9 『爆弾(ダイナマイト)』……後編
「まだ見つけておらんようだぞ」
シロが天上の雲をちぎりながら苛立つ。
「ま、焦らんでも。順調に進んでるじゃないか」
「そりゃそうだが……」
シロの答えにトランザニヤの口元が緩んだ。
「ところで……東雲さんは?」
「ああ、握り飯をこさえに行った」
「そうか……飯も食わずに見ていたからな。ははは」
「まぁ下界の一日は、ワシらにとっちゃ……1分ほどだからな」
二人はニヤリと笑って、下界を覗いた。
◇(主人公のゴクトーが語り部をつとめます)◇
一瞬、ゾワっと身体が【覇気】を感じた。
その瞬間、木々の隙間から突然、襲いかかってきた。
両脇から現れたのは、まるで巨狼のような──『AAAランク指定』の魔物。
俺は警告を飛ばす。
「『ジャイアント・ファング』だ。こいつら、強いぞ……気を抜くな!」
仲間たちは一斉に飛び避ける。
(*アカリの避けるイラスト)
美しい跳躍を見せるアカリが敵に切り込む。
「巫代流舞刀術、二の型 【風音斬】─────!」
"⋚⋚⋚⋚⋚⋚”
”ビュ────ッ!”
”ガシャ───ンッ!”
キラキラキラキラ
斬撃が一閃し、切り裂かれた『ジャイアント・ファング』は、ガラスが割れたような音とともに消滅した。
だが───跳ねながら現れたもう一体。
その瞬間、俺の反射神経が血を滾らせる。
「巫代流抜刀術───【牙山の太刀】!」
シュン
【黄金桜一文字】を横一閃に抜刀。
カチンと刀を鞘に収めた。
───次の瞬間。
空気がビリビリと震えだす。
"ᜰᜰᜰᜰᜰᜰᜰᜰ”
"バリバリバリィ────ッ!”
雷の斬撃が、『ジャイアント・ファング』に命中した───。
「ワオォォォォォンッ!」
だが、雄叫びを上げる『ジャイアント・ファング』がそれに耐えた。
「なにぃっ?」
俺は驚き、思わず声が出る。
まるで、吸収するかのように『ジャイアント・ファング』の体が雷をまとう。
次の瞬間──「オオオオオオ──────ンッ!」
『ジャイアント・ファング』が再び、雄叫びを上げた。
体を激しく揺すりながら前足をあげる。
"バリバリバリィ────ッ!”
雷の攻撃がアカリに向かって放たれた────。
アリーが魔導銃に指をかけ叫んだ。
「アカリねぇ、よけりゅにゃ───!」
その時、パメラが叫ぶ。
「【ウォーター・ブルン】!」
アカリの前に、まるで水の盾のような壁が浮かび上がった。
『ジャイアント・ファング』の雷攻撃をそれが弾く。
「今!」
ザシュ
その瞬間───キラキラキラ。
アカリが【黄金桜千貫】を振り下ろし、『ジャイアント・ファング』を消し去った───。
どこか安堵したかのように彼女が大きく息をつく。
一方で冷静な声がアカリに向けられる。
「ネー、本番はこれからよ」
ジュリも額の汗を拭う。
「ゴクッ」
呼ばれたかと思い、俺は振り向いた。
「ん?どうした?」
だが違った。
口角を上げるパメラが───魔力回復ポーションを一気に飲み干す音だった。
ちょっと恥ずかしくなる。
そんな中、仲間たちの顔を眺めながら思う。
背中を預けても、安心できる。
良い仲間に恵まれたな……。
口元が緩み、テンガロンハットの鍔を下げる。
一瞬、場の空気が和みかけたが、アリーが尻尾を直立させて、魔導銃を構える。
「行くにゃ!」
「ああ」
大きく息をつき、二刀の【桜刀】の柄を強く握った。
***
───【45階層のボス部屋の前】
緊張した空気が周囲に漂う中。
パメラが大きく背伸びして声に出す。
「気合いを入れなきゃねん」
ブルルン
彼女が姿勢を正す。
次の瞬間───
”バアアアアアアアアアアアンッ!”
『爆弾』の風圧が───ボス部屋の扉を開けた。
名付けるなら『静と寂』が俺を睨む。
い、いかん、妄想が……。
そんな俺を他所にパメラが一言。
「あら、開いたわ。行くわよ、ゴクちゃん」
(*パメラの装備は赤魔導士のコスチューム)
しれっと杖を握り、彼女が艶っぽい目を向ける。
笑えない。俺は冷や汗が止まらなかった────。
パメラを先頭にボス部屋に足を踏み入れる。
ん?、なんか雰囲気が、って感じだな。
見たこともない光景が飛び込んでくる。
ボス部屋の中は、ただならぬ空気が漂う。
暗い背景に鎮座するいくつもの人柱の彫刻。
彫刻には奇妙な蔦の長い植物が絡みつく。
それが眩い光を放っているように見えた。
いつ、階層ボスが現れるか分からない状況。
俺は仲間たちを見やる。
瞬間────何かの動きを感じ取る。
シュルッシュルッ!
目の前に真っ赤なスプリットタン(先が二つに分かれた舌)が現れた。
肌に感じる生温かい風。漂う生臭い匂い。
ズルズルズル───
まるで地面を引きずるような低い音。
一瞬、凍える、と感じる冷気にゾクゾクっとする。
「来る!」
俺の声とともにその瞬間、パメラが口を開く。
「三頭を持つ蛇の魔物───初めてみるわ……。こいつ『SSランク指定』の『ゴルーゴン・サーペント』よ……」
彼女の声が珍しく震えていた。
黄金の目に、金色に煌めく鱗を見た───その瞬間。
俺は勢い余ってコケた。
顔に熱が籠る。
恥ずかしさを誤魔化し、仲間たちに目を向けた。
そんな俺を他所に、武器を構え仲間たちはそれぞれに散開。
ひりつく空気が漂う中、モフモフの尻尾が直立する。
「いっけにゃ────っ!!」
アリーが叫びながら魔導銃の引き金を引いた。
"バァァァァンッ!”
光弾が放たれ────轟音が響く。
その瞬間───三つの頭のひとつがキラキラと微塵に消えた。
だがしかし、左頭が目を光らせたその瞬間───アリーとアカリの動きが止まる。
「目を見ちゃだめにゃ!」
身動きの取れないアリーが声を上げた。
同じく動けずにいるアカリ。
「みんな、逃げて────!」
彼女の声がボス部屋に響く。
俺は周囲を見て【黄金桜一文字】を強く握る。
その時パメラが動いた。
「【ブルンブルン・ファニ────ス】!!」
彼女が詠唱────真紅の魔法陣が広がった。
「【麻痺解除魔法】か、さすがだ、パメラ」
思わず声を張った。
次の瞬間───アリーとアカリが動き出す。
シュルッシュルッ!
右頭が赤舌を出し、俺たちに牙を向け襲いかかってきた。
だが、その瞬間、空気が震える。
ゴゴゴゴゴ……
「燃え盛る火山よ、地の怒りを解き放ち、天より降り注ぐ熾熱の礫よ───」
瞼を閉じて詠唱するジュリ。
その身体が桜色の光に包まれた。
「その深淵の炎で敵を焼き尽くせ───【ボルケーノ・エクスプロージョン】!!!」
彼女は目を開き、透き通るような声で叫んだ────。
ジュリが炎属性最大級の魔法を展開した。
"ゴォォォオォォ────ォッ༅༄༅༄༅༄༅༄༅”
灼熱の炎が『ゴルーゴン・サーペント』の右頭を焦がす。
焦げた匂いと黒煙が周囲に漂う。
パチパチ
周囲には火の粉が舞う。
やがて、視界は晴れ敵の姿は消えていた。
「やっつけたにゃ!」
アリーが垂れ耳をはためかせ、飛び跳ねた。
だが、次の瞬間───
俺は何かを感じ、声をあげた。
「まだだ!来る!」
突然、地を這うように左頭が突進してくる。
俺はジュリを庇いながら【桜刀】の二刀流で迎撃。
雷の斬撃で頭を狙う。だが、瞬時に避けられた。
その時───桃色の髪を靡かせアカリが敵に飛び込む。
「巫代流舞刀術─── 九の型─── 【卍炎殺】!」
彼女は唱え、打ち下ろす【黄金桜千貫】が閃めく。
"ゴォォ──ッ༅༄༅༄༅༄༅༄༅”
炎をまとう刃が敵を切る。
カキンとした金属音が響く。
しかし、その一撃は硬い鱗に防がれた。
一瞬、火花が散り俺の髪が少し燃える。
一方でアカリが悔しそうに声を出す。
「くっ!これでもダメですか……」
そう言って彼女は敵から離れた。
その表情には焦りが滲んでるように感じた。
俺は黙って見てるわけにはいかなかった。
「俺の髪……」
だが、一歩、踏み出した灰色の瞳の彼女は目を爛々と輝かせる。
……ってかパメラ、何をする気なんだ?
俺は突然の彼女の動きに困惑する。
「今、みんなの魔力を回復させるわね」
パメラが勢いよく、振り返ったその瞬間。
『爆弾』が激しく揺れた───
”ブルルルルルルルルン”
最大級の竜巻が『ゴルーゴン・サーペント』を巻き込んだ。
シャアアアアアアアアアア!
”バァ──────ンッ!”
『ゴルーゴン・サーペント』が壁に激突。
キラキラキラキラ
赤い粒に変わり───ボス部屋が染まった。
静けさの中、垂れ耳をはためかせアリーが声を上げる。
「今度こそ、やっつけたにゃ!」
彼女は跳ねながら喜びを顕にする。
その様子を見て安堵したのか、ジュリが口を開く。
「パメラさん最後のトドメ、マジでカッコよかった!」
パメラに飛びつき、全身で喜びを表現していた。
おいおい……一番凄いのって……パメラの『爆弾』なのか?
重宝に使うよ。……全く。
思ったが口には出さず。 ま、得意技ですけども。
勝ちの余韻に浸る中、アカリが声を上げる。
「パメラさん……また、あなたに助けてもらいましたわ」
彼女が深く一礼し感謝を述べる。
すると得意げにパメラも答える。
「あたいの『爆弾』に任せてよん!」
自信たっぷりに『爆弾』をポンと叩く。
その瞬間───仲間たちが飛び避けた。
「危ないにゃ」
「揺れなかった」
「パメラさん気をつけて」
「髪の火、消えたな」
パメラ、ほんとっ!気をつけろよなッ!
……ってか、みんな本当に凄いな。
俺は口元を緩め、仲間たちを見つめていた。
しかし、余韻に浸る時間はわずかだった。
突然、 ジュリが声を上げる。
「へんダー! 宝箱が出たーっ!早く早く」
彼女が手招きする。
するとアカリがジュリの横に並び立ち、「凄い……これは、かなりの当たりかも!」と、珍しい言い方の一言。
全員がうなずき大きな宝箱へと目を向けた。
アリーが警戒しつつも尻尾を立て、「こんな場所に宝箱にゃんて、罠じゃにゃい……?」と瞳を輝かせるように言った。
「慎重に開けてみるか。もし罠だったら、俺が対応する」
俺は宝箱の前に進み出た。
【黄金桜一文字】を片手に構え、慎重に蓋を開ける。
瞬間、宝箱の中から眩い光があふれた。
金貨、宝石、魔導具が俺の目に飛び込んでくる。
精巧なローブや防具まで───中身は目を疑うほどの財宝。
そして、『宝玉の付いた指輪』がひとつ。
七色に輝くそれが俺の目を引く。
輝く魔石の他にも、古びた巻物が収められていた。
アカリがその中の一枚、地図を広げて見つめる。
パメラが声を上げつつ、「これは……大当たりすぎるわねん」と光る金貨を手に取る。
多分に漏れず、いや声が漏れた。
「凄いの引いちゃったな……」
俺は宝箱を丁寧に、『アイテムボックス』へ収納する。
一方、アカリが地図を見ながら、解読を始めた。
「見て、この地図、ポータルの位置を示してるわ。どうやらこの階層は下の階へと繋がってるみたい。きっと転移のポータルが隠されているのよ!」
すると、ジュリがさりげなく奥を指さした。
「へんダ───、この宝箱の後ろに……階段があるよ!」
彼女の声は驚きを隠せないほどの音量。
見ると確かに下へ続く階段があった。
「ヨシ!進むぞ!」
俺は気を引き締め慎重に階段を下りた。
***
「すごいな」
驚きの一言が思わず漏れた。
そこには幻想的な光景が広がっていた。
暗闇の中に浮遊する無数のクリスタル。
そして──揺れる数種の奇妙な植物がほのかに光を放つ。
その中心には金の魔法陣が浮かび──【転移ポータル】が目の前に現れた。
近づくジュリが口を開く。
「これって……もしかして?」
それに答えるようにアリーが声を出す。
「にゃ!これは確定にゃ!」
彼女の口元が綻ぶ。
俺は疑心暗鬼になりながらもアリーに確認する。
「ダンジョン……クリア、ってことか?」
「そうにゃ!こにょ転移ポータルは色が違うにゃ、ダンジョン完全踏破の証にゃ!」
アリーの表情は確信が宿ってるかのようだ。
俺たちはダンジョンをクリア─── 踏破した。
そして、パメラが紫の髪を靡かせ俺の肩をポンと叩く。
「クリアおめでとう、ゴクちゃん!今日は本当に最高だわ!」
彼女が笑みを浮かべ俺をじっと見つめる。
一方でジュリの横に立っていたアカリも声に出す。
「おめでとうございます。リーダー様がお持ちの……〝お宝〟に期待していますわ」
囁くような吐息が耳にかかり、俺は背筋が震える。
その囁きは甘いが、いや、鋭い牙だな、と俺の心を抉った。
ジュリとアリーが抱き合いながら笑みを浮かべる。
「みんなで帰りゅにゃ!」
アリーがフリフリと尻尾を揺らし、垂れ耳をピクピクとさせる。
「ああ……」
【転移のポータル】に向かい、俺たちは足を踏み入れる。
【"シュ──── ──── ──── ン”】
***
一瞬、目が眩んだが、雲ひとつない空が青く澄む。
俺たちは気づいた職員に目を丸くされた。
「も、も、もしかして君たち、と、踏破したのか??」
「「「「「 イエ───ス!!!!! 」」」」」
五人で答えた。声が自然と揃う。
驚きを滲ませる職員だったが、間をおいてにっこり、親指を立てる。
差し出される【攻略証明書】を受け取った。
証明書を手にした瞬間───「やった!」と、全員で笑い合った。
「俺たちはギルドに証明書を提出しに行くから、これで」
ギルド職員にそう告げて、支部へ向かった───。
そして──俺の独り言。
「仲間っていいもんだな」
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