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1  攻略開始!悲劇の妄想癖ゴクトー!

 



 

 神々は話し始めた。


「ゴクトー……ようやくパーティーを組んだか」


「ふむ。リリゴパノアだな。あの姉妹たちと組むとは、面白い展開じゃ」


「ま、奴らしい。古の末裔たちが揃ってるんじゃ。だが見つけられるかの? 

 あの……”ねじれ”に巻き込まれた師匠ナガラを……」


「いや、ナガラは単に”ねじれ”に巻き込まれたわけではないと思う。多分魔族が干渉してるな」


「異世界への転移か?それとも、この世界に転生しているのか?」


「それは、始祖である俺たちでもな。次元が違えば神も違う」


「そうじゃな……ワシの末裔の姉妹たちも必死に探しておるがな……」


「ただ……あの武器が揃えば、異界の門を開くことができるかもしれん」


「ダンジョンに隠された七星の武器か……」


「ああ、ダンジョン神、オグリが仕込んでいたな」


「見つけられると良いがな」


「……ふむ、そろそろ始まるかの。ゴクトーの冒険が」


「おいおい、あまりでしゃばるなよ」


 シロは黒銀の目の友と笑っていた。


 神々は下界を覗き込む。






 ◇(主人公のゴクトーが語り部をつとめます)◇





 

 俺は師匠とともに冒険者になって旅をしていた。

 だが、2年前師匠は突然失踪した。


 師匠の言い残した”ねじれ”とは何なのか? 

 謎は残ったままだ。

 

 このダンジョンに来たきっかけは師匠を探すためだ。

 偶然にも師匠を探す義理の妹たちとここで知り合った。

 話し合って彼女たちとダンジョンに挑むことになったのだが……。


 しかし、俺は『ヤマト』出身の姉妹の他にも、魔導士のパメラとフロッグマンとの混血のノビ、狼の獣人の女の子アリーとパーティーを組むことに。

 

 そして、パーティー名は───『リリゴパノア』。



挿絵(By みてみん)

(*左上アリー、真ん中ゴクトー、右上はノビ、左下アカリ、真ん中下ジュリ、右下パメラ)


 

 皆の名前から取った名前にした。

 名付けが得意な俺の唯一の取り柄だ。



 このダンジョンに挑む理由は2つある。

 ひとつは、もしかしたらダンジョン内で俺の師匠が見つかるかもしれない。

 ダンジョン好きの師匠だから……。かすかな望みかもしれないが……。

 

 もうひとつはこのダンジョン内に七星の武器が埋まっているという噂。

 なぜ、それを探すのか……きっと何かの力が宿されてるに違いないと。

 それを知った時、少し未来が見える気がしたんだ。


 こうして、俺たち『リリゴパノア』は【アドリア公国】の北西部のビヨンド村に出来た新しいダンジョンに挑むことになったんだ。






***





 ダンジョンの暗い入口を抜け、薄明かりが差し込むフロアに足を踏み入れる。



 一瞬、生暖かい風が吹き抜ける。



 俺と先頭を歩く武者姿のアカリ。



「暗いわ」 



 魔導士のジュリがつぶやき、「【パル・ルームス】!」と、続けて詠唱。



 "ボォ༄༅”



 舞う埃が一瞬、焦げ臭い匂いを周囲に漂わせる。


 彼女は杖の先に炎を灯す。


 その炎が風に揺れ、天井に映る──影が壁に長く伸びる。



 狼の獣人アリーが垂れ耳をピンと立て、魔導銃を構える。



 キュタンキュタン。



 その音、気になるんですけども。


 

 口元が緩むが内心思いながら振り帰る。

 

 フロッグマンの混血、ノビが爬虫類っぽい足音を響かせる。


 彼の表情は真剣そのもの。


 まだダンジョンに入って間もないというのに、彼の額には汗が滲んでいた。



 その時──



 経験者の赤魔導士パメラが口を開く。



「編成はどうするのよ、ゴクちゃん?」



 その声はどこか艶っぽい。



 少し考えてから──



「俺とアカリが前衛。中衛はジュリとアリー。後衛はノビと、あんただ」



──簡潔に指示を出し前を見据えながら進んでいく。



 狼狽える彼女が背中を見てつぶやく。



「あんたなんて……そんな言い方……あたい好みの、どSよぅ……やっぱりねん。ゴクちゃんの、この雰囲気───ゾクゾクするわん」


「っえ?何か言ったか?」



 パメラの小声はよく聞こえなかった。


 だが、 彼女が声を震えさせ俺に答えた。




「……いい……わ……それに従うわ」



 パメラは紫の髪を耳にかけ前を向いた。


 彼女が朱い顔のまま、詰まりながらも答えたその瞬間────



 ギラリン✧



 俺を見つめるパメラのグレーの瞳が閃く。



 な、なんだ?この感覚……。


 

 ゾワゾワっとしたが、と背中に寒気を感じた。



 凛として隣を歩くアカリが口を開く。



「行きましょう」



 彼女は冷静な態度を崩さない。


 先陣を切りゆっくり進んでいく。



 これが迷宮なのか? 行き止まりや、トラップは多々あるが、そうは思わないが……と、俺は歩みを進める。


 魔物は襲ってはくるものの、仲間たちはものともせず、アカリを先導に進んで行った───。



 1階層  タイル張りのような迷路が続く中、軟体なスライムを倒す。  


 辿り着いたボス部屋で待っていたのは、キングスライム。



ボヨーン



 ”シュンッ!”



 跳ねたキングスライムにアカリの扇子による一閃。


 キングスライムは魔石と化す。


 ボス部屋には地下へ続く階段が現れた。


 アカリが先導して短い階段を降りる。



 2階層  土壁が続く。迷路はない。青い肌の小鬼、ゴブリンたちが群がってくる。


 だが、魔導士のジュリの火属性の魔法や俺の抜刀術で倒していく。



 ボス部屋  ゴブリンソルジャーとの戦闘。



「ぎゃぎゃ」



”バシュ”



 俺はゴブリンソルジャーを切り伏せた。



 シンプルなんだな、ダンジョンの構造。

 ……ってか、弱すぎるんだが。



 思いながらも先に進んだ。



 『ガンガン行こうぜ』の作戦で、敵を蹴散らしながら進んでいく。




 3階層  犬と人間を混ぜたような魔獣コボルト。必要に嗅覚が良いらしくすばしっこい。


  ”ボォ༄༄༄༄༄༄༄༄༄༄༄༄༄༄༄༄༄༄”


 

 アリーの魔導銃が火を吹く。 

 焦げた匂いとともにゴツゴツした石床に魔石が転がる。


 それをノビが拾い集める。


 階層ボス部屋に着いた瞬間、コボルトソルジャーの鎖付き斧が唸りを上げる。



”ズバッ”



 だが、アカリは【桜刀】を抜いて一閃。


 その軌道を読んでいた───。




 4階層 スケルトン      ボス  スケルトンキング。

 5階層 ゴブリンソルジャー  ボス  ゴブリンジェネラル。

 6階層 ビッグスライム     ボス  ビックキングスライム。


 階層ごとに、出現する魔物とボスを次々と倒していく。


             ・

             ・ 

             ・


 戦闘中、ジュリとアリーがほとんどの敵を薙ぎ倒す。



 さらに、パメラが二人に【マジック・ヒーリー】をかけ、魔力(マナ)の消耗を回復。


 アカリとジュリもそれぞれ【ヒール】で体力を調整し、連携を取っていた。



              ・

              ・ 

              ・



 20階層 鬼のような魔物オーガソルジャー を倒していく───。  


 待ち受けるボス部屋のオーガジェネラル、ジュリとアリーの攻撃で楽勝。


 余裕の笑みの彼女たち。


 戦闘が終わり、腰に吊るした『時の魔導具』を確認する。



 まだ、三刻(約3時間)しか経ってない。

 ふと、心の中で今までの戦闘を振り返る。



 アリーの魔導銃は驚異的だ。

 アカリの【舞刀術】も独特だし、刀技のキレは見事だ。

 師匠に俺も【抜刀、居合術】は、教わったけども。

 扇子を使った技は初めてだ。

 それに彼女、【回復魔法】まで使えるなんて。

 万能過ぎだっ!

 ジュリも【攻撃魔法】もそうだが、

 ……ってか、【回復魔法】、それもこなすのか?

 パメラの【補助魔法】の効果も目を見張る。

 それにしてもこのパーティー、凄いんじゃないのか……。



 あれやこれやと思考を巡らせる。

 大きく息をつき、肩をすくめた。



「俺とノビは……あまり役に立ってないな」



 彼女たちを眺め、自分とノビの存在感の薄さに気づく。


 敵を倒すどころか、【魔石】と宝箱を回収する役割。



 だが───ノビはそれでも、満足げにキュタンキュタンと歩みを進める。


 目を向けるとノビの横を歩くパメラが口を開いた。



「ここまではあたいも来たことがあるけど……早すぎるわ。アリーちゃん、あなたって本当に凄いわ」



 パメラは驚きつつもアリーに向かって労いの言葉をかける。


 

 垂れ耳で頬をおさえるアリーに目を向け思い出す。




 彼女が持つ魔導銃。

 それから繰り出される攻撃は炸裂する度に、周囲の空気すら震わせる程の威力───。

 その分、アリー自身の魔力と体力の消耗は激しいだろうが、微塵も表に出さない───。


 それが彼女の凄いところ。 



 思いながら俺は口を開く。



「……アリー、凄すぎるな……見かけによらず……」



 彼女は垂れ耳を"パタパタ、尻尾を"フリフリ”させる。



「ジュリねぇの方が、凄い凄いにゃのだよぅ……」



 アリーは頬を朱く染め、小さな声を漏らす。



 その姿は愛らしい。



 その時────アリーと肩を並べるジュリの目が変わった。



「きゃわいい────いっ♡」



 アリーを抱え込むようにだきつく彼女。

 その勢いに押された垂れ耳も、尻尾も振りが早くなった。


 

「息にゃ……でき……にゃい……」



 次の瞬間、アリーの耳は赤く染まり、足をバタつかせる。



「硬い壁にゃ……」



 ジュリの懐で複雑な心境なのか? つぶやくアリーだった。


 そんな微笑ましい光景を後ろで見ていた俺とノビは、呆然として立ち尽くす。



 なんて癒される絵面なんだ……。



 彼女たちを見た心境。


 そんな中、ノビの目尻が下がった。



「がわいいんさ……」



 小さくつぶやく。


 彼はゴーグルを額に上げて笑みを浮かべた。



 その時だった。


 ダンジョン内の風がピタリと止まった。

 

 ジュリの何気ない仕草が引き金で───



「……!」



 予想外の展開が起こった。


 目の前がぐらっと歪んだ。


 俺は自分の”癖”の世界に入っていった。




【妄想スイッチ:オン】


 ──ここから妄想です──



『ゴクトーさん、こんにちわ♪』



 桃の割れ目がハッキリわかる。



 名付けるなら『緑レースの桃風呂敷さん』が、



 俺に向かって───にこやかに笑って挨拶。



 無意識に"一点”に集中した───。




 【妄想スイッチ:オフ】


 ──現実に戻りました──            




 我に帰り、意識を戻した。



 「……妄想癖が出てしまった」


 

 つぶやく俺を他所にアリーの口が開いた。



「ジュリねぇ、緑、見えてりゅ……」



 アリーが肩をすくめながら冷静にポツリ。



 ノビは慌ててゴーグルを下げ、ジュリに背を向けた。


 見られてるのにジュリも気づき、頬を朱に染める。


 


 その瞬間───


 ジュリが慌ててしゃがみ込み、叫んだ。




「このっ! どスケベどもぅ───────っ!!!」




 彼女に睨まれた。


 動揺して震える。


 目がねじれるぐらいに白目を剥いたさ。


 額から汗が滲む。




ピシ


 

 ジュリの叫びは壁を破壊する勢いだった。



 「今日のは、見せたかったんだけど……ノビにも見られちゃった」


 

 しゃがみ込んだままのジュリが小さくつぶやく。


 だが、その声は俺の耳には届かなかった。


 彼女の瞳には涙が湛える。


 ジッと見ていた姉のアカリは呆れ顔のまま。


 俺とノビを眺め、ひとつ息をつきジュリは肩をすくめる。




 一方、俺をジッと見つめるパメラ。


 彼女の視線が妙な熱を帯びる。



 「ここであたいも”攻略開始”、しないとねん」



 小声で囁き、彼女は口元に妖しい笑みを浮かべる。

 まるで何かを企むような表情を見せる。



 「へ? 何の攻略?」



 俺の声に反応するかのようにパメラが口を開く。



「ゴクちゃんになら……♡」



 艶しい声でそう言った。



 次の瞬間、彼女は唐突に短丈スカートを捲り上げようとした。



「しだっけ!」



 その挑発的な動きに、ノビが身を乗り出した。



 ギロリ



 パメラがワナワナと震え出す。



「何が、しだっけだ! 貴様になど…… 見せるかあああああ!!!」




 ブルン




「不意打ぢなんさああああああああ!」




「吹き飛んだわね……」



 アカリの冷静なつぶやき。



 

ピョン



 ノビは「ケロッ」と戻る。



「タフなやつだ」


 俺は声を漏らす。

 

 むしろ、ノビの図太さに感心する。

 

 思わず口元が緩んで"ニタリ”としていた。



 そんな中、ジュリが噛み殺したような笑い声を漏らす。



 「ククク……」


 

 彼女は涙目で少しだけ朱くなった顔を手で覆う。


 

 一連のやり取りを眺めながら、ふと、頭にあることが浮かんだ。



 ここまでで師匠の【覇気】は感じられなかった。

 

 やはり、こんな階層には居ないよな……。

 

 宝箱の中身も到底、『七星の武器』と呼べる物は無かったし。



 しかし、俺はまだこの時、露ほども知らなかった。

 アカリ、ジュリ、パメラの真の目的を───。


   


 その時───


 ”ぐぅううう”



 名付けた『腹の虫 ぐうさん』が鳴いた。



 アカリが誰の目にも止まらず、ひっそり口を動かす。



 「ジュリやパメラさんに負けてられないわ。私もダー様を攻略しないと……」


 

 彼女は押し殺したような早口で何か言った。

 

 だが、内容は俺の耳には届かなかった。



 次の瞬間、アカリは俺と目が合うと瞳を煌めかせた。



「『セーフティーゾーン』で食事を取りませんか?」










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Xから来ました。 語り部の少年ゴクトーの想像が具現化する斬新な設定がユニークです。ダンジョン探索ものとしてのワクワク感に、突如コミカルで奇想天外な妄想が入り混じる楽しさとかも魅力だと思いました。 個性…
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