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あなたが嫌いだ

作者: 小雨川蛙
掲載日:2026/06/16

 

「はっきり言うけれど、私はあなたが大嫌いなの」


 親愛なる義母様に結婚直前に言われた言葉がそれだった。

 夫は顔を顰めて義母様に言い返す。

 結構強い言葉を。


 何故、この場でそんなことを言うんだ。

 仮に思っていたところで何故口に出すんだ。

 そもそも結婚が決まった後にこんな事を言うなんて――。


 嬉しい言葉の数々だ。

 しかし、私は夫に片手を出してそれを制する。

 いつも言っているでしょ?

 人と人だもの。

 合う、合わないってのは絶対に存在するって。


「お義母さん。私はそれでも構いません」


 絶句する夫と義母様。

 こうしてみると親子だなぁって思う。


「なにその態度。そうはっきり言うところも嫌いなの。腹の立つ娘ね」


 先に口に出したのはあなたでしょうが……なんて思っても口にしない。

 代わりに私はにっこり笑って問う。


「お義母さんは大嫌いな私に何かするつもりですか?」

「そうね。嫌がらせをするわ。毎日必ず」


 すごいな。

 こんなにはっきり宣戦布告してくるもんなのか。

 まぁ、私の問も意地悪だし売り言葉に買い言葉ってとこかしら。

 そんなことを考えながら私は答えた。


「ならお義母さんが一回嫌がらせをしたら私も必ず一回悪戯で返します」


 ぽかんとする義母様の顔。

 しかし、すぐに顔を顰めて『望むところだ』と言わんばかりの睨みつけ――この日から嫁と姑の仁義なき戦いが始まったのだ。


 私の食事だけ明らかに内容が違うだとか、勝手にシャンプーの中身を安物に変えられるだとか、靴を玄関の奥に隠されるだとか――。

 よくもまぁ、こんな子供じみた嫌がらせをしてくるものだ。


 だけど、夫は毎回ブチギレて義母様に言いに行こうとする。

 それを嬉しく思いながら何とか制して私は言った。


「大丈夫。大丈夫。これからは私の番だから――」


 内心で子供じみた事しかしない義母に安堵しながら私は静かに反撃を始めたのだ。



 *



「はい!? 何これ!?」


 義母様の声が聞こえる。

 どうやら私の悪戯に気づいたらしい。


「誰!? こんなことをしたのは!」


 誰? と言いながら、どたどたとやってくる義母様の姿。

 あんたでしょうと言わんばかりの顔だ。

 まぁ、私だけれど。


「何のことでしょう? お義母さん。色々とやりすぎて忘れちゃいました」


 本当に色々とやった。

 義母様しか使わない時間帯に冷蔵庫にサランラップを張り付けて取るのを邪魔したり、専用の引き出しの中に折り紙の鶴を入れてみたり、毎回プリンの蓋に『義母さんのもの』と一つだけ書いたり――。


 歩いてきて軽く頭を叩かれる。

 愛情のこもった優しいものだった。


「いい加減にしなさい。あなたはもう妊婦なんだから――」


 お腹も随分と大きくなった。

 あれだけ毎日のようにやりあっていた悪戯の回数も随分と減ってしまった。


 あえて言うまでもないけれど、私の悪戯は上記にあげたようなものだけではない。

 毎日のようにくだらない子供じみた悪戯を続けていたらいつの間にか義母様の方が折れてしまったのだ。


『もう私の負け。大嫌いな気持ちも馬鹿らしくなっちゃったわ』


 去年の敗北宣言を私は穏やかに受け入れた。

 だけど、その一方で悪戯が出来なくなったのが寂しくって、今もこうしてちょくちょくやっている。


 ある時。

 私は義母様に尋ねた。

 なんで、私にあんなことを言ってきたのかと――すると。


『あなたも男の子が生まれたら分かるわよ』


 なんて返事があったばかり。

 今、私のお腹に居る赤ちゃんはどっちで生まれるのだろう。

 そんなことを考えていると義母様は私の腹を優しく撫でる。


「頼むから悪戯好きにならないでね。あなたは」


 悪戯だって役に立ちますよ?

 ――なんて、喉にまで出かかったけれど私は何も言わず、穏やかに笑うばかりだった。

お読みいただきありがとうございました。

本来はもっと長い義母さんの嫌がらせシーンがあったのですが、どうにも生々しいというか現実は普通に仲悪くなって下手すりゃ離婚や別居だよなぁと思って全部カットしました。


おかげでスカスカになっちゃいました。

反省しています。

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― 新着の感想 ―
変に遠慮や我慢するより、出したほうがすっきりする、という感じですねぇ。 受けて立つ側が、悪戯好きでなければ、違ってしまいますが。
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