第十四話「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ」
「お主ではやはり死んどくか」
……え?
僕が?
このおじいさん――いや、神様が、笑いながら言った。
「やばい、怖い。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ」
思わず口から出た。 世間話みたいに軽く言わないでほしい。
「ちょっ、かみさ、ま?」
神は、軽く手を振った。 ただ、それだけ。
だけど。
ドサッ。
僕の視界が、すとんと落ちた。
ーーー
「キャッ!」
女の子の悲鳴が、遠くに聞こえる。
神は、その方へ振り向き、短く何かを呟いた。 音のない“言葉”だった。
次の瞬間、女の子の輪郭がゆらぎ、光の粒になって――消えた。
ミャウリが、やれやれ、という顔で肩をすくめる。
「気が変わったのかにゃ?」
神は、愉快そうにヒゲをさすりながら答える。
「どのみち、次元の狭間のゆらぎは予定にあった。数年、数十年早まったとしても問題はないでのう。ホッホッホッ」
「ニャルほどにゃ。でも女、消すことはなくないか?」
「ん?心配か。安心せい。女は自分の部屋に戻しただけじゃ。この一件の記憶も、きれいに消しておいた」
「そうかにゃ。では、異世界のこっちに来てた三人は?」
「やつらも記憶を飛ばした。転移の魔道具のバグも直したでな」
「ではまた天界で、いつもの日常に戻るだけにゃ」
「ふむ。ここには明日、客が来る予定じゃろう。後始末は人間に任せて、わしらは帰るかのう」
神の足元が、淡く光を放ち始めた。
ゆら、ゆら、と空気が歪む。
ミャウリはふと振り向き、カウンターの奥を見た。 そこには、さっきまで確かにヤツがいた場所。
空になったグラスが、ひとつ。 まだ冷たい水滴が、音もなく落ちていった。
「……」
光が、店内を包み込む。
ーーそして、誰もいなくなった。
次回最終話




