第九話 四日目夜 優乃の初手料理 後編 8
「今までの僕の経験とか見てきたとこから言うと、好みと実際は違うんだ。人を好きになる時、そんなこと考えてないから。そんなこと考えてるうちはまだ、恋の初め、初歩だよ。冬美ちゃんはまだそんな所っぽいからね、だから可愛いって言ったんだよ。誰でも初めのうちはそうだけど。でも冬美ちゃんが急に大人っぽくなったら、冬美ちゃんに恋するかもしれないなぁ」
安はそう言って笑ったが、周りは笑わなかった。
「安さん、それ冗談に聞こえませんよ」
山川が真面目な調子で言った。
「えっ、そうか?いかんな。分かった、もしそういう道に走ったら山、殴ってでも止めてくれ」
安が不真面目に真面目な調子で答えた。
「どういう道ですか」
山川が笑った。
「すまん。冬美ちゃんの前では言えん」
「もー、何ですか」
冬美は怒ったが、みんなはそれで笑った。
私、大人っぽくないって言われたの、初めてかも。
冬美はそっと思った。
冬美、今日からあなたは私の恋のライバルよ。
優乃は恋の炎をメラメラと燃やした。冗談とは言え、安に可愛いだとか、恋するかもだとか言われた以上、放っては置けなかった。
そうこうしてる間に坂も上り終わって、で愛の荘に着いた。
山川がみんなに言った。
「それじゃあ、スパゲティ茹でておいて下さいね」
「ねぇ、ミートソース、山川が部屋に持ってきてくれるの?それともこっちから山川の部屋に取りに行くの」
雪が聞いてきた。
そう言えば何も考えてなかった。山川は少し考え込むと、すぐに言った。
「OK。分かりました」
出た。いつもの業者顔だ。
「今日は天気もいいですし、スパ屋山川亭を開きます。場所は、で愛の荘前です。早速開店準備ですが、机は俺から出します。立食形式でいきますね。冬美ちゃんがセッティング責任者です。テーブルクロスとかはないので、欲しかったら誰かから借りてきて下さい。机拭く布巾は用意します。他の人は各自でスパゲティを自分の好みの堅さで茹でて持ってきて下さい。こちらの準備もありますので、三十分後にここに来るようにして下さい。お願いします」
「山川、スパ屋と言うより、ミートソース屋なんじゃない。客にスパゲティ茹でさせるスパ屋なんて聞いたことないわ」
雪が軽口を叩く。
「そう言う言い方もあります」と山川は軽く流した。
「よし三十分後な」
安の言葉を合図に、全員が自分の部屋に戻って行った。
「冬美ちゃんはこっち」
優乃についていこうとする冬美を、山川は呼び止めた。




