7 『爆弾(ダイナマイト)』……前編
「再開したみたいだぞ」
黒銀の目の友こと、トランザニヤが声をかける。
「ああ、見つけられると良いがな?」
「あなた、なんのことですか?」
東雲がシロとトランザニヤの会話に割って入った。
「東雲さん、七星の武器ですよ。あなたが持ってくれている……その指輪もそうですが……」
「あら、七星の武器は、他にもまだあるんですか?」
「いや、地上にあるのは全部で20ほどです」
トランザニヤはバツが悪そうに答える。
「そんなに……」
東雲は言葉に詰まった。
「見つけても、使い手との相性があるからな……」
シロの顔も曇る。
「ま、七星の武器たちが相手を選んで運命を決めますよ」
トランザニヤはあっさり語る。
「見ものだな」
シロがそう言うと三人は下界を覗き込んだ。
◇(主人公のゴクトーが語り部をつとめます)◇
「グオオオオオオオオオ!!!」
怒り猛る咆哮が、40階層のボス部屋に響く。
「ここまでのどの敵よりも……強敵よ。『メカ・ミノタウルス』……『AAランク指定』の魔物まで、やっぱり出てくるのね」
パメラの額に汗が滲む。
彼女は敵を見つめ詠唱する。
「【ブルン・ガム・ウォール】!」───杖を勢いよく握った。
ブルルン
パメラの『爆弾』が空気を震わせる。
次の瞬間───『メカ・ミノタウルス』が強風で怯み膝をつく。
「相変わらず、すごい威力だなっ!」
思わず声が出た。
パメラお得意の真紅の魔法陣が浮かび───ジュリの周りには柔らかい紫色の膜が張り巡らされる。
ジュリが瞼を閉じ詠唱を始める。
一方、尻尾を立てるアリーが魔導銃を構える。
だが、ここまでにもう相当な魔力を消費してる。
「打てても、あと一発ぐらいか?」
アリーに尋ねると彼女の垂れ耳がピクッと動く。
緊張の中、『メカ・ミノタウルス』の金色の眼光が鋭い光りを放つ。
どうやら俺たちの動きを観察しているようだ。
次の瞬間───グワッ……グワワワワ……
『メカ・ミノタウルス』は凍えるような【覇気】を───纏う。
これを見逃さなかったのはジュリ。
「燃え盛る火の妖精サラマンダーよ。今、その力を解き放ち、その深淵の炎で敵を焼き尽くせ!!」
詠唱を終えたジュリが魔法を放つ。
「【エクスプロージョン】!!」
"ボォ༄༅༄༅༄༅༄༅༄༅༄༅༄༅༄༅”
(*ジュリが魔法を放つイラスト)
熱気が部屋を包み込む。
しかし、『メカ・ミノタウルス』はそれを受けても微動だにしない。
「フシュ───!」
『メカ・ミノタウルス』の鼻息の冷気がボス部屋の空気を変えた。
次の瞬間──『メカ・ミノタウルス』が大斧を振り上げる。
「アカリ───!」
「っ……!」
”ガキィーンッ!”
火花が散り、焦げた匂いとともに高い金属音が鳴り響く。
アカリを庇い、俺が大斧を受け止めた。
だが、鋭い眼光で『メカ・ミノタウルス』がさらに力を込める。
「くっそ……なんて力だ……重すぎるだろ……」
【桜刀・兼松桜金剛】を持つ手が震え、膝が折れる。
「くっそ、ぐぅぁ……はぁはぁ……」
息切れしながらも『メカ・ミノタウルス』に集中した。
ゴゴゴゴゴ……
その時、魔力が集まるのがわかった。
俺の後ろで白光が輝きを増す。
一瞬、振り向くとアリーと目が合う。
次の瞬間、アリーが魔導銃の照準器を覗き込む。
”キィ────ン”
俺は【桜刀・兼松桜金剛】を捻りながら打ち下げ、飛び避ける。
その瞬間、アリーが引き金を引いた。
「くりゃぇ────!」
”バァアアアンッ!”
凄まじい魔力を込めた魔導銃の一撃。
「グオオオオオオ!」
『メカ・ミノタウルス』は咆哮を上げ、その瞬間──
パラパラパラパラ
キラキラとした────赤い粒が目の前に広がる。
「ゴトッ」と音を立てる赤い魔石。
両手で持っても、余るぐらいの大きさ。
それが床に転がる。
「はぁはぁ……」
息を整えながら【桜刀・兼松桜金剛】を俺は鞘に収めた。
魔導銃を下ろすアリーは肩で息をしていた。
俺は思わず声をかけた。
「大丈夫か?助かったよ、アリー」
「これぐらいにゃら……」
彼女はそう言いながら額の汗を拭う。
やはり相当疲れているようだ。
モフモフの尻尾が床を這ってる。
「……パメラ、アリーの回復を頼む」
パメラが胸を押さえ、杖を振る。
「【マジック・ヒーリー】!」
真紅の魔法陣が展開され、紫の光がアリーを包む。
「……はぁはぁ……行くわよん」
声でわかる。
パメラも相当疲労困憊のようだ。
何だかパメラの身体が細くなったような……。
思いながらも、先に進む。
そう、ダンジョンの魔物は待ってくれない。
俺たちは攻略を再開し、息切れしながら階層を進んだ。
進むにつれ、迫り来る敵の威圧感はさらに増していった───。
***
41階層 リザードキング ボス メタルリザード
42階層 グリフィン ボス キマイラ
43階層 ウォルトロス ボス メカ・ルシトロス
思えば強敵だったが───丸二日かけてここまでクリアしてきた。
俺は『アイテムボックス』をあさる。
「っく……」
回復アイテムもそろそろ底をつく。
だが──歩みを止めなかった。
44階層に入るとそこは───ジャングルエリア。
強い日差しとじとりとした湿度。
「ホーホーホー」
かすかに魔物の鳴き声が聞こえる。
鬱蒼としてる木々を避けながら、周囲に細心の注意を払い進む。
突然、目の前に現れたのは───『AAランク指定の魔物』。
『ラミアコマンド』が二体現れた。
上半身は美しい人間の女性で下半身はうねる蛇の体。
その瞳には狡猾さが光り、三叉の蛇尾が俺たちを牽制する。
二体が攻撃体制に入った。
彼女たちの存在感に凍えるような冷たさが漂う。
仲間たちは咄嗟に展開。
横にいるジュリが俺に一言投げる。
「これ、結構ヤバイ相手じゃない?」
片眉を上げ敵を一瞬睨み、詠唱を始めた。
アリーが魔導銃に照準器を覗き、指をトリガーにかける。
「やりゅしかにゃい!」
次の瞬間、彼女の身体の周りには白い魔力が輝く。
魔力もあまり無いのに、動作に迷いがないな、とその時思った。
「行くぞ!」
仲間に号令をかける。
その瞬間───緊張が頂きに達する。
”ぐぅぅぅぅ”
俺の腹の虫『ぐぅさん』が泣いた。
おい、今はタイミングが違うだろ?
そんな俺を他所に次の瞬間───
「いっけにゃ────っ!!」
アリーの叫び声が戦闘の開始を告げる。
”バァアアアンッ!”
キラキラ
────赤い粒が俺の目の前で散っていく。
魔導銃から放たれた光弾が鋭い軌道で、『ラミアコマンド』の一体に命中する。
その瞬間───周囲に目を配る。
ジュリの目が大きく開き、声を張る。
「こんなところで、負けてられない!!」
それは彼女自身の負けず嫌いな性格が現れた言葉だった。
ジュリが杖も振らずに左腕を上げ、何かを投げるように言い放つ。
「凍てつく氷の槍よ、我が前の敵を貫き通せ!
【アイス・ガリガリ・ク───ン】!!」
*─=≡.。o○❄❄❄❄❄❄❄❄❄❄❄→
*─=≡.。o○❄❄❄❄❄❄❄❄❄❄❄→
*─=≡.。o○❄❄❄❄❄❄❄❄❄❄❄→
*─=≡.。o○❄❄❄❄❄❄❄❄❄❄❄→
"ドスドスドスドスッ!”
空中に無数の氷の矢が現れ、『ラミア・コマンド』の体を容赦なく貫く。
「ぎゃあああああああ!」
『ラミアコマンド』は悲鳴を上げ、瞬間、キラキラ……赤い粒に姿を変えた。
ゴト…ゴトンッ
赤い魔石とともに赤い液体が入った小瓶が地面に刺さる。
安堵の表情を見せる仲間たち。
パメラが魔石に近づく。
「大きな魔石、それと、ドロップアイテムもあるわん……」
彼女はつぶやきながら、拾った魔石と小瓶を手に取る。
その魔石の表面は滑らかに輝き、かつてない程の大きさ。
小瓶の方は真紅の液体が艶やかに光っていた。
「ゴクちゃん、これって魔力回復薬だと思うわん。飲んでもいいかしらん?」
パメラがウィンクしながら俺に甘えるように問いかける。
「ああ、別に構わないが……」
”シュポン”
俺の言葉を聞くや否や───パメラが小瓶をゴクゴクと飲み干す。
「っえ?」
「何でにゃ?」
「パメラさん?」
俺は仲間たちと目が合う。
その瞬間、パメラの身体に異変が起きた。
ギルドで待ち合わせしてた時の彼女の姿が思い浮かぶ。
(*ギルドで待ち合わせした時のパメラ)
あれ、こんなだったよな……。
……ってか、そんなこと、あんのかァッ!?
みるみるうちにパメラの身体が細くなり、顔も若返っていった───。
「おい!パメラ……若返ってるぞ!」
「うふふん」
彼女が艶やかな鼻声を出す。
確かに見違えるようなパメラが鏡を取り出し、自分の姿を見ている。
それを見ていたジュリが眉を寄せ、口を挟む。
「パメラさん、細くなった……小瓶のせい?それとも魔力の使いすぎ?……変な体質なのね。 ま、その話はおいおい聞くわ……」
「ジュリちゃん、あたいの家系の女は、胸が揺れると魔力が消耗して、痩せていくのよ……笑っちゃうでしょ。いいダイエットにもなるのよん」
パメラが自慢げに口元を緩めていた。
「おい、何だよっ!そのダイエット!」
思わずツッコム。
そんな俺を尻目に別段、驚きもしないジュリ。
彼女が口を開く。
「それよりその魔石、結構な金額になるんじゃない……?」
一方、話を聞いてたモフモフの尻尾が真っ直ぐに立つ。
「換金しゅりゅのが……楽しみにゃ……!」
ジュリの問いに、アリーが笑みを浮かべ垂れ耳をはためかせる。
「絶対高く売れりゅにゃ!これでおいしいご飯が、いっぱいいっぱい食べられりゅにゃね!」
アリーが嬉しそうに口元を拭い、立てた尻尾を振っていた。
「ゲラゲラ」とした、仲間たちの笑い声がダンジョンに響く。
パメラの異変に……誰も突っ込まないの?
思ったが口には出さない。
仲間たちの気にしなさに少しだけ困惑。
そんな中、影のリーダーことアカリが少し声を張った。
「……行きますわよ」
低い声のアカリに従い、一息つき頷く。
仲間たちも歩みを進め、ジャングルの中を彷徨う。
暫く進むと周囲に漂う空気がただならぬ雰囲気に変わった。
「ボスだな……」
俺はつぶやきながら進んでいく。
鬱蒼とした木をバサッと避ける。
すると急に開けた場所に出た。
案の定だ。
「グルルルルルルルルル」
緑色の涎を垂らしながら唸る魔獣───『AAAランク指定の魔物』。
俺たちより数倍でかい。それは狼の親玉のような───『ウルトロス』。
後から続く仲間たちにも緊張が走る。
突然、バサッとわけ出てきたアカリ。
彼女が桃色の髪を靡かせ、勢いよく走る。
「これでも受けてみなさい!」
アカリが”バッ”と大きな扇子を広げた。
「巫代流舞刀術───七の型【虚風閃扇】───!!」
(*アカリの舞刀術のイラスト)
叫びながらアカリが扇子を切り下げる。
”バシュ” ”バシュ” ”バシュ” ”バシュ” ”バシュ” ”バシュ” ”バシュ”
『ウルトロス』に見えない斬撃が飛び、数箇所、奴の身体から緑の血が噴き出す。
多分……風属性の魔法だろうが、俺には全く見えなかった。
視力はいい方なんだが……。
彼女の戦闘は華やかかつ美しい。
その舞踏のような闘い方は───あまりにも綺麗で俺もドキッとする。
いかん、そんな場合ではなかった。
戦いに集中だ……と、我に返った。
アカリの斬撃に少し怯んだ『ウルトロス』だが、次の瞬間。
「グルルルルルルルル───!」
唸り声とともにアカリに襲いかかる。
咄嗟にアカリは飛び避けた───だが。
”ビリビリビリ”
すんでのところで、彼女の胸元の着物が食い破られる。
さらに、シューっと白い蒸気が上がった。
『ウルトロス』の唾液には酸が含まれている。
アカリの胸元がみるみるうちに───
俺はすかさず、目を逸らすようにアカリの前に一歩出た。
「ふぅ───」と息をつき、【桜刀・黄金桜一文字】と【桜刀・兼松桜金剛】を両手でもって逆手に握りしめる。
次の瞬間───
「ギャワグル───!」
『ウルトロス』が鋭い牙を光らせ、前足の爪を振り上げ、俺の目の前に迫った。
”シュン” ”シュン”
「巫代流居合い───【無の狂血】……」
カ、カチン
俺は二振りの桜刀を鞘に収めた。
「ギャワワッワ───!!」
”ビシュ” ”ビシュ”
雄叫びとともに『ウルトロス』の身体が三つになり、キラキラキラと赤の粒子に変わった。
アリーとジュリ、パメラが口をぱくぱくさせて目を丸くしていた。
次の瞬間───ゴゴゴゴゴ……
その場の地面が少しずつ歪み、地割れしていく。
だが、揺れはすぐに収まる。
俺の目の前には地下に続く階段が現れた。
俺をジッと見るパメラが口を開く。
「ゴクちゃん、階段を降りて『セーフティーゾーン』に行きましょう。アカリちゃんの……あれじゃね」
アカリを見ながら、彼女が胸を押さえニヤリと笑った───。
「中編に続くにゃ!」
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