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 ケントは大きな窓に肩を寄せて、窓枠の縁から外を覗いた。朝から降り続いている雨は、晩方になっても一向に止む気配を見せず、それどころか夜半よわには飛雨ひうとなり、繁吹しぶき雨がバタバタと攻撃的に窓を叩いた。


 こんな嵐の夜に窓から外を覗いても、目に映るのは部屋の明かりを反射する白い雨粒くらいで、他に何も見えなかった。それでもケントは腕を組み、窓にもたれながら斜めに落ちていく雨粒を見ていた。


 こうしているだけでも探したということにはなるだろう、ケントはそんなことを思いながら、重たそうな二重瞼をゆっくりと瞬きさせて、窓に映る自分の濃茶色の瞳と目を合わせた。窓に写る自分の姿を見ると、短く刈り上げられたサイドを確認するようにさらりと撫でてから、後ろに流した少し長めの前髪を指で整えた。それから、厚手の黒いジーンズを軽く叩き、黒の革ジャケットを整える。片手を腰に当てて斜めになりながら、再び窓の外に焦点を合わせた。やはり雨粒ばかりが白く見えて、他のものを隠すように視界を遮っている。


 あの人が夜にふらりと出て行くのはいつものことで、めずらしいことではない。心配する程のことでもなければ、探しに行かなければならないということもない。ただ、何かがあっては困る。だからといって、いつまでもここで外を眺めていても埒が明かない。だが、この雨の中に出て行くなど御免被りたい。


「はぁ……」


 ケントは考えが纏まらずに小さく息を吐くと、足早に窓から離れた。重たいブーツの音をゴッ、ゴッと響かせながら温度のない白い廊下を進むと、センサーライトが反応して順に明かりが灯り、最奥のセキュリティが赤色の光で小さな扉を灯した。ケントが扉に向かっていくうちに、その光は赤色から青色へと変わる。


 扉の取手を掴み、勢いよく扉を開けると、雨の飛沫が霧のように顔面に降りかかった。ケントはウッと小さく呟きながら、渋面を浮かべる。


『なにも、こんな雨の中へ飛び出さなくても』


 あの人は、自分のことなど差し置いてそう言うだろう。


『まぁ、どうするのかはケントの自由なのだけれどね』


 激しい雨音が耳鳴りのように他のすべての音をかき消すけれど、それでもあの人の声が聞こえた気がした。綽然として、表情も変えずにそう言う姿が脳裏に浮かぶ。


「チッ」


 ケントは目を細めて僅かに怯みながらも、ぴっちりと着込んだ革ジャケットの襟を立てて、雨の中へと飛び出した。足を踏み出す度にバシャバシャとブーツが濡れて、背中に雨がバタバタと降り注ぐ。


 こんな雨の中へ自分から出ていくなんて、あの人は本当にイカれている。そんなことは分かりきっているけれど、自分はいつもそれに付き合わなければならない。それは仕方のないのことではあるし、そこまで悪いことだとは思ってはいない。けれど自分もまた、こんな雨の中へ飛び出さなくてはならないのだから、やはり損な役回りだ。


「クソが……」


 ケントは背を丸めて小走りで突き進む。顔にかかる雨を手で拭いながら細い路地を曲がると、小さな建物の影に消えていった。

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