第八話 四日目夜 優乃の初手料理 前編 7
安の夕食は、野菜炒めとシチューだった。
本当は野菜炒めだけの予定だったのだが、野菜の量が多かったので急きょ、その余分でシチューを作ったのだ。
野菜炒めだけでも十分だったが、安はシチューも無理にお腹に納めた。今日、冬美に言いがかりをつけられて気分が悪かったのだ。やけ食いだっった。
「はー、ちょっと動けん」
大の字になって寝ころんでいた時だった。
コンコン
「ん」と安は立ち上がって、戸を開けた。
外には優乃が野菜炒めを持って立っていた。
「あの、これ。マッチありがとうございました。お裾分けです」
お昼のことを気にしているのだろう、優乃は小さくなっていた。
一気にまくし立てて、謝ってくる。
「いいよ。気にしなくて。これ、ありがと」
安は優乃のお皿を取って、お礼を言った。お腹がいっぱいで声も出しにくい。お裾分けは断りたかったが、断ったら打ち上げ会の時みたいに、泣かせてしまいそうだった。また冬美が怒鳴り込んでくるのは、カンベンして欲しかった。
料理を受け取ると、優乃は顔を伏せたまま戻っていった。
そんな態度を見せられては食べないわけにはいかない。安は再び箸をとって、優乃の料理に立ち向かった。
味は決して悪くなかった。むしろ美味しかった。
しかしお腹いっぱいの時に食べる料理は辛い。それでもと全部食べて、お皿を洗い、優乃の所に持っていった。
とても前を向いて歩けなかった。前を向くとお腹が張って吐きそうだった。
「優乃ちゃん」
戸を叩いて、優乃を呼んだ。
中では洗い物をしている音がしていた。
優乃が手を拭いて、いそいそと出てきた。
「これ、ありがとう。美味しかったよ」
自然と伏目がちになってしまう。
精一杯明るく言ったつもりだったが、自分で聞いても暗い響きだった。しかし、言い訳するだけの気力もなかった。
お皿を渡して、「それじゃ」と言うと、安は優乃の返事も待たずに戻っていった。
「あーっ」
安は部屋に戻ると倒れ込んだ。もう身動きも出来なかった。
そう言えばあいつ、料理下手だからな…。サンドイッチと目玉焼きはうまいんだが。連絡、したほうがいいんだろうな…。
ふうと息を吐き、安は天井を見た。
動けないほどお腹はいっぱいなのに、どこかに穴が開いているような寂しさを感じていた。
ラップしておけばよかった。
ふと、後悔した。
「いいっ。もう寝る」
安は無理に目を閉じ、眠りの世界に入っていった。




