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終着駅の恋人 Ⅴ  作者: さつき けい


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9/20

5ー9・巡礼地ウエスト


 セントラルから列車で丸二日。


セリとキシシュはウエストの駅に到着した。


列車はここで止まり、この先へは行かない。


それは知っていても、セリはこの線路の先の『ウエストエンド』の方角を見る。


この先に行くには列車を乗り換えなくてはならない。


「セリ、どうかしたの?」


キシシュは、サウスからセントラルに向かった時と同じように荷物を抱えてセリを見上げていた。


「いえ、何でもないわ。 さて、まずは宿をとりましょうか」


「えっ、教会に向かうんじゃないの?」


キシシュは調査の内容は知らないが、事件の中心はウエストの教会であることは知っている。


「調査だもの、まずは周りから調べないとね」


「あ、なるほど」


二人は駅から街の中へと入って行った。




 ウエストは農業都市ではあるが、もう一つの特徴は教会の本拠地であるという面だ。


列車から見えたサウスの郊外は酪農地や耕作地が広がっているが、街の中に入ると宗教色が強い。


「わあ、白っぽい建物が多いね」


キシシュが嬉しそうに周りを見回している。


 海沿いの街サウスも白い壁の家が多かった。


おそらくキシシュは故郷のサウスを思い出すのだろう。


だけど、セリにはこの白い建物たちがあまり美しいとは思えなかった。


確かに白い建物たちは細かな彫刻が施されていたり、至る所に白い花が飾られ、道行く人の服装も白が多い。


(何だか押しつけがましい感じ)


白が好きじゃない人だっているだろうに、と思うのだ。


「暖かいものが食べたいわね」 


セリは今回、二日分のパンを作り、列車の中ではずっとそればかり食べていた。


今は早朝だが、列車の到着時間に合わせたように食べ物を売る屋台や食堂が駅前に並んでいる。


二人は少し落ち着いた雰囲気の店に入った。




「宿かい?。 巡礼者なら教会の施設があるだろうに」


そこなら無料で泊まれるらしい。


「いえ、私たちは巡礼ではないので」


「そうかい、珍しいね」


食事を摂りながら、セリは人の好さそうな女将に色々と教えてもらう。


「祖父が引退した後、こちらに移住したいというので下見なんです」


実際、この地で農業に従事している者は現役を引退した老人が多い。


そして老人たちが経営する農場は、繁忙期だけ人手を雇う。


「なら、裏通りに出稼ぎ労働者が利用する宿があるよ」


あまり治安は良くないそうだが、まだ忙しい時期ではないので人も少ないという。


「ありがとうございます」


食事を終えたセリたちは教えられた宿へと向かった。


「ちょっと汚いね」


「まあ、そうね」


そこは街の中心部から少し離れ、酪農地に近い。


白い建物が多かった街中とは違い、この辺りは茶色というか、土埃で汚れた建物ばかりだ。




「いらっしゃい」


一階は食堂、二階が宿という細長い建物である。


農繁期にこの街にやって来る出稼ぎ労働者用らしく、無骨で丈夫そうだ。


「泊まりたいのですが、二部屋、空いてますか?」


「あ、お姉ちゃん、一緒の部屋でもいいよ」


キシシュは姉弟の芝居をする気のようだ。


「ふむ」


大柄な女将は二人をジロジロ見て、奥から出てきた店主らしい夫と話し始めた。


その店主も筋肉が盛り上がった逞しい身体付きをしている。


「お嬢ちゃんたちにちょうど良い部屋がある」


案内された二階の部屋は、二つの部屋が繋がった貴族と従者用の部屋だった。


「滅多に使わない部屋だから、お嬢ちゃんたちが使ってくれたらうれしいよ」


この部屋を使うような旅人は今までいなかったと女将が大声で笑う。


値段の心配をしたがサウスの中規模の宿とあまり変わらなかった。


それでもこの辺りでは高いそうだ。


なにせ街には巡礼者用の無料の宿がある。


たとえ巡礼でなくても、訪れた者たちがわざわざ高い宿を選ぶ訳がない。


 セリはその部屋を二日間抑えてもらい、宿代を先払いした。


「まいどあり。 食事はうちで食べるなら安くしとくよ」


女将はそう言いながら街中の地図をくれた。


「ありがとうございます」


キシシュは目を輝かせて見入り、セリは深く礼を取った。




 二人はひとまず荷物を置くと、街の様子を見に出掛けた。


おそらくサキサたちが追って来るとしたら、到着するのは明日の朝。


それまでに少しでも情報を得たい。


 この街は線路で人が住む場所と農耕地がはっきりと分けられている。


列車の窓から右を見ると農耕地しか見えず、左を見ると街しか見えないという具合だ。


駅前から西へと並ぶ飲食店と土産物店。


街の中央に差し掛かると教会本部の建物があり、そこを中心に、巡礼者用の宿坊がいくつも並んでいた。


本部の建物は二階建てで、思ったよりこじんまりとしているが、たくさんの人が出入りしている。


公衆浴場は農作業者用と巡礼者用が分かれているのか、街の中心部に一つと郊外の宿の側に一つあった。


 そして街の西側に小高い岩山があり、そこが巡礼の最終地、宗教の元となった泉のある場所である。


伝承では竜神が住んでいるとされていた。




 セリはアゼルから渡された書類をきちんと読み込んでいる。


(巡礼に来たはずの女性や子供が何故かいなくなる……)


人の波を避けながら教会本部と書かれた白い建物を見上げた。


ここに直接突撃しても何も得られないだろうと思う。


「ねえねえ、これはなあに?」


キシシュは土産物屋の店先で若い女性店員に声を掛けていた。


「あら、かわいい坊や、それは巡礼用の杖よ」


「巡礼用?」


「ええ、竜神様の岩山は結構険しいから、歩き辛い人用の杖なのよ」


おっとりとした店員の女性は愛想良くキシシュに答えてくれた。


「へえ」


白樺の木だろうか。


店頭に並べられた堅そうな杖は白く、表面はすべすべに磨き上げられている。


「一つください」


セリは岩山を上ってみたくなった。


キシシュにも買おうかと言ったが首を横に振られる。


軽く昼食を摂った後、二人は西の山に向かった。




「ふう」


「大丈夫?、お姉ちゃん」


姉弟芝居を続行中のキシシュに笑顔で「大丈夫よ」と答える。


「こんにちは」「こんにちは」


細い岩山の道は、人が二人、ようやく交差できるほどしか道幅がない。


白い装束の巡礼者が多く、彼らは皆、お互いに笑顔で挨拶をして道を譲り合う。


次から次へと人が来て、挨拶するだけでも運動が苦手なセリには辛く、早々にバテ気味である。


「あらあら大変そうね、お嬢さん」


「もう少し上に休憩所があるからがんばれ」


すれ違うお年寄り夫婦に励まされ、セリは声も出せずに笑顔で頭を下げる。


 言われた通り、少し広い場所に出た。


何人かが岩に腰掛けて休んでいる。


岩肌からこぼれ落ちている小さな滝から水を汲んで飲めるようになっていて、キシシュが備え付けのカップに入れて持ってきてくれた。


「はあ、冷たくて美味しい」


セリは思ったより大きな声が出てしまい、周りの巡礼者たちから笑い声が聞こえる。


恥ずかしくなって、顔を伏せてしまったセリだが、決して嘲笑ではないことは分かっていた。


優しい人たちの穏やかな空気に押されて再び動き出す。


やがて頂上というには狭い、岩に囲まれた小さな泉がある場所に着いた。




 そこには確かに魔力を感じた。


セリもキシシュも目が泉に釘付けになっていた。


岩がまるで盃のように円形の器になり、そこに透きとおる水が溜まっている。


「こ、これは」


キシシュがセリの側に寄り、服を掴む。


「お姉ちゃん」


二人が感じたものは、恐ろしいほどの静謐せいひつ


決して人が足を踏み入れてはいけないほどの、静かな空間。


なのに。


(どういうこと?。これじゃあ聖地じゃなく、まるでただの観光地だわ)


実家のセリの部屋よりも狭い場所に、多くの巡礼者がひしめき合い、うるさいほどの祈りの声がする。


ここにいるのは魔力を感じない人たちなのだ。


この神聖な場所を平気で荒らす、巡礼者という名の侵入者。


「もう戻りましょう」


セリたちは急いでその山を下りた。



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