第一話 出会い 4
「あ、すみませんお茶も出さないで」
「いいよ優乃ちゃん。引っ越したばかりでそんなことしなくても。俺が部屋から何か取ってくるよ」
山川はそう言うと部屋に戻って、麦茶の入ったペットボトルとグラスを三つ持ってきた。
「ほかに何か手伝える事があったら呼んでよ。今手伝ってもいいけど、女の子の部屋だしね。大きい物はもう動かさないと思うし、たぶん大丈夫だと思うけど」
これだけの荷物じゃ、物足りないという感じで山川が言った。
「でも引越って結構、荷物出て来るんですねぇ。こんなにも自分が物を持ってるなんて思いもしませんでしたよ」
部屋に高く積まれている荷物を見上げながら、優乃は言った。
「それは女の子だからじゃないかなぁ。服とかいっぱいあるんじゃない?」
安にとっても大した引っ越しではなかったみたいだ。
「服よりお芝居や、演劇関係のものが多いんです、たぶん。私、芝居やってるんですよ」
「へぇー。お芝居やってるんだ。劇団とか入ってるの?」
山川が聞いてきた。
「いえ、まだ入っていないんですけど、今年からお芝居の専門学校に入るんです」
「そんな学校もあるんだ」
山川が素直に感心した。山川には意外だったらしい。
「じゃあ、卒業公演とかあるんじゃない?その時は…」
安は少し知ってるようだ。
体育会系も悪くないけど、安さんみたいに知的系もいいな。安さんって白衣とか眼鏡がとっても似合いそう…。
「…観に行くからさ」
「…えっ、は、はい。その時は呼びますから観に来て下さいね」
ワンテンポ遅れて優乃は返事をした。
「ところで安さんや山川さんの時って引っ越しの荷物ってこんなにありました?」
優乃は話題を戻した。お芝居の話をしていると、何だか変な事を思ったり言い出したりしてしまいそうだった。
「もう忘れたけどなぁ。僕の時はもう少し少なかった気がする」
「俺は、何回かに分けて持ってきたから分からないけど、こんなものだったかな」
「ふーん、そうなんですか」
「さて、まだ荷物の整理もあるだろうし長居もしちゃ悪いから、僕はこの辺で」
「じゃ、俺も」
安と山川は優乃の部屋を出た。二人が行ってから、優乃はしばらくぼーっとしていたが、
「よっしゃ、やるかぁ」
と気合いを入れ直すと、荷物の整理に取りかかった。