第八話 四日目夜 優乃の初手料理 前編 4
「こうやって、マッチに火をつけたら、コンロのつまみをひねって素早くマッチをコンロに近づける。ほら、火がぐるっと回りながらつくだろ。つまみを全開にしてつけると危ないからね。あ、マッチは専用のカンとか用意して、そこに捨てると便利だよ。カンには水をいれて確実に消すようにしてね」
山川は、やたらとこの丸形コンロをほめて、火を消した。
そんなに気に入ったのなら、山川さんのコンロ、私のと交換してくれればいいのに、と優乃は思った。
「いやー、堪能したよ。時々古い物が触れるって嬉しいね。優乃ちゃんありがとう。あ、火のつけ方、分かったよね」
やはり、今使ってるコンロを変える気はないようだ。
「あ、はい。分かりました。ありがとうごさいます」
優乃がお礼を言うと、山川は嬉しそうに戻っていった。
「はぁ」
優乃はため息をついた。
直接火をつけるなら、明日にでも早速チャッカマンでも買ってこようと思っていたのに、どうしてマッチが、しかも徳用が来るのよ。一体何本入ってるの。…でも使わなきゃ、悪いよね。せっかく安さんがくれたんだし。
ちょっと困り顔の優乃だったが、困っていても料理は出来ない。優乃は気を取り直すと、まな板と包丁を用意した。
「優乃のマジカルお料理教室ー♪」
黙って料理をするよりも、何か言いながら作る方が楽しい。優乃は頭の中で番組を作り上げた。
「今日の料理は、野菜炒めよ。材料は炒めて食べたいものを用意してね」
優乃は今日買ってきた野菜を取り出した。
「まず水で洗って、それから切ります。野菜を切る時は、大きさをそろえるのがポイントよ」
いかにも女の子っぽいつくり声で言いながら、手際よく野菜を洗って切っていく。なかなか見事なものだ。
「さぁ、炒めるわよ。マッチを用意して、うーん、優乃ドキドキ。マッチに火をつけて、つまみをひねって、えいっ」
ボワワッ
「あわッ」
つまみを全開にしたせいで、勢いよく火がついてしまった。
優乃は反射的につまみを閉めた。
「こんなこともあるから気をつけてね」
前髪が焦げた気がした。
コンロのバカっ。
「えいっ、もう一度」
ボッ、ボボボッ
今度はうまくついた。
「えへっ。火の取扱いには気をつけてね」
肘と膝を曲げてかわいくポーズを取る。




