第七話 友だち 6
「優乃ちゃん」
坂から上がってきた山川が、優乃を見つけて声をかけた。
「山川さん、お仕事の帰りですか」
優乃も明るく返事をした。
「そうなんだ。今日はちょっと早く上がってね。優乃ちゃん何してたの」
「さっきまでここで友達と話してたんですけど、何か気持ちよくって、友達が帰った後もここに座ってたんです。山川さんも座ってみません」
優乃は笑った。
山川は頷きながら、優乃の隣に座った。
風が二人の髪を撫でていった。
山川がふぅと空を仰いで言った。
「だめだ俺。優乃ちゃんほど気持ちいいって思えないや。感性が鈍いのかも知れない」
「そうかも知れないですね」
横目で山川を見ながら優乃は言った。
「そりゃ、ひどいなぁ」
優乃の方を振り返って、山川は笑った。
「そうですね」
優乃も一緒になって笑った。
「山川さん、昨日のこと、覚えてます?」
優乃の口から、自然と昨日の事が出た。
「ごめんね、昨日すぐ寝ちゃって。飲むと眠たくなっちゃうんだよ」
山川が申し訳なさそうに言った。
「安さんが、付き合ってる人がいるっていったんですけど、山川さん知ってました?」
「あぁ、それ、知ってたよ」
「会ったことあります?」
優乃は何気なく聞いてみた。本当はどんな人かすごく知りたかった。
山川は頭を振った。
「会ったことはないんだ。ただあの安さんが付き合ってるって言うんだから、どんな女なのか興味はあるけどね」
優乃は頷いてから、続けて聞いてみた。
「ところで山川さんは今、誰かと付き合ってるんですか」
「俺?いや。まだ独り身。学校とバイトに忙しくって、なかなか出会いがないって言うのかな」
山川は少し恥ずかしそうだ。
「へぇ、なんだか意外ですね。あ、そろそろ夕飯の買物にいってこなくちゃ」
優乃は立ち上がって言った。
山川としゃべっているうちに、元気が出てきた。
山川も立ち上がった。
「そんな時間か。俺は部屋戻るよ。優乃ちゃん気をつけて」
「はい」
優乃は返事をすると、元気よく坂を降りていった。
山川さん、か。安さんもいいけど、やっぱり山川さんかな。今も私のこと気にして優しくしてくれたし。『優乃ちゃん、大丈夫かい?』『えっ、何のことですか』『いや、昨日と違ってなんだから落ち込んでいるみたいに見えたから』『えっ、そんな事ないですよ』『俺の気のせいだったかな。でもね、これだけは覚えておいて。俺は君を待ってるって』『突然どうしたんですか』『突然?違うよ、君を見た時から思っていたことだよ』
「あっ」
優乃は財布を忘れたことを、突然思い出した。




