第九話「圧倒的感謝」
クリスマスまで、もう50日を切った。
今日も今日とて、鉄板焼きバー「葦原」は営業中。
連休も明けて、今日は木曜日。
会員制の店だから、基本的に予約なしでふらっと来る客は少ない。
……先日のフッ軽なキラキラ女子2人組みたいなイレギュラーが無い限りは。
今日の来店予定は古くからの常連、某大手の三代目若手社長とお連れの2名。
コースにワインの抜き物まで入れてくれて、本当にありがたい。
お客様も帰り今日の来店予定もないので
一段落
クリスマスの内装やメニュー考えたり
営業LINEしたり
僕はスマホで新しい料理のアイデアを探していた。
そのとき。
――パチ、パチッ。
照明が瞬き、スマホの画面がブラックアウト。
BGMにザザッとノイズが走った。
「またか……?」
店内に淡いエフェクトが広がり、
見たことのない文字列と、ゲームの魔法陣みたいな紋様が宙に浮かんで回転し始める。
うわ、完全に前と同じ流れだ。
魔法陣だけか、それともまた3人組?
まばゆい光が弾け、
その中心からフードを深く被った人影がひとり。
見覚えがある。
間違いなく――先日、飲み逃げ未遂の3人組のひとりだ。
人影は無言のまま手をこちらに向けてくる。
途端に、僕の身体は光のエフェクトに包まれた。
「……」
どこからか、小さく 「チッ」 という舌打ちが聞こえた気がした。
気のせいか? エフェクトのノイズか?
やがて光が収まると、
フードの人物はそれを外しながら、柔らかい声で言った。
「こんにちは。会話、わかって?」
「こんにちは。わかります。今回も……魔法? 翻訳? そんな感じですか?」
僕はカウンターの席を示す。
ディードさんはうなずき嬉しそうに笑って「ありがとう♡」と言いながら座った。
「いや〜……失敗に成功してよかったわ。また来れた♡本当に前回ありがとうね♡圧倒的感謝」
「……失敗に成功?」
僕が首をかしげると、ディードさんは肩をすくめ、嬉しそうに語った。
「前回エラーやバグで偶然ここに飛んできたでしょ?
だからね、その“バグ状態のまま”履歴を固定して……
少しだけ直して再チャレンジしたの。
一回試したけど失敗して、その次が今日♡」
この人、かわいい声で言ってるけど、やってることめちゃ高度じゃない?
「そういえば、一度だけ魔法陣っぽいのが出た日がありましたよ。
3人組が来た数日後に」
言いながら、僕はお水とメニューを渡す。
ディードさんはメニューを見た瞬間、
ぱああああああああ と、全身から光が出そうなレベルで喜んだ。
そして――
気づけば僕の隣に、ミャウリが当たり前のように立っていて、
同じく ぱああああああああ となっていた。
「なんでやねん」
僕のツッコミが、静かな店内にこだました。




