22
その日から渚たちは忙しい日々を送るのだった。
平日は瑠璃子の稽古を付けるため、朝早くから起き出し、学校へ向かう。
昼休みも同様である。
少しでも時間があれば瑠璃子に稽古を付けてやるのだ。
放課後は時間がある為、より実践的な稽古を付ける。
とは言っても試合形式とはかけ離れたもので、傍から見ればチャンバラごっこに見えるだろう。
しかし、その内容は恐ろしいほど高度だ。
「遅いって言ってんだよ! 相手が動くの見てからじゃねぇ! 動き出しを押さえ込むんだよ!! もう一本!」
「はい!」
「めええええええええん!!」
渚が裂帛の気合を持って打ち込む。
それをしっかり反応して受け止める瑠璃子だった。だが、
「受けるんじゃねぇ!! 打つんだよ! お前が竹刀を止めてどうやって勝つ気だ!?」
瞬間、鍔迫り合いで瑠璃子を吹き飛ばし、そのまま面を叩き込む。
見事な引き面だった。一本である。
「ほら見ろ全く対応できてねーじゃねぇか! もう一本、同じ技でいくぞ!!」
「はい!!」
瑠璃子が返事をした瞬間には、打突を開始していた。
先ほどと同じように渚が飛び込み面を放つが、今度はそれを打ち落とし、面を返すのだった。
それは瑠璃子自身、会心の技だったに違いない。それほど完璧なタイミングだった。
飛び込み技とは一種の捨て身技である。それを完璧に返されたら一本を覚悟しなければならないだろう。
だが渚は瑠璃子の返しを楽々受けたのだった。
瑠璃子は驚愕の表情で固まる。
これでまた鍔迫り合いになり、同じように瑠璃子を吹っ飛ばし面を叩き込むのだった。
「邪念を入れるな!! オレを誰だと思ってる!? あんな程度で打たれるか!! もう一本!!」
「はい!」
こうして渚は瑠璃子を限界ギリギリまで追い込むのだった。
瑠璃子の強さは以前述べたように、別人になるかのような集中力だ。
それを引き出してからが本当の稽古なのだ。
そうやって打ち合っていると、ゆっくりと瑠璃子の体から青白いオーラが立ち上るのが見て取れた。
それを見やってニィと渚が僅かに笑む。
どういう理屈なのか分からないが、この状態になった瑠璃子は身体能力も反応速度も跳ね上がる。
まだまだ渚の敵になるには程遠いが、運動不足解消の貴重な相手くらいにはなる。
しかし、この状態はそんなに長く続かないようなのだ。素の状態と比べると三倍以上はスタミナを消費しているはずだ。
だからこそ、ここからは無駄な言葉を発しない。
無駄な動きもしない。
渚が一本取っても止めはしない。
一秒でも長く、密度の濃い稽古をするのだ。
そうして瑠璃子が完璧に集中しきったようだ。
それを確認した瞬間、今まで以上のスピードと手数を持って瑠璃子を攻め立てるのだった。
もちろん瑠璃子も超反応で受けるが、全てを受け切るのは不可能で、時々打たれてしまう。
それでも、渚の猛攻を大人しく受けるだけではなかった。
渚が引く瞬間に足捌き、攻めに転ずるのだった。
それだけでも驚嘆に値する。
先ほどまで手も足も出なかった瑠璃子とは思えないほどの技のキレだった。
鍔迫り合いでは何度も吹っ飛ばされていたのに、今ではしっかり受け流す。
この打ち合いは瑠璃子が動けなくなるまで続けられるのだった。
こうして、夕方過ぎまで稽古をし、帰宅する。
瑠璃子の場合、バイトもやっているので、不定期だが、そこからはAOの時間だった。
部屋に着くなり、即パソコンを起動させ、ログインする。
渚たちが作ったギルドの名前はすったもんだの挙句『新風連』になった。
最初は相談無しに瑠璃子が作ってきたのだった。
『チームケーキ屋さん』
その瞬間ゲーム内だというのに渚から殺気溢れ出したのは言うまでもない。
『チームケーキ屋さん』はわずか、30秒で解散の憂き目を見るのだった。
他にも色々と候補はあった。
『negiと愉快な仲間たち』
『カモネギ亭』
これだけでもネーミングセンスが最悪だとわかろうものだが、極めつけがこれだ。
『値切られる』
最初は意味がわからなかった。
説明を訊くと『negi連』のつもりで変換したら『値切れん』となったらしい。
そこから『ネギ』と『捻られる』を掛け合わせて『値切られる』となった。完全に謎だ。
何故、こんなにもギルド名を考えるだけで時間が掛かったのかわからないが、最終的に、目的がこの国家に新風を巻き起こそうということだったので『新風連』に落ち着いたのだった。
目下『新風連』の面々はやることが山積みだった。
そもそも初期メンバーが6人しかいないのだ。これではいくらなんでも領地戦で戦えない。
最低でも10人はほしいところである。
そのためメンバー募集に奔走する。
資金集めも大事だった。領地戦を戦っていくにはギルドに資本金が無いと話にならない。
本来であれば、領地を得ることでまかなえるのだが、新規に作ったギルドではそれが無い。
資金調達は渚担当となった。
豊富な知識を使って稼ぐ。
瑠璃子はマスター用に新しいキャラを作り始めた。
今まで使っていたキャラはマスターに向かなかったのだ。
マスターユニットに求められる能力は主に二つ。
『機動力』と『タフネス』だ。
ところによっては隠密性も重要になってくるが、とにかく大事なのが前述した二つである。
これはもう本人の努力次第としか言いようが無かった。領地戦の前までにどれだけレベリングできるかが勝負の鍵だ。
香奈は香奈で休止していた分の勘を取り戻さなければならない。
約一年ほど休止していたから、AOの世界も大きく変わっているのだ。
しかし、持ち前のセンスで埋めているところを見ると、領地戦までに仕上がるだろう。
全員が全員慌ただしく走り回るのだ。
時間などあっと言う間に過ぎていく。
そうして来る、領地戦当日。
さっちたちが頑張っておかげもあり、メンバーが10人になっていた。
だが、これでも領地を得るには足りないと思われる。とにかく参加して少数規模の戦い方を身につけるつもりで望むしかない。
基本的に戦う相手は二倍から四倍に当たる完全格上の連合ばかりだった。
同規模の相手など居る訳無いのだから当然だ。
始まった当初こそ、圧倒的な物量差に押され、何もできずの敗戦が続いた。
だが、一度や二度の負けで堪えるようなメンバーたちではなかった。
諦めず、何度も立ち向かっていくと、少しずつだが立ち回りが見えてきたのだった。
押すことはできなかった。
だが、退却戦に似た、引きながら戦っていくスタイルを確立するのだった。
そのおかげで、それなりの戦果が出るようになる。
それから何度目かのトライをしていると異変が起きる。
『DT連』が攻めてきたのだった。
さすがに先週の敗戦が効いているのか、人数は若干減った印象を受けるも、今の『新風連』で戦えるような相手ではなかった。
仕方ないので渚は戦場を変える。
そうすると、どうだろう。
『DT連』は同じように付いてくるのだった。
さっち:ネギさん
LuLi:これは狙われてますかね?
negi:ああ、まず間違いねーな。
ぷちこ:どうしますか?
さっち:何が何でもうちらに砦を取らせたくないようですね
negi:どうせ追っかけてくるなら、一当てしてみるかぁ
LuLi:狙いはなんですか?
kamo:相手の指揮は誰やってんだろうね?
negi:そこらへんの情報を収集してみよう。こっちの新スタイルは封印で!
negi:情報収集だけの戦闘で!!
kamo:了解!
あえて立ち向かうのだった。
腐っても鯛とはこのことかと思われるほど、『DT連』の圧力は、今日戦ってきたどの連合よりも強かった。
もちろん、確立した新スタイルを封印して戦った影響はあるにはあるが、戦線を維持できないほどのものだった。
ぶつかった瞬間にこちらが溶かされるのだ。
そんな中、香奈が意地を見せ、単独潜入しては翻弄するが、それだけだ。
10vs50だ。
これだけの物量差があっては後続が続くわけも無く、あっけなく撃破されるのだった。
渚はその間に次の戦場を見つけては、全員で移動する。
当然のように追いかけてくる『DT連』だ。
残り15分を切ったとき渚が作戦を変更したのだった。
negi:大体の状況は掴んだ。ヤラレ役すまんかった
kamo:ほんと、やられるだけってフラストレーション溜まるよねぇ
ぷちこ:この借りはいつか返しましょう
negi:その話はまた今度だ。残り15分・・・
negi:やるぞ!
あえて勝てないとわかっている、『DT連』と戦うことで、それと同時に各地の情報も仕入れていたのだ。
戦場を転々と移動していたのはそのためだ。
さらに『新生DT連』の状況もある程度把握出来たのだった。
新指揮官はオフィーリアだろう。
本来前線に立つはずの奴が大人しく後方にいるのはそれ以外に考えられない。
さらに中間指揮の穴は埋まってないように思えた。
だが、偵察能力は高いだろう。
『新風連』の後をしっかりとついてこれているのはその証拠である。
弱点は色々ある。もともと自分が指揮していた連合だ。
指揮官が変わってすぐ消えるものでもない。
残り15分と言うことは、さすがの『DT連』も遊んでいるわけには行かないはずである。
必ず本城となる場所を見つけるはずだ。
事実、先ほどから『DT連』の姿を見ていない。
今この一瞬『DT連』の目が離れたのだった。
その隙に自分たちも本城を作る。
少数規模の利点は小回りが効くところだった。
『DT連』の目が動く前に、その特性を活かして、確保予定地へ向かうのだった。
その先は運良く空家になっているとこだった。
ラストの時間で空家があるのは珍しい。
おそらく他の連合たちは、最後の激戦を繰り広げていて、偵察が疎かになっているのだろう。
ノーマークの砦を確保したのだった。
残り10分。
ここで、『DT連』も本城を作り終えたようだ。このタイミングで目に捕捉される。
程なくして『DT連』ご来場である。
迎え撃つ『新風連』だが、圧倒的な物量差は埋めようがない。
物凄い勢いで攻略されていくのだった。
だが先ほどと違う点があった。
新スタイルを使っているのだ。
攻略はされるが、撃破はされない。これによって建物破壊の時間を圧倒的に伸ばした。
先ほどとは全く違う手応えに『DT連』は自分たちの方からリズムを崩していく。
浮いた駒が出れば、取り込み倒す。
隠密行動しているユニットは、同じ隠密ユニットの香奈が処理していく。
膠着状態というには押されているが、このペースを保てば、逃げきれる。
残り5分。
第二ラインまで突破されるが、この瞬間に罠防衛を布く。
勘違いしている奴らが多いが、罠防衛の本家は『DT連』ではない。
本家本元はこの渚なのだ。
絶妙のタイミングで罠を敷かれ『DT連』は著しく行動力が落ちる。
negi:ここまで予定通りだ!この次、相手がやることは決まってる。ギルドスキルだ!
negi:相手マスターを捕捉しろ!スキル詠唱させるな!スペースを作らせるな!!
negi:いくぜえええええ!!
negi:全軍突撃いいいいいい!!
今まで守りに徹してきていた『新風連』が突如として、攻めに転じてきたのだ。
『DT連』は完全に虚を突かれた。
領地戦は多少の押し引きはあっても、防衛側が攻めることなど極稀だ。
ましてや、この人数差である。
一方的な蹂躙ゲームになると思い込んでいたのだ。
落ち着いて対応すれば、問題なかったはずだ。
しかし、中間指揮のいない弊害がここで出た。
全体を把握しきれていない、浅い指揮官の指示は末端まで通ることが無かったのだ。
一方、突っ込むことに成功した『新風連』は、マスターを発見する。
一度、二度、三度とギルドスキルの詠唱を止めることまでは出来た。
だが進撃もそこまでだった……。
物量差だけは、どう策を巡らしてもどしようも無かったのだ。
ここまで追い詰めておきながら、敵マスターを仕留めることが出来なかった。
最後は全員圧殺され、フリーになった『DT連』のギルドスキルが炸裂するのだった。
残り1分。
『DT連』の戦力であれば、楽々建物を破壊し、城主交換のフラグも折れるだろう。
だが、それは何も抵抗勢力がいなければ、と言う条件がつく。
negi:るりいいいい!!!ギルドスキルだあああ!!!
この時まで『新風連』はギルドスキルを使っていなかったのだ。
これにより、全員が城内の最奥で復活する。
これを見た『DT連』は完全お通夜ムードが流れた。
あれほどしつこく粘られ、ギリギリになってようやく息の根を止めた。
と、思ったらこれだ。
こうも鮮やかに復活されてしまったら、気力の方が萎えたのだろう。
そこから戦闘らしい戦闘も起きず、そのまま領地戦終了のアナウンスが流れるのだった。
結果を見ると『新風連』は逃げ切ったと見ていいだろう。
だがその戦闘内容はお世辞にも良かったとは言えなかった。
ただ必死に負けることから逃げただけで、勝とうとしてないのだ。
『DT連』が最後、諦めたから良かったものの、諦めず突っ込まれたらどちらに転ぶかわからなかった。
渚が指揮官であったなら諦めさせなかっただろう。ここら辺が指揮官能力の差と言っても良かった。
しかし、どんなに内容が良くなかったとしても『新風連』初参加、初砦である。
最後の最後まで諦めず抵抗した結果である。
この出来事は自分たちが思っている以上に影響力がでかかった。
住人たちは勝手に渚の時代は終わりだと決め付けていた。
実際、掲示板の流れもオフィーリアに操作され、全て渚の責任になっていたのだ。
それを完全では無いにしろ、一掃できたのだ。
『渚は未だ健在だ』ということを国家全体に知らしめたのである。
kamo:初勝利いえーい!
LuLi:やりましたね!!!まさか10人で確保できるなんて
ぷちこ:DT連から逃げきれるなんて思ってなかったです!
さっち:本当にそうですよね!
negi:色々あるけどな、でもこれではっきりした
negi:DT連は穴だらけだ。やろうと思えばこういうゲームもできるってわけだ
negi:だからみんな強くなろうぜ!!次ぶつかる時が奴らの最後だ
今回の領地戦で得られたものは思いのほかでかかった。
新スタイルの確立、狙う首の弱点、初領地の三つだ。
特に領地は新規連合『新風連』の資本金を生み出してくれた。
これにより、渚が資金調達の任を離れ、さっちたちと共にメンバー募集をすることができたのだ。
渚の悪いイメージがある程度払拭されたこともあり、negiというビッグネームを使って行うメンバー募集は思いのほか評判を呼ぶことになる。
次の週は前回の倍の人数、20人で挑んだのだった。
先週は執拗に『DT連』に追い回されたが、事実上の敗戦で、渚たちを追いかけてる場合ではないことを悟ったのだろう。
自分たちの弱点を埋める作業に入ったようだ。
20人という人数は、一勢力として見て良いものだった。
『新風連』は急激に数を増やした影響から若干の乱れは有ったものの、渚を中心に初期メンバーたちの努力によって着実に力をつけていく。
これだけ、学校生活もネット生活も忙しくしていれば、月日はあっと言う間に経つのだった。




