間、この道は人通りも少ないのでリミッターを解除する。


 瞬間、渚が消えたと錯覚するほど加速する。

 そのスピードはいくら走っても衰える様子を見せず、トップスピードのまま駆け抜けるのであった。


 あっと言う間に家に到着したのだった。

 慌ただしく玄関を開け、乱暴に靴を脱ぎ、傍にある階段をドタバタと駆け上がり、二階にある自分の部屋に飛び込むのだった。


「カナ!」


 大声で叫ぶ。


「ナギ姉! ちょっと早く、これ見てよ!」


 尋常ならざる様子だった。

 渚の姿を見るなり、パソコンを寄越してくる。

 着替えるのもめんどくさく感じ、そのまま覗き込むのだった。


「――ッこれは!?」


 画面一杯に写っていたものはゲーム内メールの文章だった。


「なんだ、これ……?」

 

思わず呟いてしまったのだった。

 ギルド転覆の危機かと思い、駆けてきたのだ。拍子抜けもいいところである。


「良いから読んでみて!』

「お、おう」


 香奈の剣幕に素直に従う。



 差出人:ヴォルフ

いきなりのメールで失礼致します。

南国でギルドを運営しているものです。

この度、消極的な情勢の南国から、戦闘が一番盛んであるそちらの国へ移民したいと考えました。

当然、ギルド構成員15名全員で、です。


その為、受け入れ先を探しています。

等ギルド内で相談したところ、貴ギルドである『新風連殿』が良いのではないか、という話が大多数を占めました。私も同じ考えです。


他国の住人から見て、今まさに『新風連殿』が中心で物事が動いている気がしてなりません。

その末席に、我が『ウルフ隊』を加えていただきたいと考えています。

そのため、このメールを『LuLi氏』『negi氏』『kamo氏』に送っています。


なるべくでしたら、今週の領地戦に間に合うように可否の返事をいただければ幸いです。

詳しい話は直接チャットルームを作り、話をしたいと思っています。

よろしくお願いします

『ウルフ隊』マスター:ヴォルフ



「これは、やばいな……。」

「うん、この話を受けたら、ウチらの戦力がいきなり15人増だよ」

「いや、そこじゃないんだ。そこもそうなんだけど、ウルフ隊って言ったら超有名なんだよ」

「どういうこと? 悪い意味で有名なの?」


 ネットゲームはどうしてもそう言う要素がある。

 画面の向こうには人がいるのだ。当然マナーが重要視される。

 ノーマナーな行為をすると、すぐに晒し板と呼ばれるところで名前を晒される。

 それが蓄積するとゲームプレイに影響が出てくる。ギルドに入れてもらえなかったり、取引をしてくれなかったり、色々だ。

 香奈はそう言う意味で聞いたのだった。


「さすがにちげぇけど、ウルフ隊ってのはガチの少数精鋭なんだ。15人しかいなのに砦を取り損ねたことが無いほど優秀、一騎当千を地でいく強者ギルドなんだよ」

「なんかウチらみたいだね……」

「あー……確かに。オレらも何だかんだで取り損ねたことねーな」


 過去の戦績を思い返すと、結成初期こそ際どい戦いを繰り広げたが、それでも撮り損ねたことは無かった。

 今では安定して砦を確保できるまでになっている。


「なんでそんなところがうちなんかに……?」

「メールの文をそのまま読み取るなら、オレらのギルドに魅力を感じてるってことになるな」

「魅力……あるのかなぁ……?」

「さぁそれはなんとも。とりあえず話だけでもしてみるか。ってかルリの奴ログインしねーなぁ」


 メールを読み、香奈と話をしていたこともを合わせれば、そこそこ時間が経っていた。

 瑠璃子がログインしてもおかしくないのだがまだ掛かっているようだった。


「そういえば、そうだね。一緒にいたんでしょ?」

「ああ。まぁ確かにオレが早すぎたってのもあるかもな。リミッター解除したし」

「何て無駄なことを……! 誰にも見られてないでしょうね!?」

「ちゃんと確認したって、そんな睨むなよ」

「もう! いつもナギ姉はそうなんだから。自分が嫌がったんでしょ、目立ちたくないって」

「そりゃそうだけど、この場合しかたねーだろう、カナがあんまりにも脅かすから悪いんだぜ?」

「ウチのせい!?」


 本当だったら瑠璃子にも相談したいところだったが、事後報告でも大丈夫だろう。

 一応、メンバーにだけは告知を出しておく。

 今いるメンバーには概ね良好だった。


 『新風連』の目標は打倒『DT連』『AFG連』だ。

 そのため、今の戦力では到底及ばないのはみんな理解している。

 このタイミングで戦力増強を図れるなら願ったり叶ったりなのだ。


「んじゃまぁ、今いるかもしれないし個人チャット飛ばしてみるぜ」

「了解!」


(negi:こんちわー。今いるかね?)


 キャラが接続してない場合、そういうアナウンスが流れる。今回は流れないから相手のキャラは接続しているようだ。

 

「一応通じたけど、中身いるかどうかだな」

「んーどうだろ、いるんじゃないかなぁ」


(ヴォルフ:こんばんは)


「おっいたぜ!」

「スムーズでよかったね!」


(negi:メール見たぜ、詳しく話がしたい今いいか?)


「ちょっとー! 何でそんな雑な話し方なの!?」

「うるせーな! オレはいつもこうだろうが!!」

「だからって初めての相手にこれはないでしょう! もう貸して!!」


 そう言って渚のパソコンをぶんどる香奈であった。


(ヴォルフ:まさかこんなに早く連絡が付くとは思ってなかった)

(negi:こういう話は早い方がいいんじゃないかって思って)

(ヴォルフ:確かに、な。こちらの意見はもう固まってるからいくらでも質問受け付ける)

(negi:それじゃあ中立国の広場付近で合うのはどうかなー?)

(ヴォルフ:わかったすぐ向かう)

(negi:こちらもすぐ向かいます)


「とりあえずこれでオッケーだね」

「…………」

「どしたのナギ姉?」

「……何でもねーよ」


 そう言うだけに止めた渚だった。


 香奈と二人で移動する。

 中立国と言うのは、メイン3カ国とは別に存在する国で、ストーリー上の関係性は薄い。 だが、ここでしか売ってない特産品があったりと、利用率は割と高めの国だ。


「はえーな、もういるぜ」

「あ、本当だ」

(negi:待たせたみたいだな)

(ヴォルフ:まさか、カモネギコンビを見ることができるとはな・・・)

(kamo:ウチらそんなに有名なの・・・?)

(ヴォルフ:有名すぎるだろう!戦争する首脳陣でカモネギを知らないなんてありえない!)

(kamo:そ、そんなに?)

(negi:その話はあとだ。移動するぞ)


 広場で集まっている上に、カモネギが並んで立っているのだ。目立ちすぎる。

 この同盟の話はなるべく秘密裏に進めたいのだ。ばれるとマークされる恐れがあるからだ。


 こそこそと移動する。

 人気ない無いところへ進んでいくと、どんどん路地裏の方へ入ってしまった。

 いかにも悪の秘密結社が悪巧みをする。そんな場面がぴったりの場所である。

 ここまで移動してようやく渚が止まる。


(negi:とりあえずここまでくればいいだろう)

(ヴォルフ:何か、如何にもって雰囲気だな)

(kamo:これ見つかったら逆に目立つんじゃない?)


 確かに、人気のないところで三人が寄り添っているのだ。逆に目立つ気がする。


 香奈のキャラは隠密行動できるのでその場で隠れるスキルを使う。

 ヴォルフも同様だったようで、香奈に見習って隠れる。

 これではたから見たら、渚だけしかいないように見える。


(kamo:しないよりマシって程度で)

(ヴォルフ:気休めだがヤらないよりはいいだろう)

(negi:んじゃまぁ、話をしようか)


 ここからは専門用語交えて話をしていくのだった。

 さすがに歴戦ギルドのマスターだけあって、渚の話にしっかり理解し、解答していく。

 逆に鋭い質問を返してくるくらいだ。

 これには渚も香奈も驚いた。


(negi:なるほど。他国の状況はそんななってんのか)

(ヴォルフ:恥ずかしながらそれが現状だ。結果を見ればわかる。ここ最近の国家戦は)

(ヴォルフ:そちらの国の独壇場だ)

(negi:じゃあ、この国を選んだのは勝ち馬に乗りたいからか?)

(ヴォルフ:いや、そうではない。こちらの国はAFG連を始め、強豪どころがゴロゴロいる)

(ヴォルフ:そういうところと戦ってみたいと思ったんだ。これはメンバーの総意だ)

(negi:なるほどな)

(ヴォルフ:そしてこの国に来るのであれば、今一番勢いがある新風連ということだ)

(kamo:そういうことだったら大歓迎ですね。ネギ?)

(negi:ああ歓迎する。だが、一応マスターのルリがいねーんだよ)

(negi:こっちのメンバーの意見も良好だし、問題ないとは思うんだが、いま移民するか?)

(ヴォルフ:さすがに今すぐというのは急すぎる。だがいる奴らから聞いてみよう)


 そう言ってヴォルフが一度自国に戻るのだった。

 と、ここで瑠璃子もログインして来たため、渚も自国へと戻る。

 どこか寄り道をしてきたのだろう。明らかに帰ってくるのが遅すぎた。


LuLi:こんばんはーすみません遅くなりました。

negi:おせーよ!!!

kamo:まぁまぁ落ち着いて。話はまとまったんだし説明してあげてよ


 そこでヴォルフの話をしてやる。

 さすがの瑠璃子も驚いたようで、大はしゃぎだった。


LuLi:すごいですねー!!これで次週、挑戦してみますか?

negi:んー。さすがにどうかな。一応ヴォルフとも話してみるが

negi:演習やってから仮想DT連と戦ってそこからになるかもな

negi:おっと、ヴォルフから返事きた。

negi:いまから数人こっちにくるらしい。回収おねがいするだってよ

LuLi:分かりました!向かいますねー


 こうして、週末までに『ウルフ隊』を完全に吸収したのだった。

 人数の上では45人を超える規模になった。

 大手連合と名乗っても遜色ない人数ではあるが、その中でも下位に位置するだろう。

 質の面でみると、狙う首『DT連』を軽く凌駕しているだろう。

 総合力でみると五分五分と言ったところだ。


 あとはどれだけ連携が取れるのか?

 そこがポイントになってくるだろう。

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