第十話「ざわざわ」
「ミャウリちゃんだっけ?すごいね♡
どうやったらパッて出てこれるの?」
ディードさんはカウンターに身を乗り出して、
星みたいな目でミャウリを見つめていた。
「企業秘密にゃん。
それより、よく転移できたにゃ。
こんなモブ的鉄板焼きバーと、
モブオブモブの彼んところに」
いつもの鋭さでサクッと刺してくるので、
胸のあたりがちょっとしょんぼりする。
「と、とりあえず……ビールどうぞ」
「飲む♡」
花が咲いたみたいにうなずき、
ディードさんはメニューをぱらっとめくる。
「熟成サーロイン食べたい」
「今日は島根県産A4黒毛和牛がオススメです。
何グラムにします?」
「200くらい…?」
「300にゃ」
え?と僕はミャウリを見る。
「300にゃ。ミディアムレアにゃ。
ご飯は少なめにゃ」
言い終えると、いつのまにか持っていたビールを
半分だけごくりと飲んだ。
「ディードさん、焼き加減は?ミディアムレアで?」
「それで♡」
ふたりはそのまま女子会みたいなノリで話し始める。
僕は鉄板を温め、サーロインをゆっくり置く。
塩と胡椒が肉に溶ける音がして、
横ではガロニのニンジンとほうれん草も色を増していく。
「この前さ、ビール飲んでツマミ食べたじゃん?
そのあとクエスト行ったらね、もうね、ステータス爆伸びで!
いつもなら面倒なモンスターが瞬殺よ。パパーンとクレリと話して、ここで何か補正かかってる説出た」
ディードさんは嬉しそうに笑った。
「へえ……それは良かったです」
僕は半分信じつつ、半分お世辞で返す。
ミャウリはこくりとうなずく。
「まあ、ありえるにゃ。
世界の境目だと変な補正つくことあるにゃ」
皿に盛りつけ、ソースを添えてふたりの前に置く。
「お待たせしました」
ディードとミャウリはビールを追加し、
ステーキをぱくり。
「これ……めっちゃ美味しい!」
ディードさんの声がはじけ、
ミャウリも「なかなかやるにゃん」と満足げ。
そのあと3人で
異世界の話、こっちの話、くだらない話で盛り上がり、
1時間があっという間に消えた。
「そろそろかな。転移、また1時間で戻るんだよね」
ふわ…とディードさんのまわりが光り始める。
「美味しかった。また絶対来るね♡」
声も姿も、光と一緒に消えた。
慌ただしかったけど、
まあ……楽しそうだったし、良かった。
片付けながら、
ディードさんが置いていった宝石を見る。
その宝石に、同じ光のエフェクトがかかり……消えた。
「……は?」
ミャウリはお腹を抱えて笑う。
「そりゃそうにゃ。転移中の物、全部戻るにゃ」
「え?」
僕の声だけが、静かな店内に転がった。
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