第一話 出会い 3
「あっ君、何もしないで」
山川が口を出してきた。
「…えっ?」
「何もしなくていいから、指示だけ出して」
何なのこの人…?
優乃は戸惑った。
「ごめんね。山、引っ越しにはうるさくてさ。ちょっとした玄人はだしなんだよ。大丈夫任せておけば間違いないから。優乃ちゃんは部屋に行って荷物をどこに置けばいいか、指示してくれればいいから」
「…はぁ…」
何が何だか分かんないわ。引っ越しにはうるさい?間違いないってどういうこと?ところで玄人はだしって何?はだしって、はだしよね?あれ、私って日本語能力ない?どうしよう…。
優乃がそんな事を考えている内に、山川が優乃の部屋に荷物を持って行く。
「優乃ちゃーん。こっち来て。これどこに置けばいいかなぁ」
部屋から山川が優乃を呼んだ。
あなたに優乃ちゃんって呼ばれるほど親しくないわ。
優乃は急いで部屋に走った。
部屋に入ると山川が服の入ったケースを持って待っていた。丁度窓から射し込む光が、山川を逆行で照らしていた。
あっ、ちょっとカッコイイかも…。
優乃はちょっぴりドキッとした。
あらためて見る山川さんって、Tシャツにジーンズのラフなスタイルがよく似合ってる。短い髪と少しつり上がった目が、キリッとしてて素敵。荷物持ってる腕の筋肉も、引き締まってていいな…。
「…! 違う違う!」
「え?ごめん、何が違うの?」
突然違うと言い出した優乃に、山川はびっくりした。
「え?あ、何でもないの。えーっと、その荷物はそこに置いて下さい」
優乃はあわてて取りつくろった。
ふー。もう少しで私、体育会系が好みなのって言うところだったかも…。
優乃は秘かに汗を拭った。
「じゃあ優乃ちゃんはここにいてね。荷物は俺と安さんで運ぶから」
「はい。お願いします」
その方が安全かも。
優乃は山川の体にちょっとぐらついた自分を落ち着かせようと思った。
2時間もしないうちに二人は荷物を全部運び入れてしまった。
「二人が手伝ってくれてほんとに助かりました。私一人だったら一週間かかったかもしれないですよぉ」
「最初は一人でやるって言ってたのにね」
安の言葉に三人はどっと笑った。