第十三話「原点にして超美味え」
「いやあ、まさか、まさかのそこで人に会うとはの?」
ニチャァァァァ。
指で空気をめくったみたいな、シュピァァァって音までついてきた。
……その含み笑いはやめてほしい。怖い。
「ほんとだよ。そこで、そのおじいさんと、ね」
女の子は申し訳なさそうなのに、なぜかミャウリとテンションが揃って
キャッキャッ、ワイワイ。
気持ちの切り替え速すぎる。
さてと。
「あなた様が……その……神様で。で、僕を轢き殺したって話は……?」
恐る恐る尋ねる。
「まあ、それはおいおい」
おいおい、で片付く案件?
「ゆくゆく分かるて」
ゆくゆく、で押し切る気らしい。
「とりあえず一杯よこしなさんな。ほれ、そこの若いのも立たせっぱなしは可哀想じゃろ。わしはビールをもらおうかの」
女の子はミャウリとセットみたいにストンと席へ着き、
「じゃあ、グラススパークリング二杯お願いします」
この流れに逆らうのは無理だった。
店の重力が、今日だけやけに強い。完全に術だろ。
僕はカウンターに潜りこみ、手を動かす。
ガス圧を少し上げ、ビール樽は手で持ち上げて残量を確認し、
冷蔵庫からタンブラー二つ、シャンパングラス二つ、
それにスパークリングワインのボトル。
ぜんぶ軽くすすぎ、並べているうちに、
三人の視線がぽそっと揃って僕に向いた。
「……じゃ、流れで。乾杯」
「「「かんぱーい」」」
うん、美味い。
標示よりガスを気持ち強めにしてあるから、香りの抜けが軽くてキレがいい。
「ぷはー。美味いの。やはりビールは原点にして……超、美味え」
おじいさんは一気に飲み干し、
タンブラーをコトンと差し出してくる。
「もーいっぱぁい」
その声だけ、妙に若い。
僕は冷えた新しいグラスを取り出し、
静かにビールを注ぎ、神さまへスッと滑らせる。
その瞬間だけ、店の空気がわずかに沈んだ気がした。
おじいさんはタンブラーを受け取りながら、
すこし遠くを見るみたいに目を細めて、
「ふむ……お主では、やはり死んどくか」
そう呟いた。




