第三話 二日目 1
第三話 二日目
「優乃ぉ、いる」
丁度そこへ冬美が入ってきた。
「もう行ける?準備できた?」
「えっ、何」
優乃がぽかんとする。
何か約束ってあったっけ。
「何言ってんの。今日入学式でしょ。早く準備して。いつまでジャージなんて着てるの」
「あぁっ」
そうだ。今日は専門学校の入学式だ。のんびりパンなんて食べてる場合じゃない。今日早く起きて、準備するつもりだったのに、昨日の火事騒ぎですっかり忘れてた。
優乃はあわてた。
「ところで昨日火事でもあったの?」
「そうなの。夜いきなり火事があって、何にも出来なくて」
「ふーん。で、この人たちは?」
火事にも二人にも興味なさそうな冬美。
「あ、こちら安さんと山川さん。ここの住人さん。昨日冬美が帰った後、引越し手伝ってくれたの」
「へぇー、そうなんだ。冬美です。よろしく」
素っ気ない冬美の挨拶に、「安です」「山川です」と二人は軽く返した。
「ところで、安さんと山川さん。いつまでいるんですか。優乃これから入学式って言ったでしょ。ジャージなんかで行けないんだから、早く出てって下さい。着替えられないじゃないですか」
「あ、そうだね。ごめんね。じゃ」
山川が冬美のキツい口調に押されるように、外に出た。
「ふーん、入学式なんだ」
安は反対に落ち着いて優乃に聞いた。冬美を気にしていないような態度だ。
「そうなんです。だから、しばらくバタバタすると思うんですが、困ったらまた呼びますので、その時は助けて下さい」
「あぁ、いいよ」
「ちよっといつまで、話してるんですか」
冬美がイラつく。
「そうだな。それじゃあ、また」
と安は手を振った。
「早く」と冬美が追い出そうとしたとき、安と目があった。
「何ですか」
じっと見つめる安に、冬美がうさんくさそうに言った。
「ん、その服似合ってるね」
「ありがとうございます。それじゃ」
バタン
冬美は冷たく言うが早いか、戸を閉めた。
「何あの人。ちょっと変じゃない。私に色目使ってきたわよ。気をつけなさい」
冬美は怒って言った。
「うーん、変な人かも知れないんだけど、昨日お世話になったし」
「そんなの下心があってやったに決まってるじゃない。だめだめ」
安の態度がよほど気に障ったのだろう、冬美の怒りは収まらない。
これで昨日、あの二人がこの部屋に泊まってったって言ったら、どうなるんだろ。
優乃は着替えを急いだ。




