小説家 4日目
今日は、2025年7月13日。窓を叩く光は昨日と変わらぬ強さだ。カーソルは、相変わらず無言で明日を刻む心臓のように点滅している。私は、なぜか微かな昂揚感を感じた。
アイデアノートを開く。白い頁が目を刺す。喪失を刻んだ虚ろはまだ残っている。だが、ふと頭をよぎったのは、もっと大きなものだった。長編。昨日まで押し潰していた空白が、突然、無限のキャンバスに見えた。指が震えた。それは恐怖よりも、途方もない野望に揺れる興奮だった。
とりあえず文字を打ち始めた。
『今日は、2025年7月13日。』
文字が流れ出す。水を一気に飲み、冷たさで覚醒を促す。長編小説を書くために、アイデアノートの新しいページを埋め始めた。主人公の名、わずかな設定、ぼんやりとした結末への道筋。300字を超えた頃、頭の中は構想で膨れ上がり、背中は熱く、キーボードを叩く指は軽やかだった。
しかし、細部を埋めようとキーボードに向かった時、私は今日の朝に感じた微かな昂揚感は、危うい期待であることに気づいた。アイデアノートに走り書きした言葉は、突然、色褪せた落書きのように思えた。空白が、再び巨大な壁となって迫る。頭は、空っぽだった。
保存ボタンは押されないまま、画面は真っ白。点滅するカーソルは、今や無慈悲な秒針のようだ。昨日感じた空白の重さは、計画の巨大さに押し潰される挫折感へと変貌していた。
結局、私は長編小説を書くことを諦めて、短編小説を書いた。また、生み出せなかった長編小説のアイデアノートは捨てた。そして、冷房の風が鋭く首筋を切り、明日への鼓動は、鈍く、遠く聞こえた。