第三話 二日目 4
「引越し、手伝って下さい。明日越します」
「優乃ちゃん、決めるの早いなぁ」
山川が笑っている。
「ついでに言うと、『元祖』の方、空いてる部屋早い者勝ちで、好きな所使っていいって」
「ますます行くしかないじゃないですか」
勢い込んで優乃は言った。
「もー、早く連れて行って下さい。場所どこなんですか。今すぐ行って一番いい部屋取ってきます」
「ん、あぁ、それなんだけどね」
安が口ごもった。
「え?何ですか。早くしないと部屋誰かに取られちゃうじゃないですか」
優乃はもう気が気ではない。
「優乃ちゃん、一番じゃないんだ」
「え、どうして…。あー、分かった。安さんもう行って取ってきたんでしょ。いいんだ、自分だけ先に知ったからって」
「ごめん、僕も」
山川がすまなさそうにする。
「…なら、私三番でいいですよ」
三番なら仕方ない。この二人は今日休みで運が良かったんだ。そうか、だからこの部屋、段ボールが敷いてあるんだ。新しい部屋が決まってれば、ここの畳悪くなってもいいもんね。段ボール箱が積んであるのもそういうことか。
優乃は気が付いた。山川の部屋もきっと段ボール箱で一杯なのだ。
あれ、そう言えばここに住んでる人って、何人『元祖』に移るんだろ。
優乃は何だか心配になってきた。
「あの、部屋ってあといくつ空いてるんですか」
「うん。一つ」
山川が明るく言い放った。
「…山川さん、さわやかに言い放ちましたね。ダメですよ、そんな風に行っても。あと一つって、あと一部屋って事ですか。選択権ないじゃないですか」
食ってかかる優乃。
「優乃ちゃんが最後なんだ。移動する人はみんな今日のお昼から行って、部屋決めてきたんだ」
「だって、そんなの…。あっ、だったら連絡してくれれば良かったのに」
「ごめん。俺、優乃ちゃんの電話番号知らないから」
山川がすまなさそうに謝った。
そう言えばそうだった。変な人かもって思ってたから、番号教えるのやめたんだ。
「じゃ、番号教えますから、今度からは連絡下さいね」
ホントはまだ教えたくないのだが、仕方ない。
「はい。山川さんの番号がこれですね」
お互いに番号を確認し合う優乃と山川。
安は固定電話の番号は教えてくれたが優乃の番号を手帳に書いただけで、自分の番号を教えてくれない。




