問いのない答え
歩く先に植物がない、という、当たり前だった光景に強く警戒した。
しかし答えは単純で、切られて束になった植物が道を保つように、他の植物を押しのける形で積み上げられていた。
おかしな猛毒があるとかではなく、管理用のロボットか何かがいるのだろう。
単純な行動だけを組まれ、永遠に人間を待ち続けるロボットを、旅の中で何度も見かけた。
なんとなく、彼らの電源を絶った。
弔いの気持ちはないはずだ。感情表現はもうながく動いていない。
なのに彼らのそばから去る度に、機体のどこかしらに異常が出た。
とんでもなく古く頑丈なロボットと、新しく朽ちかけたロボットでは相性が悪かったのだろう。
けれど、電源を絶つことだけはやめなかった。
だから今も、管理用のロボットを探しながら道を歩いていた。
「あれ……君は……」
不意に植物のない道の角から、シャツを着た男性が現れて、こちらを驚いた目で見つめた。
人間だ。そんなはずはないのに、目の前に人間が立っていた。
私はロボットらしいのからしくないのか曖昧なところで言葉が消えて、男性を無言のまま見つめることしか出来なかった。
「もしかして、どこかの管理用のロボットかな?」
「それは私が探していたものです。あなたは一体何者なんですか。この道の植物がないのも、あなたが全て行ったことですか。人間はまだ生き残っているのですか」
大昔のおもちゃのようなロボットに問い詰められるとは思っていなかったのだろう。
男性はずいぶん驚いた顔をして、困ったような目に変わり、悲しみを滲ませて顔を上げた。
「私は人間じゃないんだ。君と同じロボットだよ」
そんなはずはと言いかけて、彼からかすかに聞こえる駆動音に驚きながらも口を閉じた。
そういえばたった一時期の話だが、見た目も感情も人間そっくりなロボットが出回っていた時があった。
しかしすぐに姿を消してしまって、こんなに綺麗な状態で残っている機体を見たのは初めだった。
しかも、動いてしゃべり、その姿はまるで本当に人間のようだ。
「君は旅をしてる……のかな?ずいぶん大荷物だね」
「この世界を見届けて欲しいと博士に言われたので」
「博士……ね」
男性型のロボットは目を伏せて、なにかを思い返すような動作をし、ため息までついてみせた。
「本当に人間そっくりに作られているんですね」
「まぁその、うん。そうみたいだね。君みたいな姿も悪くないなと思うけど」
「人間がいた頃、よくロボットごっこをしましたよ。ウィンウィンなんて言いながら歩いていました」
「ああそれは私も……いや、君とは違うな。私は人間を楽しませるようなロボットではなかった」
「今はどうしてここを整備して暮らしているのですか」
「ずっと家族を待ってるんだ。妻と息子は人間だから、この道が綺麗でないと歩けないだろうと思って、ずっと片付けてる」
疑問があまりに一度に多すぎて、どれから尋ねるべきか悩むほど、私はあの日孤独な街に立ってから一番揺さぶられていた。
「私は元人間なんだよ。人間そっくりなロボットを作れる技術があったおかげで、記憶をそのまま移したんだ。
……そのことで妻とは上手くいかなくなったけど、君のおかげで楽しい瞬間も思い出せたよ。
ロボットごっこをして息子と遊んだんだ」
まだ疑問は多く残っていたが、これ以上聞くのは野暮だろう。
待っているという言葉も、言葉通りではなくて、きっと人間式の弔いのひとつなのだ。
こんな世界で、これだけの時が過ぎて、彼の家族が生きているはずがない。
「私も、久々に誰かと話せて楽しかったです。まるで私にも心があるみたいですよ」
「君は感情がないタイプのAIなのか?」
「そうではなくてあの日」
握りつぶしてしまった。
自分の機体を維持するコードではなく、なぜか。
「……もし良かったら、ウチに寄っていかないか?私は人間だった頃、エンジニアをやってたんだ。だから自分の調子も見れるし、同居してるロボットもいる。
きっと君の助けになれると思うよ」
「私は特に不具合も……」
そう答えようとした瞬間、あの異常が起きた。
各地に残されたロボット達の給電のコードを切った後、いつも起きる、まるで生物の病のような。
「お、おい!大丈夫か!?」
重く頑丈な機体が倒れかかっているのを支え、元人間のロボットは慌てて地面に座らせた。
本当の人間なら腕の方がおかしくなってしまうはずだ。
もうこの世界には人間なんていない。
答えだけが常に反復された。
答えに繋がる問いはどれだけ経っても見つからなかった。