第一話 出会い 2
三十分後。
「ふぅー、終わった。よし、全然変わってないぞ」
で愛の荘の歴史が染み込んだ部屋は、そうそうきれいにはならない。
「まっいいや、まずは荷物を運ばないとな」
で愛の荘は市街地から車で訳1時間。これだけ離れると、景色、環境は変わる。所々に田圃や畑があらわれるが、それでいて生活に必要なお店はある。街へ出る時間を少しガマンさえすれば、こんないい環境はない。ダンボールが盗られる心配も少なそうだった。
優乃は外に出ると取りあえず、一人で持てそうな物を次々と部屋に運んだ。
「こんにちはー」
買い物から帰ってきたのか、手にコンビニの袋を提げた20代半ば位の男が優乃に声をかけてきた。
「今度引っ越してきた人?」
「あっ、はい。私です。神藤 優乃です。よろしくお願いします」
「僕は、足立 安。よろしく。…ところで一人でやってるの?」
四月とは言ってもまだ暑くはない。なのに額に汗を流している優乃を見て、安が聞いた。
「えっ、は、はい。そうなんです。友達も手伝ってくれたんですけど、時間になっちゃって帰ったんですよ」
「そうなんだ、大変じゃない?手伝おうか?」
「いえ、いいです。自分の荷物ですし、やりますから」
「……この山のようにあるダンボール全部?」
「…」
「ほら、待ってて。もう一人連れてくるよ。あっ、ここに住んでる奴で山川って言うんだ」
安はもう一度、待っててとにっこり笑った。
安は、で愛の荘に入っていって「やまぁ」と呼んだ。しばらくすると、安がもう一人二十代前半くらいのジーパンにTシャツ姿の男を連れてきた。
「この娘、今度引っ越してきた神藤さん。これが今は大学生の山川 忍」
「神藤優乃です。よろしくお願いします」
「山川忍です、こちらこそ。で、何から運べばいい?」
山川は早速やる気だ。
二人とも何となく面倒見の良さそうないい人だな。
二人とも、ちょっぴり優乃の好みかもしれない。
「うーんと、じゃあこれからお願いします」
優乃がそう言うと安と山川はテキパキと打ち合わせをして、優乃の荷物を持った。
「すごーい。二人とも引越屋さんで働いてるんですか?」
優乃が驚いて聞いた。
「僕は前にバイトしてたことがあるけど、山は?」
「俺も少し…。まぁ友達の引越をよく手伝うけど。それぐらいかな」
「へぇー、すごいですね」
優乃が感心する。
優乃も手伝わなきゃと、とりあえず手近で軽そうな箱を持った。