第一話 出会い 5
「ふぅー」
優乃は、ため息をついた。
「…全然終わらない」
日もすっかり暮れたのに、箱を開けて中身を確認したぐらいで今日は終わってしまった。
「取りあえずメシ食うかぁ」とコンビニ弁当を食べた。
「…」
静かだった。弁当を食べる音が優乃には、やけに大きく聞こえる。
「そう言えば今年花見行ってないなぁ」
優乃はぼそりと呟いた。
部屋には荷物が広がっていて雑然としている。花見に行く余裕などありそうにもない。一人暮らしってもっと楽しいかと思っていた優乃だが、何だか寂しかった。人の気配というのだろうか、空気が動いてないような感じだった。箱には一人暮らしの期待がいっぱい詰まっていたのに、開けてみるとそこには生活道具が入っていただけだった。まだ実感が湧かないだけかな、なんて優乃は自分をなぐさめた。
蛍光灯の出す微か小さな音がやけに耳障りだった。
今までそんなの気にしたことも無かったのに…。隣の人は何してるんだろ?あっそうだ、お風呂入れなきゃ。ゴミってどうやって捨ててるんだろ?分別とか厳しいのかな?
優乃は急にバタバタと動き始めた。しかし、まだ持ってきた荷物も片づけてない状態では、タオルや石けん、シャンプーがどの箱に入っているかも分からない。ゴミも明日、あの二人か大家に聞かなければどうしていいかも分からない。ただ無駄にバタバタしただけだった。
「お母さん、あのさっ…あ、一人だったんだ」
ぽつん。
自分以外の音がしなかった。実家にいれば母親がご飯も作ってくれ、お風呂も洗濯もしてくれる。するしないと言うより、そこに自分以外の誰かがいる安心感がある。
優乃の部屋にあるいっぱいの荷物は、どれ一つとして優乃に話しかけてはこない。存在をアピールすることもない。優乃が触れなければ動くこともない。
どれだけの物に囲まれていようと、家にいた時のような安心感なんて求めようがない。心細かった。
自分の体がどんどんやせ細っていく錯覚すら感じた。
急に目の前が暗くなってきた。空気がじめじめして重く、優乃を押しつぶしてきた。
く、苦しいよ…。
息が出来なくなった。
空気が欲しい。
優乃は叫ぼうとしたが、声が出なかった。誰でもいいから助けに来て欲しかった。
視界が狭くなる。頭がぐるぐる回る…。
トントントン
優乃が倒れそうになった時、外で何かの音がした。
トントントン
もう一度音がした。誰かが部屋のドアを叩いている。
出なきゃ。
優乃は、はっと目を覚ました。夢だったのだろうか。変な体勢で段ボールの箱に寄り掛かっていた。優乃は一度深呼吸をして頭を振ると、少しふらふらしながら玄関に向かった。
ちょっとどきどきして、ドア越しに声をかけた。
誰だろう?こんな時間に。…変な人じゃないかな…。