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03. スイウは知ってるの?


 ▼▼▼



 時は戻り、スイウがクドクの異変に気づいてから数日が経った。

 あれからというもの、スイウは以前よりもクドクの視線の先が気になって仕方がない。

 そうして改めて気づいたことがある。

 クドクの視線の先にいるのは必ず女性で、また、スイウよりもずっとずっとスタイルが良い――有り体に言ってしまえば胸が大きい。


 スイウも自分の身体を気に入っている。

 体幹はさすが鍛えているだけあってしっかりしているし、背中の筋肉も発達しているから姿勢もよい。全体的に筋肉がしなやかで、騎竜のアスリートに適した身体ができつつある。

 だけど年頃の女性としてどうか、と考えると首をひねってしまう。


 それに、これは気のせいであってほしいとかなり願っていることなのだが、クドクは女性の、特に胸に注目しているような気がする。

 いいやクドクにかぎってそんな破廉恥な……。

 と考えを打ち消しては、いやいやクドクだって立派な十八の男の子。十代の男の子はエッチなことで頭がいっぱいになる生き物だと教えてくれたのは、スイウの年の離れた兄だ。


 スイウはそっと自分の胸元に手をあててみる。

「……無い」

 正確に言えば無いこともない。

 だが、服装もあいまって、スイウの胸は遠目で意中の相手を引き寄せるほどの魅力がある大きさとは口が裂けても言えなかった。


「そういえば、クドクが見てた女の子、みんな西岸の服だったな」

 スイウは自分の纏う、国伝統の夜真兎式の衣装をカジュアルに仕立てた服を見下ろした。


 スイウの母は代々続く伝統衣装の老舗を継いだ。

 世間がもっと手早く手軽にそして華やかに着られる服を求め始める前から、母は夜真兎式の服を次々とアレンジし、国に大きなブームを起こした有名なデザイナーでもある。

 今も、スイウの母はこの国のファッションを支える偉大な一人。

 その関係もあって、スイウが着る服もほとんどが母や母の会社が手掛けたものだ。


 ただ、若い女性を中心に、最近では西岸に面した国の伝統衣装をアレンジした服が流行りだした。

 大判で直線的な布を身体にあてて、着ながら丈などを調整する夜真兎式の服とは違い、肩や胴など細かく採寸して縫製され体型の変化に融通の利かないのが西岸式の服だ。

 そのせいと言うべきかおかげと言うべきか、夜真兎式は体型のラインが出にくいが、西岸式は身体のラインが出やすい。

 つまり、胸の大きな女性は、その形が分かりやすい。


 スイウが着るのは夜真兎式ばかりだったので、今まで自分の胸の大きさをそこまで気にしたことがなかった。服の上からじゃいまいち違いが分からないから。

 騎竜の時こそ特有のユニフォームを身につけはするけれど、それも防護のためのベストを着こむので大きい胸はむしろ邪魔になるだろう。

 だから今まで、胸が小さいだとかなんだとか、そういうことに不満を持ったことがなかったのだ。


 だが、クドクは。

 クドクはスイウの胸を見てどう思っただろう。

 スイウはそのことが気になって仕方がない。


 クドクの見つめる先の女性は、みんな西岸式の服で、身体のでっぱりやくびれがはっきり見えて、確実にスイウよりも胸が大きかった。スイウの記憶が正しければ。



 一度不安になると、次から次へと不安を膨張させる要素が思い出されてしまう。

 クドクの視線が気になってから思い出したことなのだけれど、そういえば、スイウの友人がクドクについて言っていたことがある。


 スイウとクドクは学院のキャンパスこそ同じ敷地内ではあるが、普段あまり一緒にいられる時間は少ない。

 早く自分の店が持てるよう経験と勉強を積んでいるクドクも多忙であるし、試合と遠征と合宿、そして学院でのスポーツ栄養学・統計学・メンタルトレーニングなどでスイウのスケジュールは常に渋滞している。


 そんな合間を縫って、二人は待ち合わせて食事をしたり、頻繁に連絡をとってコミュニケーションを重ねてきた。


 だが、つい先日、悩めるスイウに友人がこっそりと教えてくれた。見間違いならいいのだけれど、と前置きをしておいて。

「この間ね、スイウ合宿で数週間いなかったじゃない? あの時、クドクを見たの。医療棟とか実験棟でもなくて、服飾棟の方で。女の子と親し気に話してた。その子たちのこと、スイウは知ってるの?」


 寝耳に水とはこういうことだろうか。

 ちょうど前回の合宿は夜間演習だったので、学院の開いている昼間は、スイウは寝ていた。

 寝ていた合間にクドクが、スイウの知らない女の子と親し気に話していただなんて!


 いやいや待て待て。まだ慌てる時間じゃない。クドクはスイウに黙って女の子と友人の枠を超えてしまうような、そんなバカな人間じゃあない。

 そういう点に関して、スイウはクドクをきちんと信頼している。クドクは誠実な人間なのだ。


 とはいえ、服飾棟なんて、いったい何のために行く必要があったのだろう。

 学院のキャンパスは広い。数年通っているスイウにも、立ち入ったことのない場所――用が無ければ立ち入りを禁じられているような排他的な雰囲気のある場所がたくさんある。

 クドクの専攻分野を考えてみても、どうしたって服飾棟に用ができるとは思えない。


 そして気になるのは、服飾棟にいる学生たちの層。

 将来デザイナーや服飾作家を目指す人たちが多く通っているその棟は、どことなく他の棟よりも垢ぬけて洒落ているように見えなくもない。もちろんそこに通い詰める学生たちも。

 奇抜だけれどオシャレだなと服装に頓着のないスイウでさえ思うほど、素敵な出で立ちの学生を見かけると、ほとんどが服飾棟から出てきているような気もする。これは最近のスイウの主観だ。


 スイウの友人が言っていた、クドクと親し気に話していた女の子もそういう子なのだろうか。

 あれから気になったらしい友人は、スイウのためを思ったのか好奇心か、その子の名前と顔を調べていた。

 名前はたしか西岸風の――。


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