プロローグ
「な……何だお前たちは!」
「重機が効かない……」
衝撃波が辺り一面を襲う。木造の建物は全て崩れ、その衝撃波の根源と闘っていた人々も次々と倒れて行く。
今まで無敵を誇り続けてきたシスト王国の守護軍が、初めて押されている。
この世界で一番早く重機を開発したのがこのシスト王国である。これまではそれを超える戦闘技術を開発した国はなかったため、この世界はシスト王国が統一していた。
だが突如として現れた謎の集団は、重機による攻撃をいとも簡単に防ぎ、そして重機をも超えるような攻撃力を誇る攻撃をしてきた。
シスト国王は、これらの攻撃を『魔法』と仮定した。この魔法という技術は、シスト王国の人間が誰も持っていないというわけではないが、謎の集団の攻撃は全て魔法によるもののため、シスト王国は危機に陥っている。
シスト王国の領土はかなり広く、この世界の四分の三を占めていた。自然にも、資源にも恵まれているこの素晴らしい土地に、この世界の四分の三の人々が暮らすことができるのだから幸せなことだ。
その他の四分の一は、他の民族が分け合っていたのである。
今回、突如として攻め入ってきたのは、その四分の一の中の八割の領土を占める アウス帝国。今まではおとなしかったのだが、突如としてシスト王国の西側に攻め入った。
シスト西側軍は、いつもの如く重機で対抗したのだが、その重機の実に八割がスクラップとなった。
魔法を使う戦闘者が大勢で攻めてくるアウス帝国。その勢いは絶大で、シスト王国の西側を占拠するほどのものだった。
シスト国王は、魔法には魔法でしか勝てないという仮定をした。
そのシスト国王自身も、魔法の使い手であるが、国王直々に動くことは面子を崩しかねないのでそれだけはどうしてもできないのである。
シスト王国内にいる魔法の使い手に協力を仰ぎ、その力で応戦する日々が続くものの、やはりそれは少数派で、そこまで力のある魔法の使い手でもないため、重機でサポートしたところで、シスト王国の劣勢という情勢は変わりなかった。
そんな中、国王と女王の間に王女が生まれた。王女の名はミレスト・キセロラ。国王家の『キセロラ』というファミリーネームを引き継いだ。
彼女には、魔法の使い手としての素質があった。だから、若いうちはアウス帝国と闘えるような戦争指揮者として国王は期待していた。
そして、彼女にはある使命があり、それを遂行することも、成すべきことであった。
それから一年、ある魔法の使い手の投入により、シスト王国軍不利の状況は一変する。
国王家直属の魔法の使い手、シュダイン・ミレシアが戦力に加わったのである。
彼は蝶の魔法を使う。今まで小粒しかいなかったシスト王国軍にとって、初めての逸材で、彼は快進撃を続ける。
アウス帝国のザコ敵と呼べる大量の魔法の使い手を、いとも簡単に翻弄し、次々と弱らせる。弱ったザコ敵なら、重機で始末できるため、効率が上がった。
さらには、一つの軍隊を指揮するほどの魔法の使い手でも、新戦力にも関わらず互角以上の闘いをして見せた。
彼は強いだけではなく、華やかさのある闘いを見せる。やはり魔法の種類が蝶だからだろうか。
しかも彼の闘い方は、『蝶のように舞い、蜂のように刺す』を具現化したものであるために、圧倒的だった。
シュダインの尽力のおかげで、シスト王国の西側は再びシスト王国が中心となって支配することができたが、それでも国境付近は緊張感に包まれていたため、謂わば冷戦状態がしばらくは続くことになった。
シスト王国を守るための一つの要素、軍力としてはシュダインの加入がかなりのプラスになった。
だが、まだ足りない要素がある。
それは王の跡取りである。後継者がいないのだ。王女となるミレストはいるが、王後継者がいない。この現状を打破しなければ、いずれまたアウス帝国の抵抗を受け、シュダイン一人のキャパシティじゃ足りなくなることもある。
そのための、王の一手――