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第三話 二日目 6

 「優乃ちゃん」


 おそるおそる声をかける安。


 反応がない優乃を見て、安はもう少し大きい声を出した。


 「優乃ちゃんっ」


 「は…ハイ」


 びくっとして優乃は顔を上げた。


 「何か悪いこと言った?」


 「いえ、何も」


 顔から火が出そうな優乃。


 安と山川は顔を見交わした。


 この子、変わってるかも。


 「それじゃあ、いいけど」


 安は腑に落ちない様子だったが、話を最初に戻して言った。


 「そんな訳で優乃ちゃんが住める部屋はあと一つしか空いてないから、住むんだったらそこになるよ。で、明日なら俺と山があいてるから引越し手伝えるけど、ほかの日だったら手伝えるかどうか分からないから」


 「明日、お願いします」


 何だか悪いみたいだけど、いいや、頼んじゃえ。


 築五十年って話だけど、家賃無料(ただ)なら言うことはない。優乃は引越す気満々だった。


 ガチャ


 「安、いるー?」


 そこに一人、女の人が入ってきた。


 「明日の引越しなんだけどさぁ」


 「おう、入れよ」


 安が気安く答えた。


 優乃が挨拶する。


 「こんにちは」


 夜に『こんにちは』は、ない。ちょっと間が抜けている優乃だった。


 「こんばんは。安、この子、彼女?それとも山川君の彼女?」


 「違いますよ。お昼に話した、昨日引越してきた優乃ちゃん」


 山川が優乃を紹介した。


 「神藤優乃です。よろしくお願いします」


 「私、藪田雪。ここに住んでるって言っても、もう出てくけどね」


 「おっ、ペンネームか。本名じゃないのか」


 安が笑う。


 「いいのっ。こっちの方が使い慣れてるから」


 「あの、雪さんって作家さんなんですか」


 「マンガ家なんだよ。最近本に載るようになったんだっけ」


 「今度読ませて下さいね」


 同じアパートに住んでる人が、どんなマンガを描いてるのか興味があった。

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