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第六話 三日目夜 宴会編 1

第六話 三日目夜 宴会編



 その夜、優乃たちは坂を下りた、で愛の荘の近くの焼き肉屋で打ち上げ会を開いた。


 焼き肉屋の奥座敷に通され、五人は円卓を囲んだ。優乃、矢守、安、雪、山川の順である。


 早速飲み物を注文する。チューハイ、ビール、熱燗、冷酒、ウーロン茶。


 「ウーロン茶?あんた打ち上げでいきなりウーロン茶はないでしょ」


 と、冷酒を注文した雪。


 「山川さんだって、悪気があって注文したんじゃないですから。そうですよね」


 フォローにならないフォローをするのは、チューハイを頼んだ優乃。


 「最初の一杯ぐらいは付き合うのが、常識って言うか、人としての道よね」


 ビールを頼んだ矢守が言う。


 「うまい酒が飲めれば、いい」


 我関せずの態度を取るのは、熱燗を注文した安。


 「分かりましたよ。次は何か頼みますよ」


 しまった、最初の一杯はチューハイにでもしておけば良かったと、山川は後悔した。


 優乃以外はみんな知っているのだが、山川は酒に弱い。飲むとすぐに顔に出るし、三杯も飲めば倒れて寝てしまう。だからほとんどの場合、山川はお酒類は頼まない。ウーロン茶やジュースですませる。もちろんこういった打ち上げ会の時などは、最初の一杯は何かお酒類を頼むが、今日は仲間内と言うこともあり無理に飲まなくてもいいだろうと思ったのだ。


 みんなはそれを分かってて山川をいじめる。


 「もうつき合いが悪いんだから」「高校生じゃあるまいし」などと言っているうちに、飲み物が来た。


 「それじゃ、私が元祖で愛の荘の住人代表として、音頭を取ります」


 矢守が身を乗り出した。


 「皆さん、元祖で愛の荘へようこそ。今日ここに来ていない住人は三人いますが、三人とも微妙なつき合いなので、またの機会に回して今回は進めます。今日このお目出度い席に最初からウーロン茶を頼む失礼な者もいますが」


 「うるせー」と言う山川の声を無視して、矢守は続けた。


 「これからは皆さんと仲良く過ごしていきたいと思っています。では乾杯の前に、新入居者を代表してウーロン茶の山川さん、ご挨拶をお願いします」


 ウーロン茶、ウーロン茶と責められて、山川は身を小さくしていたが、ここで反撃の狼煙を上げた。


 「えー、入居者を代表しまして、ウーロン茶の山川がご挨拶を。えーそもそもウーロン茶と言いますのは、中国を代表する半発酵茶であります」


 「はい、カンパーイ」


 「皆さんよくご存じの通り、中国福建省が有名でお茶の種類も水仙、鉄観音など数多くあります。そもそも発酵という過程はアルコールを作る上で欠かせない行程であります。食品に含まれる炭水化物によって糖が生成され、また食品そのものに含まれている糖がアルコールに変化、生成していく訳であります」


 「おい、タン焼けたぞ」


 「ウーロン茶葉も同様の過程が起こると考えられます。しかしながら、ウーロン茶葉にはアルコール生成に必要な糖分が不足しているため、アルコールが生成されません。逆に言えば糖分、すなわち砂糖を追加すればウーロン酒なるものが出来てもおかしくないのです」


 「サラダ取って下さい」


 「従ってウーロン茶は決してノンアルコール飲料ではなく、アルコール飲料に変化しうる可能性を秘めた飲み物と言っていいでしょう」


 「もっと焼け」


 「はなはだ簡単ではありますが、決してノンアルコール飲料としてウーロン茶を頼んだ訳ではないことを一言ご報告しまして」


 「えぇい。トング貸せ」


 「私の代表挨拶と変えさせて頂きます。あれ、乾杯は?」


 挨拶が終わって見てみると、みんなはすでに飲み始めているし、雪は肉を注文している。


 「カンパイ、先にやっといたから。あんた、何注文するの」


 当然といった風で、雪は聞いた。


 「野菜頼んだ?」


 「頼んだわよ、盛り合わせを三人分」


 「分かった。来て足りなかったら追加するわ」


 脱力感に襲われる山川。


 「山っちが気持ちよさそうにしゃべってたから、気を利かせて先にカンパイしておいたの。はい、山っちもカンパイ」


 カンカンカン


 矢守に続いて、みんなグラスを合わせた。


 「カンパーイ」


 悲しい風が、山川の心に吹く。


 そんな山川に、みんな気を使わず打ち上げ会は進んだ。

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