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14. 地獄までバンジージャンプ


「コンテストの最中でも、クドクの態度は目に余るものがあった……。決勝でモデルをセイジョウに指定したのも渋々だった。まるで消去法で仕方なくっていうふうに。何より、準決勝以下の課題でメンズものが出た時、アンタからは『一位通過で課題を終えたい』という気概が全く感じられなかった」

 エリシェは俯き、コツコツとヒールの音をたてながら神妙に室内を歩く。さながら推理中の名探偵のように。


「何故かと聞いた時、クドクはこう言ったの。『俺はスイウの服しか作らないから、メンズをしても』と。アタシたちは話し合い、そうして一つの結論に辿りついた」

 くるりと振り返ったエリシェが、今度はスイウに向かってどーんと指さした。

「つまり、スイウさん! 元凶は貴女ってことよ!」

「わ、わたし!?」


「貴女はこの国伝統の民族衣装を扱う老舗の娘……。西岸式衣装を学ぶアタシ達とは敵対関係にあると言っても過言ではない」

「デザインは敵対するものじゃないんじゃ……?」

 スイウの質問には答えず、エリシェは推理を続ける。

「貴女の婚約者であるクドクは、貴女の服しか作るつもりがないと言った」

「そうらしいですね?」

「これらから導かれる答えはッ! スイウさん! 貴女は、クドクといういずれ世界を股にかけるだろう西岸式の天才デザイナーを配することを恐れ、己の婚約をだしにクドクがアマチュアのままでいるよう画策した! そうなのねッ!」

「違いますけど!?」


 全くの冤罪である。

 あまりにも酷い言いがかりに、スイウは頭を悩ませる。

 だがエリシェの迷推理のおかげで、はっきりとしたことがあった。


 エリシェとフェノルがスイウに掛け合ってきた時、友人たちから聞いていた最近のクドクの噂もあって、スイウはエリシェとフェノルが恋敵なのではないかと疑ってしまった。

 その時、彼女たちはこう言っていた。


 ――あなた、ずっと夜真兎式なの?

 ――クドクはあなたに縛られて、自分の世界を縮めてしまっているのね。

 ――あなたに良心があるのなら、クドクを解放してあげて。


 あの時は真意が分からなかったし、かなり惑わされもした。

 しかし今のスイウなら理解できる。


 『ずっと夜真兎式なの?』は、西岸式に理解が無いのかということ。

 『クドクはあなたに縛られて、自分の世界を縮めてしまっているのね』は、スイウがクドクに強制しているせいで、彼の裁縫技術が職ではなく趣味にとどまってしまうということ。

 『クドクを解放してあげて』は、クドクが大手を振って西岸式服飾の世界に進めるように取り計らえということ。


 さらにはセイジョウだ。

 彼もスイウに話しかけ、説得してきた。

 その時、セイジョウは「クドクはエリシェ達とのことを『遊び』だと言っていた」と言った。


 この『遊び』というのはつまるところ、件のコンテストのこと。

 エリシェたち服飾科の学生にとっては、将来のための本気の勝負。

 しかしただ単に自分の技術向上と気分転換のために受けたクドクにとって、例のコンテストは息抜きという『遊び』だったのだ。


 な、なんて紛らわしいのだろう!

 スイウは心の中で頭を抱えた。


 エリシェたち三人は、最初から最後まで西岸式服飾のことしか頭になかったのだ。

 しかしクドクがそんなコンテストに参加したことはもちろん、服を作るなんてことすら知らなかったスイウは、全く違う方向へと邪推してしまった。


 そのせいで、クドクはスイウと婚約したばっかりに、大きな胸の女性に触れる機会を永遠に失ってしまったのだとか、それなら育乳してみるのも有りなのではないかとか、そんなふうに突っ走ってしまった。



「変な言いがかりはやめろよ」

 未だに頭の中でスイウが打ちひしがれているなか、クドクが呆れたようにエリシェに吐き捨てる。

「そもそもスイウは、俺が西岸式の服を作ってることすら知らなかったんだぞ」

「婚約者だからといって、庇う必要はないさ。君の才能はこんなところで埋もれていいものではないのだよ!」

 セイジョウが語り掛けるも、クドクは長い長い溜息をついて黙らせる。


「言っておくが、俺は裁縫に限らず、だいたいの事は天才的に才能がある。それを踏まえたうえで、プロになんてなる気はさらさら無い」

「んなっ……!」

 言う人が言えばなんと自信過剰な勘違いさんかと思われるだろうが、悲しいことにクドクの溢れるこの自信は事実に基づいていた。

 おそらく天は二物三物よりたくさんの物を、この男に誤って与えてしまったらしい。


「知ってはいたけど、なんて鼻もちのならない男なのかしら」

「一度地獄までバンジージャンプしてみればいいのに」

 遠くでエリシェとフェノルが呟いた。うっかり耳に入ってしまったスイウは、苦笑いで流すしかない。


「最終課題については、俺にできる最良の選択があれだった。元々俺はスイウに着せたい服の妄想を具現化するために裁縫やってんだ。他の女性の身体に合う服を作るなんて空しい作業、やってられるか!」

「むな……しい……?」

「空しい」

 クドクは大きく頷いた。

「メンズのジャケットは最悪の中の妥協点だ。いつかスイウとしたいシミラールックのための練習だからノーカン」

「ごめん途中から意味わかんない」


 スウッと深く息を吸って、クドクは叫ぶようにのたまった。

「俺の初めては! 全部スイウに捧げるためにあるんだよ!」


 周囲は混沌に包まれた。


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