魔法は尻から出ない!指から出る!
康友が最後に見たのは、自分たちを包んでいた光が、徐々に扉のような形に変形していた様子だ。
光は通常、透明感のあるもの、と康友は認識していたが彼が見たそれは以外にも層が厚く、彼は最近頭に叩き込んだ植物細胞の細胞膜や細胞壁という単語をなぜか思い出した。
光を見たというよりは、その時康友は気絶していたため、心に映像が飛び込んできたのだろう。心にうったえかけられたものなのに、理科の単語が出てくるというのは、康友が人一倍努力した証拠だろう。
――結果には結びつかないのだが。
康友が陥っていた状態は、分かりやすく言えば夢であろう。
突然の事態で、本来ならば夢の中でも動揺するような状態なのに、その夢は暖かく、康友に焦りや不安を感じさせることはなかった。
が、夢から覚める直前、康友の愛してきた、大切にしてきた人々がまるで彼に別れでも告げるかのように寂しげに手を振っている映像が映し出され、康友は少し動揺した。
そしてその人々の中に美樹はいなかった。
「はっ……」
康友は目を覚ました。その日の岐阜県は快晴だったのだが、康友が空を見渡すと青空ではなく、雲が広がっており、濃霧で周りがよく見えなかった。
康友自身、何が起こっているのか分からなかった。
そのため、美樹を探すことが遅れた。
「――美樹?」
美樹は康友の三メートル先で気を失っていた。気を失っていてもその美貌は保たれていた。
康友は美樹の呼吸と脈を確認し安心した。
その時――
「――お待ちしていましたよ、モレストロ・リメンセーバ。そして、ミレスト・キセロラ。あなたたちが次期王夫婦です」
背の高い男が話しかけてきた。
王夫婦。宗教の勧誘にしては胡散臭すぎる言い分で、康友はわけがわからなくなった。
「一体何の勧誘ですか?宗教なら親を通してくれないと困ります」
「はて?」
男はとぼけた。否、康友にはとぼけたように見えた。
「それに、モレストロリメンセーバとは誰のことですか?俺は守康友です。ミレストキセロラもここにはいません。通報しますよ」
今度は、険しい表情を男に向ける康友。
しかし男は冷静だった。
「忘れていました。守康友君、そして川崎美樹さん」
「名乗った俺はともかく……どうして美樹の名前まで知ってるんだアンタ!」
「リメンセーバ殿。あなたは将来このシスト王国を統べる存在になるべき男。否、ならなくてはいけない男なのです。
私の名前はシュダイン・ミレシア。王家の命令で、あなたたち二人を安全に城まで案内するためにきました」
「いやいやわけがわからねえよ……つまりどういうことだよ!ここは日本だろ?」
「いや、違います。ここはシスト王国。あなたたちが住む世界とは違う、異世界です」
康友は国語の陽の話を思い出した。
「――パラレルワールド……シスト王国……」
「そう。しかし我々にとってはあなたたちの住む世界がパラレルワールドなのですがね」
シュダインはそう言いながら一輪の花を渡した。康友たちの住んでいた現世界では見たことのない種類だ。
「これは……?」
「スシラメンです」
「寿司?」
「スシラメンです」
シュダインはため息をつき、もう一度康友の方を向いた。
「さて、では説明を――」
しかしシュダインの言葉は遮られた。
「――その必要はないわ、シュダイン」
美樹だった。
「美樹!目を覚ましたか!」
しかし美樹の表情は歪んでいた。そして体中が震えていた。
「美樹……どうしたんだ?」
「全て思い出した。全て。私はあの世界の住人ではない」
「どういうことだよ!お前は三歳のころから俺の幼馴染でずっと一緒で!」
「ええ、三歳まではね」
美樹はしゃがみこんだ。
「私は三歳まではこのシスト王国の王家で育った……記憶を操作され、シストでの記憶を失ってあの世界にやってきたのよ!」
「――でも、お前の家に飾ってあった写真、明らかに乳幼児の頃もあったじゃないか!」
「魔法で両親となる存在を探し当て、記憶を操作しました」
今度はシュダインが答えた。
「そんな……でも何のために」
「あなたを探すためよ」
「え?」
「私はミレスト・キセロラとしてではなく、川崎美樹として生活し、次の王候補を探すためにあの世界へ行った……そしてあなたがふさわしい人物として選ばれたのよ。私が仲良くなった幼馴染、それが次期王にふさわしい条件」
「どうして俺なんだ?どうしてあの世界から王を探すんだ?」
美樹は震えつつも答える。
「だから、条件。話を聞きなさい」
「シスト国王はあなたたちの世界から来てもらうというのが伝統です」
再びシュダインが応答する。
「どうして!」
「――答えられません」
シュダインは頭を下げた。かなりの機密事項で、次期王夫婦にすら教えられないことだそうだ。
――実はシュダインも知らない。
「俺、戻れるのか?あの世界に」
「戻れないわ」
美樹が即答した。
「それどころか、私たちがいたという事実すら、あの世界からは消えるのよ。あなたの両親の記憶からも、あなたという存在はいなくなる。
――あなたはこれから、モレストロ・リメンセーバとしてやっていくしかないのよ。守康友という概念は捨てて……ね」
美樹は謝りながらそう言った。美樹も今、それを思い出したのだから康友は彼女を責めることはしなかった。辛いのはお互い様だ。美樹に否はない。
が、今一康友は気持ちを整理することができていなかった。自分の存在が、元いた世界から消える。自分がいたという記録、記憶すら残すことが許されない。だから訊けることは訊こう、そう決意した。
「美樹、おまえは――」
「――ミレストよ。モレストロ。もう昔の名前でお互いを呼ぶことは許されないわ。私たちは王家に認められているの。だから王家に忠誠を誓わなければならない。
それなのに、いつまでも古い名前を使うのは、王家に対する反逆と見てとれるわ」
美樹、否ミレストが遮り、モレストロは訂正する。
「ミレスト、お前はこのことを知っていたのか?お前の使命を、あの世界に来る前から伝えられていたのか?」
「いいえ。私が覚えているのは、突然謎のアーチに包まれたところまで。あとはあの世界の記憶。
使命とかは、目覚めた瞬間に、情報が脳内に送られた。魔法じゃないかしら」
「魔法?」
モレストロがもう一度問う。
「そう。魔法。この世界にはね、魔法を使える者がいるの。あなたもそうでしょ?シュダイン」
「もちろんでございます姫君」
シュダインはミレストを姫君と呼ぶようになっていた。
「ただ、シスト王国は魔法の使い手の数が少なく、その分重機の強さでカバーしていたの。でも――」
「そこからは私が詳しいでしょう。姫君が持っている情報は、生後三年間の記憶と、今簡略化されて脳内に送られた基本情報だけですからね。姫君がそちらの世界にいかれている間、私は兵士として戦をしていました」
戦、という単語にモレストロは敏感に反応した。
「戦があったのですか?」
「ああ。今までは、我々シスト王国は圧倒的な兵力を誇っていた。魔法の使い手の数がすくないとはいえ、重機の強さで無敵を誇り、この世界の領土の四分の三は我々シスト王国の領土だった」
「だった?」
シュダインがした過去形の表現にミレストが反応する。ミレストが三歳の時は四分の三の領土をシスト王国が確保していたからだ。
「ええ。突如としてその領土を脅かす者たちが現れました」
隣の国、アウス帝国です。あの者たちは、元の領土は小さかったのですが、魔法の使い手に恵まれていた」
「それは知ってるわよ!でもあなたの活躍でなんとか撃退したって聞いてるわ」
「ええ、あの時はね。けれど、シスト王国で強いクラスの魔法を使えるのは私と数人だけでした。当時は。
圧倒的な重機の力を持つ我々とて、重機よりも魔法が強いこの世界では、アウス帝国の魔法の使い手軍団には敵いませんでした。そして我々シスト王国は、領土の四分の一をアウス帝国に明け渡す結果となってしまったのです」
「負けたの?」
「はい。負けました。完敗です。重機はことごとくつぶされ、シスト側の魔法の使い手は、アウス側の足元にも及びませんでした。
私クラスの魔法の使い手が数人いましたが、数で圧倒され一時撤退を余儀なくされました」
ミレストの表情が強張る。
「私、お父さんにシストは無敵と伝えられたのだけど」
「――時代は変わりました。魔法の使い手が少ないシストは数々の戦で劣勢になっています。だから二人だけで、しかも姫君の記憶だけを頼りに王城を目指させるのは危険という判断がなされ、私が派遣されたわけです。
こうしているこの瞬間にも、アウスの者たちが我々を攻撃してきてもおかしくないのですから。
とりあえずここはあまり安全ではありません。近くの洞窟に入り、様子を見ましょう」
シュダインは森の中にある小さな岩の塊を指差した。ここからはただの岩の塊にしか見えないが、洞窟になっているらしい。
「そうですね。で、俺たちは魔法を使えるのですか?」
「使えます。けれど、種類はわかりません――姿勢を低くしてください!敵です!」
シュダインの警告で二人はすぐさましゃがみこんだ。突如として黒い竜巻が現れ、そこから十人ほどの黒いスーツを着た男たちが現れた。
「まさかあれがアウス帝国の敵ですか?」
「そうです。見た限りあれは下っ端ですね……数が多いな……私だけで行けるだろうか。できる限り頑張りはしますが!」
シュダインは駈け出した。すると、シュダインの周りで蝶が美しく舞った。まるでシュダインを飾るかのように蝶は儚く消えた。
「まさかシュダインさんの魔法って……」
「そう、私の魔法は蝶魔法。相手を翻弄します!よく見ていてください!アウス側の一般兵は言葉を発しません。ただただ、同じような種類の魔法を放ってくるのです。威力は絶大ですが」
シュダインは駈け出し、敵兵の一人の後ろに回り込んだ。
それに気がついた別の敵兵が、指から細いビーム状のものを放った。
シュダインは回り込んだ敵兵を利用してその攻撃を阻み、二匹の蝶を指から放ち、鱗粉を使い攻撃してきた敵兵を苦しめた。
さらに回り込んだ敵兵の足をかけてこかし、同じく鱗粉で苦しめた。
「さて、残り八人」
シュダインは残りの敵兵を睨みつけた。
しかし敵兵は無表情である。
表情の変化がないため、いつ攻撃が来るかわからないという点も、アウス帝国にシスト王国が苦しめられた要因の一つだ。
そして突如としてビームは飛んできた。シュダインは多大な数の蝶を体中から召喚し、盾を施した。
蝶の盾は攻撃を全て吸収し弾けた。
そして盾が弾けたおかげでシュダインの姿を隠すことができ、シュダインは上空から蝶の竜巻を繰り出した。
敵兵は一気に蹴散らされたが、蹴散らされただけだった。
蹴散らされつつも体勢を整えた敵兵二人が狙ったのは、モレストロとミレシア。二人目がけてビームを放つ。戦闘経験がないのを見破ったか――
シュダインはすぐさま体勢を切り替え、空中から蝶の盾を放った。
蝶は素早く滑空し、二人を守り散った。先ほどと同じように蝶はカモフラージュしてくれた。
二人の前方から攻撃してきた敵兵は二人を見失ったが、蹴散らされながらも後方に回り込んだ敵兵もおり、放たれたビームはモレストロを貫いた。
「くおっ……」
モレストロは悶絶しその場に倒れこんだ。
「死にはしない!姫君!気を付けてください!もしもの時は――あなたも魔法を使えるはずです!」
「私も魔法を――」
「そうです!あなたも魔法を使えるのです!あなたが一番得意だったことをイメージしてください!」
「一番得意だったこと……」
ミレストが考えを巡らせている間、シュダインは必死でミレストを擁護した。
彼の魔法の腕が垣間見れたのは、コンボ攻撃だろう。
蝶を連続で飛ばし敵兵を倒し、倒れている相手に鱗粉を振りかけ苦しめ、さらに癒着している鱗粉を他の敵兵にもつけるため、再び蝶で敵兵を倒し、既に倒れていた敵兵の上に乗せる。それの繰り返しで一気に五人を撃破した。残るはあと三人。そのうち二人はミレストとにらみ合いを続けていた。
「もしかして、火?」
ミレストはひらめいた。思えば、幼いころから火の扱いには長けていた。もし本当なら強力な魔術だが――
「なら、それをイメージするんだ!魔法は尻からは出ない、指から出る!」
敵兵のリーダー格を相手に取りながらも、シュダインはアドバイスする。
リーダー格は、ビームだけではなく盾も作り出すことができるため、シュダインも苦戦した。
なかなか攻撃を当てられない。ならば身を隠せばいいという発想に至ったシュダインは、蝶で身をまとい、自らをカモフラージュした。
リーダー格はみだりにビームを放つ。が、カモフラージュ時の蝶は防御力に長けているためそう簡単には壁を壊せない。時間稼ぎしたところで、蝶の鱗粉もたまってきた。
「いざ、鱗粉!」
大量の鱗粉がリーダー格を包んだ。リーダー格はあまりに多い毒の量により一瞬で気を失ってしまった。
一方のミレストは、左手人差し指に魔力を集中させていた。否、本人にもちろん魔力を集中させているつもりはなく、ただ体中の力を集中させているだけなのだが、魔法の使い手の体質のため、魔力を集めていることになる。
刹那、ミレストの右手の中指から炎が噴き出した。誤算だった。服が焼け、下着が少し見えてしまった。
「姫君、なんとまあはしたない!」
「気にしないで!それより、魔法が使えそうよ!どうすればいいのかしら」
「そのまま敵兵に振りかざしてください!おそらく斬れると思います」
「炎で?」
「ええ」
ミレストは中指で敵兵を斬りつけた。
肉体的接触はしていないのだが――見事に火傷を負わせた。
「魔法による負傷は、心臓さえ破られない限り死ぬことはない!要するに心臓さえさければ人を殺める心配はない!気絶させるのです!気絶させれば、薬を飲ませない限り三日は起きない!
指で円を描いてください!さすれば、相手を悶絶させる炎の渦となることでしょう!」
シュダインはリーダー格を完全に気絶させミレストへのアドバイスを続ける。
ミレストは無我夢中で円を描き、攻撃した。
無我夢中でやったことが功を奏し、炎の渦がいくつも作られ、二人の敵兵へ襲いかかる。敵兵はかわすことができず攻撃を受ける。よろめいた二人の背後から、シュダインが蝶の鱗粉でとどめを刺す。
無論、シュダイン側の完全勝利である。
「少数編成で私がいるところにしかけたのが間違いでしたね……さあ姫君、モレストロ殿は私がかつぎます!近くに洞窟がある、そこまで走りましょう!」
「ええ」
その洞窟は、洞窟とはいえコウモリがいたりするわけではなく、過ごしやすい場所だった。少なくともミレストが想像する洞窟とは一味違うものになっていた。
「これを飲ませれば一時間くらいで目を覚まします」
シュダインは蝶を召喚し、薬を出し、モレストロに持たせた。
「さて姫君、光がないと過ごせませぬ。もう夜になります。ここに木があります。これに魔法で着火してください。もうできるでしょう!」
「ええ、着火!」
ミレストはやはり左手人差し指に魔力を集中させるのだが、――魔法は右手中指から出る。
「いずれは体全体から強大な炎を出せるようになりますよ。嫌でも戦闘機会は増えてくると言っていい。そのたびに修行ですね。姫君」
「モレストロと王夫婦ってことは、私たち結婚するの?」
ミレストが突然聞いた。シュダインは何をいまさらといった顔をし答える。
「もちろん。許嫁というところでしょうか」
「そう……なのね」
「もちろん、子孫も残してもらわねばなりません」
ミレストの顔が真赤になる。
「ちょっと……何言ってんのよ!私たちまだ十五歳よ?」
「今すぐしろとは言ってませんよ。将来的なことです。姫君、まさかあちらの世界で好からぬことを学んできましたね?」
「ま、まさか、そんなわけないでしょ?で、あちらの世界とかいういいかたやめない?面倒じゃん」
ミレストはため息をつく。
「じゃあこんなのはどうでしょう。あちらをリアルと呼ぶのは。姫君たちに準拠した呼び名でしょう?」
シュダインがしたり顔を見せる。がミレシアは睨みつける。
「私たちのことなんて、誰も覚えていないんだけどね。ハハ、今まであっちの世界で何のために生きてきたんだろうって思うとバカらしくてさ。私の両親……里親になるのね。これから元気でやっていけるのかしら」
「しっかりと記憶と存在の操作は魔法でなされていますのでご安心を」
シュダインがミレシアを安心させようと言うが、ミレシアは表情を変えない。
「そうね。私たちがいた事実はしっかりと操作されているのよね」
「うっ……」
それは、シュダインの息詰まった声であり、モレストロの悶える声でもあった。
「モレストロ!」
「ミレシア……シュダイン。ここは洞窟?」
「ええ。先ほどの戦いで、姫君は火の魔法をご使用になられました」
「魔法を!!?すごいな!」
モレストロは跳ね上がり驚いた。
「あなたもいずれは魔法を使ってもらわねばなりません。モレストロ殿。まあ、嫌でも戦闘機会はあるでしょう。さほど気にすることでもありません。
それより、今日の戦いでアウス帝国側の下っ端の特徴を一つ掴むことができました」
「なんですか?」
「彼らは、テレパシーを使うことができます。そしてテレパシーで会話をし、意思疎通をしている。
先ほど我々も、彼らの戦略にはまりましたよね?私が二人をカモフラージュしたのに、一人が私の気をそらし、あとの二人はあなたたちの背後に回った」
シュダインは次々に話を進めるのだが、二人はついてこれておらず、特にモレストロは口をポカンと開けながら話を聞いていた。
シュダインはモレストロが参謀には向かないことを把握したが、立場上口に出すことは控えた。
一分ほどたち、ミレストが気付いた。
「そっか!あいつらは喋れないけど、心で会話していたのね!だからあなたが言いたいのは――」
「――そう、彼らはただ目的のために命令を遂行するロボットだ、というのが我々の見解でした。しかしシスト王国の戦力上、重機を使うことが多くなったため、我々は接近戦を避けてきました。
ただ、今回は少数同士――といっても相手は十人いましたが、重機を必要としないためつい接近戦になってしまいました。
あの動きは仲間内で明らかに作戦を立てていましたからね。王家へ連絡したいのですが、連絡手段がないのです……」
ミレストは脹れっ面で、
「私が言おうとしてたのに……」
と妬く。
「これは失敬、姫君」
シュダインは素早く頭を下げる。
「ものすごいスピードね。そういうのって、謝られた気がしないんだけど」
ミレシアは脹れっ面をやめない。
「リアルの方ですと、そうかもしれませんが、こちらではとにかく迅速に謝罪することが最も望まれることです」
「――じゃあ私に対しては少しは間をおいて。イライラする」
「承知いたしました」
シュダインはゆっくりと頭を下げた。
闇が徐々に辺りを覆う。
「さて、夜ですね」
「寝ましょう。娯楽用具がないのがつらいけど、その分寝て明日からの移動に備えることができるもの」
ミレシアも同意し、シュダインが用意した寝袋に潜り込んだ。
「――俺は?」
モレストロは無表情で寝袋を受け取り、ゆっくりと寝袋に潜り込んだ。
「あ、ゴメン……」