第二話 第一夜 6
気が付けば朝。
安も山川もすでに起きていた。コンビニに朝食を買いに行ったのだろう、スナックパンの袋と牛乳パックが置いてある。
「あ、おはよう。昨日はありがと。これ俺と山川から、泊めてくれたお礼って訳じゃないけど」
安が優乃の近くにパンと牛乳を置いてくれた。
「おはようございます。ありがとうございます」
目が覚めたばかりで、回っていない頭を一生懸命回す。
え…と、昨日は…二人が泊まったんだけど…それは、火事、そうだ火事があったんだ。
「火事」の一言で頭が急回転して一気に目が覚めた。
バッと布団を起こして飛び起きる。
「二人の部屋どうでした?火事ってあの後どうなってます?」
「俺も山川の部屋も水浸し。後片づけが大変そうだよ。それから今、警察が現場検証してる所」
あきらめ顔で安が言う。
「そうですか。大変なことになっちゃったみたいですね」
優乃は立ち上がって、流しで顔を洗った。
「まぁそうなんだけどね。しょうがないから。山ぁ、あれ優乃ちゃんに話してやってよ」
安が山川に声をかけた。何か大事な話なのだろうか。
優乃は顔を拭いて、今度は歯を磨く。
「うん、さっきね、安さんにも言ったんだけど」
山川がちょっとばかり深刻な顔をした。
「朝、大家さんに電話したら、ここ、建て替えるかもしれないって」
「えーっ。私昨日ここに越してきたばかりですよ。いつやるんですか、そんなのないですよ」
新しい部屋探すのだってすぐに見つからないかも知れないし、あったとしても敷金だってすぐには払えない。
「いや、すぐに建て替えると決まった訳じゃないんだけど。それで優乃ちゃんの事も大家さんに言ったら、もし建て替えることになったら、立て替えの間は住む所用意するって。と言うか当てはあるんだって。もちろん敷金とかいらないし、そこへの引越しなら少しは出せるって。ここを出てくなら、それでもいいってさ」
「なーんだ、じゃ大丈夫じゃないですか。びっくりした。私住む所なくなっちゃうかと思いましたよ」
危なく歯磨き粉を吹く所だった。
優乃はほっとして口をゆすぐと、パンの袋と牛乳パックを取った。
「よし、では朝ご飯食べますね。ありがとうございます。いただきます」
早速一本スナックパンを頬張る。
女の子っぽくないかもしれないけど、もうこの二人ならいいや、と優乃は思った。あまり気にしなさそうだし、昨晩の一件からも女の子として意識もされてないみたいだった。そうじゃなければ、いきなり泊めてなんて言うはずがない。
「で、仮に建て替えるとして、どこになるんでしょうね。どうせ仮に住むんだとしても、新築のいいとこじゃなくていいから、築五年ぐらいの小ぎれいなところがいいなぁ」
「あ、それなんだけどね。多分あそこだよ」
安が妙な顔をして言う。
「やっぱり安さんもそう思います?」
山川がうらめしそうに答えた。
「あそこって?」
ちょっぴり不安になった優乃が聞いた。
「ここは言わば第二の、で愛の荘でね」
安の口が重たそうだ。
「あそこって言うのは、元祖、で愛の荘のことなんだ」
「えと、じゃあ、ここより、古い」
パンの味がまずくなってきた。
ゆっくりと首を縦に振る安。
「うん。築五年じゃなくて、築」
安は一呼吸ついて言った。
「五十年」
「古すぎですよっ」




