第二話 第一夜 5
「じゃ僕は、ここで寝るわ」
安が優乃と反対の部屋の隅で言った。
二人とも他人の部屋で寝ることに慣れてるのだろうか、妙に手際がいい。
「じゃ、俺は隣で」
と、山川。
安がもう寝る体勢で優乃に言った。
「優乃ちゃん、ごめんね。今晩だけ泊めてもらうね」
「は、はい。でも布団は」
「あぁ、大丈夫。ちょっと寒いかも知れないけど、気にしないで。慣れてるから。じゃ、おやすみ」
「慣れてるからって、でも」
そんな自分だけ布団に入って寝れるわけないじゃない。
優乃の気がとがめる。
そんな優乃に構わず、山川も安の隣に横になる。
「優乃ちゃん、何かあったら起こして。安さんに夜這いされそうになったら、大きな声出してね」
冗談っぽく言う山川。
じゃあ二人に襲われたらどうするのよ。
と言いたい所を押さえて、優乃は言った。
「じゃあ、山川さんに襲われそうになったら、安さんに助けてもらいますね。ね、安さん、安さん?」
「もう寝てるよ」
山川が代わりに答えた。
「早っ」
順応が早いの?やっぱり安さんって変。
「おやすみ」
山川も何事もなかったかのように寝に入る。
山川さんも安さんがこんな風で、おかしいって思わないのかな。安さんのこれが普通?何か山川さんも変。
どんな理屈なのか、山川も変な人扱いする。
「おやすみなさい」と優乃は小声で言って二人を起こさないように、そうっと、花を挿した花瓶を流しに置き、布団に入った。
よかった、今日ジャージで寝てて。パジャマだったら恥ずかしかったし。
優乃が布団に入ると、山川の寝息も聞こえてきた。
二人とも、もう寝てるのかな。実は寝たフリして、お互いに寝るの待ってるとか。
優乃の妄想が走り出してきた。
そうだ、そうじゃなきゃ、こんなに早く寝れるハズない。きっと二人とも私に気があって、お互いに早く寝ろって思ってるんだ。でどっちかが先に寝たら、私の所に来るんだ。そしたらどうしよ。まだ早いわ。だって今日会ったばかりじゃない。私そんな軽い女じゃないし。あれ、ちょっと待って。私には今日会ったばかりだけど、二人は前から知り合ってるのよね。もし、もしも二人がそんな関係だったらどうしよ。お互いに私の事ねらってるんじゃなくて、私が早く寝ればいいと思って、寝たフリをしているのかも。私が寝たら二人で…。イヤ、イヤ。そんなの嫌。そういうのはマンガだけに…、何考えてるんだろ私。もう気にしないようにしよ。でも頭の中が冴えちゃって、寝られ…ない…か…。
頭の中が、なんて思っているうちに、寝てしまう優乃であった。




