植物の星
見届ける、というのはどこまでを想定していたのだろうか。
燃えてしまった家からディスクをいくつも運び出し、今までの記録を被害の少ない建物に移すことにした。
ディスク自体もこの体と同じでそうそう傷つくようなものではなく、再生用の機器も一応作り直して、新たな生活を始めた。
とりあえずはこの世界に残されたものを集めて見て歩くことが日課になるだろう。
拠点として選んだ家には地下室があり、避難用のシェルターだったようだが、地下室自体は無傷で、中には誰の痕跡もなかった。
あまりにもなにもかもが急すぎたのだ。
その理由を探す旅に出てもいいのかもしれない。
どうせあと何億年過ぎようと、私が壊れることはないのだ。
博士がこの世界にいたことを示すものも、もうこのディスクしかない。
当たり前のことの一つだが、感情表現を消さなかった頃はたびたび物思いにふけっていた。
腕もこのままでいいと思っていたけれど、旅をするならもう少しマシな形に作り直した方がいい。
博士の設計図は、ちゃんとこの不器用なアームだけで作れるようにまとめられていた。
そんなところだけは几帳面な人だった。
それからはもうずっと、拠点に選んだ地下室にさえ帰っていない。
適当な車を選んで道路を走り、だんだんと世界が植物に飲み込まれていくようすを記録し続けていた。
いつか見た物々しい番組は、わりと本質をついていたようだ。
なにもなくとも植物は自生してどこまでも伸びていった。
世界一高いと言われた塔は崩れ、世界一装飾が美しいと言われた神殿は面影もなく、世界一大きいと言われた橋は植物のツタが絡んだおかげで、元の姿を想像できるような形で残っていた。
このままこの星は植物だけが残された星として、恒星に飲み込まれるまで存在するのかもしれない。
それか、植物たちが地を自由に動き回る日が来るのだろうか。
かつての人間と同じような暮らしを始め、文明と呼ばれる何かが広まって、最後を繰り返し。
だとしても、そんなのはもっと遠い先の話だ。
今はただ、人間の文明の終わりの中を歩き続けている。
これを記録することでどんな価値があるのか、価値なんかないのか、何もわからないが歩き続けていた。
世界は広いようで狭く、全く異なる文化があるようで実は風景がそっくりだったりして、旅が長くなるにつれ、これ以上の記録はいらないのではないかと思うようになっていた。
ある日、植物に飲まれていない道を見るまでは。