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短篇『夢路』『放課後』

作者: 猫党

『夢路』


― これはずっと昔の話、まだ世界が西暦に囚われていた頃―

「はぁ...... 」

 夜景を眺めながらため息をつく。あと二日、あと二日気張ればあの人に逢えると自分を鼓舞しているが、一向に気分は上がらない。

 ふとずっと遠くのビルの一室の灯が消えるのが見えた。こんな時間まで働いていたのかと得も言われぬ感情を咀嚼する。そしてまた

あと二日、あと二日と頭の中を満たしていく。

 どのくらい時間が経っただろうか。ビルの灯はほとんど消えて、残るは闇をゆらゆらしている紅いライトと遠くのマンションの廊下の粒だけである。

 どこまでも続く闇夜の上に月が昇っていた。都会の月はどうしてこんなに小さいのだろうか。そういえばあの人と初めて会った夜も月が出ていた。尤も、今宵の月よりはるかに大きく、美しかったが。

 あの人に逢いたいと、またため息をつく。ため息が部屋に溶けきる前に、鼻から大きく吸って吸い戻し一言

 「...... 寝るか。」

 あの人のことを想いながら夢路に就いた。







『放課後』


 放課後、人気のない校舎の一角にあるワーキングスペースという名のエリア。校舎の西側にあり廊下と一切仕切られていないため、夏は暑く冬は寒いので勉強で使う人はみんな自習室に行ってしまう。そのため利用している人は殆どいない。

「おっす。今日は何読んでるの?」

 例のワーキングスペースで本を読んでいる女子生徒に声をかける。彼女は放課後いつもここで本を読んでいる。

 そして先程のセリフからいつも会話が始まる。そしていつからか、彼女と一緒に本を読む関係になっていた。

そして今日も彼女と本を読むべく、例のワーキングスペースに向かう。今日選んだ本は一昨年の本屋大賞を受賞した甘酸っぱい恋愛小説だ。そしてまた今日もあのセリフから会話が始まり

 「今日はね、これ。」

 彼女が出したのは一昨年本屋大賞を受賞した恋愛小説。自分が持ってきたのと同じ本である。そして私が手に持っている本を見て、あっと驚いた様子を見せて

「一緒だね」

 とはにかんだ。西に傾いた太陽が、彼女の背中を照らす。頬が紅く染まって見えるのはそのせいだろうか。

 その後はまたいつものように隣り合って本を読む。

 いつの日か『好き』って伝えられるといいな。あの小説のヒロインみたいに。


お読みいただきありがとうございました。


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