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瑠璃子の特訓が始まった。
「さーてとりあえずだが、お前がどれだけ動けるのかが知りたい。つーことで一万メートル走からやるぞ」
「い、一万メートルですか!?」
一万メートル、これは陸上競技の長距離走にあたる種目の一つだ。
これのタイムが長距離選手の一つの目安となっている。
ただし、大会でやる場合はトラックの上を走るため単純に持久力の戦いではなく、スピードも要求されるし、駆け引きの要素も入ったりするので、必ずしもタイムのいい方が強いとは一概には言えない。
だが、その人の能力を測るとするならこの上なく確かになるデータである。
「そうだよ。なんか文句あんの?」
「い、いえ……。文句では無いんですけど、ちょっと距離が長いんじゃないかなーって、思ったり、思わなかったり……」
「これくらいで駄々こねんじゃねぇよ。持久力は大事なんだぞ。お前オレとの試合で途中へばったろ? 最低でもあれくらいは耐えてもらわないと困るぜ」
「あ、あれはだって渚さんが……!」
「お前ねぇ、全国ともなると一日何試合もやるんだろうが、最後まで同じパフォーマンス発揮できなきゃ意味ねぇんだよ、これから毎日走らせるからな」
「ま、毎日ですか!?」
「だから、文句あんのかよ?」
そう言って、渚が睨んでくる。
最近瑠璃子は一つ賢くなったことがある。
こんなときの渚に何を言っても無駄だ、ということをだ。
「うぅ……分かりましたよぉ……」
涙目になりながら答えるのであった。
そうしてさっさと着替えさせられ、ちょうどタイミングよく香奈も来たようだった。
「おお、カナちょうどよかった。今からコイツに持久走させるから一緒に走ろうぜ」
「え、本当に? うれしーなぁ最近一緒に走ってくれる人いなかったから、良い練習になるよー」
「あぁ、ついでにオレも一緒に走るからよろしく」
渚も一緒に走ると聞いて大はしゃぎだった。
バババッと服を脱ぎ散らかし、チャチャチャッとウェアを着る。
そんなこんなで三人そろってグラウンドに出るのだった。
「ナギ姉、朝川さん、一応だけどこのグラウンド一周二百メートルだから50周ね!」
「はいよ」
「……はい」
渚はたまに香奈と競うこともあるので心得ているが、瑠璃子は……なんか嫌そうだった。
「私、本当に走るの苦手なんですよねぇ……」
「ここまできてガタガタ言うんじゃねーよ、諦めろ」
「そうそう、そんな苦手意識もたないで楽しもうよ!」
「うー……」
本当に、物凄ーく、嫌そうに唸る瑠璃子だった。
陸上部だったら一万メートルは朝飯前なのだろうが、そうじゃないクラブの人はあまり走る距離ではないだろう。
「(ナギ姉、とりあえず初めてだしペースどのくらいにする?)」
「(そうだなぁ、35、6分あたりにしてみるか?)」
「(んーでもここ土のグラウンドだよ? トラックと違うから、そのペースで走れるかなぁ?)」
「(仮にも運動部なんだからそれくらいできんだろ)」
「(まぁ、遅れるようだったらウチが面倒みるね)」
「(りょーかい頼むわ)」
以上お得意のテレパシーである。
ちなみに、女子高生の一万メートル歴代記録は31分台で、世界記録にもなってくると30分を切ってくる。
普通の陸上部であれば35分という記録は遅いほうかもしれない。
もちろん普段であればこの黒神姉妹はもう少し早く走るのだが、今回の目的は瑠璃子の体力測定である。一応彼女に合わせた設定をする。
「んじゃ行きますかー! スタート!!」
こうして始まった瑠璃子の体力測定であった。
この学校は熱心に部活に打ち込む生徒も少ないので、こうやって真面目にランニングする人を邪魔したりはしない。
しかし、このグラウンドは他の運動部も共同で使うので、色々なボールが飛んできたりして実は結構危ない。
時として人と人がぶつかる人身事故も起きたりする。
もちろん、ボールや人にぶつかったりするような姉妹ではないが、こんな環境では集中して走ることは不可能だ。
特に今回は瑠璃子がいるので気を掛けながら走る。
そう思っていたのだが、瑠璃子にはそんな心配は無用だった。
持ち前の集中力を発揮してしっかり渚たちについてくる。
そのピッチに乱れはないし、フォームに関しても素人ではあるがしっかりとしたものだった。
「(見た感じ、大丈夫そうだな?)」
「(まぁまだ始まったばかりだけどね)」
「(ちょっとペースあげるか?)」
そう渚が提案するくらい、瑠璃子の走りはしっかりしていた。
最初あんなに嫌がっていたから本当に走るのは苦手なんだろうと思っていたのだが、なかなかどうしてどうにいった走りだ。
「(別にこのままでいいでしょ、無理にペース上げて付いてこれなくなったら元も子もないし)」
「(そりゃそうか。りょーかい)」
ちなみに、渚と香奈はこうやってテレパシーするくらい余裕がある。
この二人が本気になって走りだしたら世界記録を塗り替えてしまうだろう(もちろんリミッター解除なしで)
そうなると注目を浴びてしまうので…………以下割愛する。
そうやって10周、20周していく。
30周したあたりでようやく渚たちの体があったまってきた感じだ。
瑠璃子の方を見るとこちらはしっかりと汗をかいている様子だ。
40周目にはいると、さすがの瑠璃子も息が乱れてきたようだが、その走りには変わらず力強さを感じる。
そうしてそのまま50周してしまったのだった。
「……カナ、タイムは?」
「35分半。ほぼ予定通りだよ」
「…………」
何事も起こらなかったのだ。
「おい、お前走るの苦手なんじゃないのか?」
思わずそう訊いてしまうほど瑠璃子の走りは普通だった。
渚の予想では途中のどこかでペースが落ちて、香奈が瑠璃子を励ましながらゴールするだろう。
そんなイメージだったのだが、心配して損したくらいだ。
しかし、さすがに余裕は無かったのかゼーゼー喘いでいる。
「に、にがてで、すよ。はぁ、なぎささ、んはさすが、ぁ、ですね」
そう、渚は薄く汗をかいているものの、呼吸の乱れはない。
香奈も言わずもがなである。
「うーん。これはプランの変更が必要だな。最初の予定だとお前はついてこれないと思ってたからな」
「そ、そう、なんで、すか」
「明日は33分くらいを目指すか」
「あ、あしたもですか!?」
「毎日やるって言っただろうが」
「…………」
もはや言い返す気力もなくなったのだろうその場に突っ伏した瑠璃子だった。
「おい何寝てやがる。体が温まったから次いくぞ」
「えぇ……もうですかぁ?」
「嫌ならいいぞ、オレは帰る」
「わ、わかりました! 行きます、行きますよー!!」
そうやってずるずると瑠璃子を引っ張っていく渚であった。
この時、香奈は先生に呼ばれてしまい、こっちが気になるようではあったが、直々の呼び出しとあっては諦めて行ったのだった。
そんなこんなで二人で進めていく。
渚は今日で全部測ってしまいたいようで、瞬発力を見たり、反射神経を測ったりと大忙しで測定していく。
そうして進めていく中で、渚は舌を巻く思いを味わうのだった。
どの記録も想定を大きく上回る結果になったからだ。
当初の予想では『女子高生』の枠でしかなかったのだが、瑠璃子はそんなものを三段飛ばしくらいの勢いで上回っていく。
もしかしたら、自分たちと同じくらいの身体能力を持っているのでは? と、思ってしまうほどだ。
その中で一番平凡的なのが持久力の記録なので、これを見る限り本当に苦手なのだろう。
そんな瑠璃子を見やって渚は『これは教え甲斐があるな』と内心笑ったのだった。
そんなこんなで全て終わったのである。
「それじゃあこれで全部終了かな」
「やっと、終わった……」
思わずため息を吐いた瑠璃子だった。
全種目を手を抜かず全力でやり、なおかつほぼ休み無しでやったのだ。
さすがの瑠璃子もヘトヘトになっていた。
辺りを見ると既に暗くなっている。
話しながら今日のクールダウンをしていく。
「よーくわかった。これで稽古の予定も立てれるぜ」
「本当ですか?」
「あぁ、つーかほぼ決めてたんだけど確信が持てたってやつだな。とりあえずお前、毎日10キロ走れ」
「…………」
「んで、その後俺と稽古する感じだ」
泣きそうな瑠璃子だった。
「そーいやお前さ、毎日素振りとかやってるか?」
「当たり前ですけど、やってますよ。それがどうかしたんですか?」
「いや、まぁうん、当たり前だよな……だがそれ止めちまえ」
「えぇ!? どういうことですか!?」
思わず瑠璃子は訊き返していた。
素振りとはどんな競技でも基本中の基本である。
野球しかり、テニスしかり、その素振りを止めろというのは異常に聞こえたのだ。
「いや、すまん。えっとな素振りはまぁいいんだけど、それよりも他のことに当ててくれってことだ」
「他のこと?」
「そう。すり足と足捌きを重点的にやってほしいんだ」
「はあ、いいですけど、何ですり足なんですか?」
「素振りも大事なんだが、お前の持ち味、返し技だろ?」
「さ、流石ですね……。そのとおりです」
昨日立ち会っただけで瑠璃子のスタイルを見抜いた渚だった。
自分の攻撃をあれだけ正確に反応し、最後には実際に返してきたのだ。
返し技剣士以外ありえないと思ったのだ。
「説明しても今はわからねぇと思うんだ。お前が真面目にやってればそのうちわかるから、今は訊かないでくれ。
素振りは素振りで大事なんだがな、お前の場合もっと大事なことが他にある。そういうことだ」
「そう、なんですかぁ……」
「すげー地味だけどな。オレがいないときは素振りするよりもこっちを重点的にやってくれ」
「わかりました」
渚はすり足をしろといったが、別に瑠璃子のフットワークが悪いわけではない。
小学生のころから身についているものがあるようで、悪いどころかとてもスムーズである。
そうでなければ渚の攻撃を受けきるなど不可能だ。
だが、渚にも思うところはあるようで、こういう風に言ったのだった。
そうしてクールダウンも終えて着替えに戻る。
その時、渚が何かに気が付いたようだ。
「あれって確か……」
そういって、タタッと行ってしまった。
ちょっと離れた場所で何かを拾ったようだった。
「どうしたんですか? 渚さん」
瑠璃子も不思議そうについてきた。
「いや、ヘアピン落ちててさ。しかもこれ、カナのだ」
「よく見つけましたね……」
「まぁ目は良いんだよ。実はこれオレが買ってやったやつなんだよ」
そう言ってカナのヘアピンを自分の髪につける渚だった。
こうして黙っていると香奈と見分けがつかない。
「そうなんですかー。ってそれ付けてると、ほんとそっくりですね……」
「そう言うなって。これでも一応オレなんだから」
「わかってますって」
「ん、今お前……」
そうやってニコリと笑う瑠璃子に対して、渚はちょっと不思議そうな顔をしたのだった。
そうして質問しようとした渚に、話し掛けてくる生徒が相次いだ。
部活の終わるこの時間、ましてやヘアピンを付けている渚を見て、香奈だと勘違いする生徒が続出したのだ。
続出というか……100%香奈だと決め付けて話し掛けてくる。
「香奈さんいま陸上部終わったんですかー?」
「俺はカナじゃねぇよ!」
「え!? ご、ごめんなさいっ!」
ヘアピンを外せばいいものを、つけっぱなしでいるから着替えてる最中ずーっと香奈香奈呼ばれていたのだった。
一気に不機嫌になった渚だった。
「間違えられるの嫌ならヘアピン外したらどうですか……?」
「っち!」
盛大に舌打ちした渚だった。
誰かしら気づくか? と、実験していたのだが、ここまで気づかれないとなると文句も言いたくなる。
「ってことで帰るぞ」
「は、はい」
そうして二人で学校を出るのだった。
そういえば、と渚は思った。
香奈以外と一緒に帰るのは初めてだなと。
読んでくださってる方ありがとうございます。
こんなことを書くのは、読んでくださっている皆さんに失礼なのかもしれませんが・・・
最近、迷ってます。
7話でゲームの描写を書きました。
私としてはこの作品はリアルの大暴れと、ゲームの大暴れを両立するものだったのですが・・・
今となっては別々に分けたほうがいいんじゃないかって・・・
リアルはリアルの作品で
ゲームはゲームの作品で
どうしよう
まよってます。




