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第八話 四日目夜 優乃の初手料理 前編 1

第八話 四日目夜 優乃の初手料理 前編



 坂を降りて五分も歩くと、小ぎれいな市場がある。


 小さな個人商店が集まっているそこは、『スーパーマーケット』と言うよりは、やはり『市場』と言った方がよく似合っていた。数年前に改装したのだろう、外観、内装共に新しく、レジは一本化されていて、最近の流れに沿った作りになっていた。


 車があれば別だが、近くに大型店舗のないこの辺りでは、近くの人たちがよく利用する市場のようだ。店内は意外と人が入っていた。買い物客は、年配の人が多かった。やはり車を持っている若い人たちは、ちょっと離れた大型店舗に買いに行っているのだろう。


 初めて入った優乃は、キョロキョロしながら買物を始めた。


 店内には八百屋、年配の人がターゲットであろう地味な服が多い服屋、鍋から食器、ハエたたきまで売っている雑貨屋、惣菜屋、魚屋、肉屋、花屋があった。ここに来れば、生活に必要なものは揃いそうだ。


 物が良さそうな野菜を手に取る優乃。ホントの所、どれがいいのかなんて分からない。


 「お嬢ちゃん、どうこれ」


 八百屋のおじさんが声をかけてきた。


 「いつも三個百円の所を、今日だけ四個百五十円」


 「一個三十三円が、一個…三十…七、高くなってるじゃないですか」


 面白いおじさんだった。


 「あれ、ホントだ。お嬢ちゃんには負けたよ。はい、四個百円ね」


 話の流れで買うことになってしまった。しかし最近あまりないお店の人との掛け合いは、優乃にとって新鮮で面白かった。


 そんな調子で八百屋と肉屋と米屋を回って、優乃はレジを通った。


 八百屋のおじさんがあれもこれもとおまけをしてくれたおかげで、レジ袋が一つではすまなくなってしまった。おまけにお米五キロが入った袋。合計三袋の量と重さはちょっとキツかった。


 外に出てヨタヨタと歩きながら、優乃は元祖で愛の荘に向かった。



 「あーあ、自転車欲しいな」


 優乃は呟いた。


 両手に袋を持って坂を上るのはやはり辛かった。


 後ろにかごのあるママチャリが、優乃の頭の中でキラキラと輝きを放った。


 確かあのママチャリって電動もあるのよね。そうしたらこの坂もスイスイでしょ。後ろのかごに毎日の買物乗せて坂を上るの。あら、坂の先にいるのは安さんと山川さん。二人買物袋持って、疲れてるみたいだけどどうしたのかしら。「あら、どうしたの。安さんに山川さん」「あ、これは優乃様。我らお米を各自十キロ買ってしまい、難儀をしていた所なのです」「あらあら、二人とも無茶するからよ。いいわ、私の自転車の後ろかごにお乗せなさい。持っていって差し上げるわ」「あぁ、優乃様、もったいない。ありがとうございます」「いいえ、気にしなくていいのよ。ホッホッホッ」。きっと二人には私が慈悲のある優しくて美しいお姫様に見えてるのね。ウフフ。


 優乃はよく分からない妄想を繰り広げ、それはさらに飛んだ。

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