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終着駅の恋人 Ⅴ  作者: さつき けい


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5-8・与えられた難題


 セリはサキサに呆れながらもアゼルに詳しい話を訊こうとした、が。


「だめだ、絶対にセリには行かせられん。 サキサ、君もだ」


アゼルはかたくなに拒否する。


「何故ですか!」


サキサとアゼルが睨み合う。


「危ないからに決まっているだろ!」


アゼルとしては、セリに何かあった場合、イコガに顔向け出来ない。


サキサは正式な軍務局所属ではない上に、男性にしか見えなくても他家の令嬢である。


二人とも危険に晒すわけにはいかないのだ。


「犯罪に巻き込まれている人がいるかもしれないんですよ!。


我々が動かなくてどうするんですか」


サキサはサウスの警備隊長の一人娘であり、幼い頃から街の治安を守る父親の後姿を見て育った。


そんな正義感の強いサキサは一歩も引かず、アゼルに訴える。


「困ってる人たちがいて、私たちに助けを求めているんですよ?。


調査くらいなら私とセリ嬢で十分やれます」


国の中枢である軍務局は、地域によって管轄が異なる警備隊とは違い、要請があれば国内ならどこでも動ける。


「いや、しかし」


正論過ぎて、アゼルは頭を抱えた。




 ウエストの事件は確かに難航している。


軍の女性兵や、腕に覚えのある魔法学校の後輩なども使ってみたのだが、どうしてもうまくいかない。


すぐに見破られて警戒されてしまうのだ。


「行方不明者の共通点はか弱い女性か、子供だ。


せめて無事かどうかだけでも分からなければ、君たちを現場に向かわせられない」


考えたくはないが、生きていなかったらと思うとぞっとする。


「だから!、それを探りに行かせてください」


鼻息の荒いサキサに、アゼルは大きくため息を吐いた。


「……しばらく考えさせてくれ」


この件に協力出来れば、溜まりに溜まっているアゼルへの借りを返せると思っているのはセリだけではない。


ついでに自分の借りも返せると、サキサはほくそ笑んだ。


セリは明後日の午後の約束をキッチリ取り付けて帰っていった。




 キシシュの魔力検査の日。


役所の指定した部屋にはセリとキシシュと、サキサとアゼルがいた。


「さっさと始めてくれ」


しかもアゼルの機嫌がめちゃくちゃ悪い。


「は、はいっ」


侯爵家の後継、しかも軍務局のお偉いさんの一人息子で幹部候補である青年が来るとは担当者も思っていなかった。


というか、セリも忙しいアゼル本人が顔を出すとは考えてもみなかった。


「大丈夫です。


キシシュは優秀ですから」


対照的にサキサは何故かご機嫌である。


キシシュをアゼルに任せたセリに、サキサがこっそりと耳打ちした。


「ちゃんとウエストの調査の許可がおりましたよ」


(ああ、なるほど)と、セリは納得する。


どうやらアゼルはサキサに押し切られたようだ。




「で、では、こちらの機械に手を乗せてください」


魔力に反応する鉱石を嵌め込んだ機械を前に、キシシュは不安気にアゼルを見上げる。


「痛くはない。早くしろ」


「はい」


キシシュは、人の頭ほどの大きさの四角形の機械の上にそっと手を置いた。


動かないように革のバンドで手が固定され、機械のスイッチが入る。


「しばらく動かないで」


アゼルは、機械に嵌め込まれた四つの鉱石が、やがて熱を持って光るのをじっと見つめていた。




 魔力を持たない者たちが、魔力を検知するための機械。


微量な力を加えて反発する魔力の反応を計測するらしい。


(くだらない)


アゼルは冷めた目で周りを見回す。


魔力持ちに魔法で調べさせれば一瞬で終わることを、彼らは魔法を危険視する故に無駄なことをする。


「す、素晴らしい才能をお持ちのようですね」


貴族で軍人であるアゼルに媚びるように役人が検査結果を書いた紙を見せた。


魔力量、得意属性共に十分な数値を示したようだ。


「これでこの少年の住民登録は完了ということでよろしいか」


アゼルが問いかけると、キシシュの手のバンドを外していた担当者が慌てる。


「いえ、今日は検査だけでして、手続きはまた後日に」


「おかしな事を言う。


移民の検査に何度か立ち会ったが、これさえ終わればすぐに申請は通ったぞ」


セリは、他人に対してこんな冷たい目を向けるアゼルを初めて見た。


彼は基本的に人当たりが良く、いつもニコニコしている印象があるのに。


 威圧を込めたアゼルの言葉に役所の小部屋が慌ただしくなる。


何人かが出入りして、コソコソ話し合い、


「そ、それではこちらで手続きをしておきます」


と、ギリッと悔しそうに唇を噛んだ担当者がアゼルに頭を下げた。


「分かった。では無償学校の手続きも一緒にお願いする」


決まったら軍務局に連絡をもらえるよう頼んで、セリたちは役所を出た。




 駅広場まで戻り、屋外のテーブルの一つに四人で腰掛ける。


いつの間にか姿を見せたアゼルの護衛が注文した飲み物を運んでくれた。


「今日はありがとうございました、アゼル様」


セリが口を開くより早くキシシュが礼を述べる。


アゼルは諦めたように頷き、「ああ」とだけ答えた。


「いつまでむくれてるんですか。


ちゃんと局長の許可は頂いたんですよ?」


どうやらサキサは、渋るアゼルを飛び越えて、幹部である侯爵様に直談判したようだ。


アゼルはジロリとサキサを睨みつける。


「うまく父に取り入ったようだが、危険な任務だというのは変わらないぞ。


何かあれば私だけじゃなく、局長も責任を問われる」


「分かってます。


私だって身元がバレて送り返されたくないですから、慎重に行動しますよ」


口では勝てないと悟ったのか、アゼルは「どこが慎重なんだ」とブツブツ呟いている。




 二人の剣呑な雰囲気にキシシュが飲んでいた果汁水のカップをテーブルに置いた。


「あの、サキサさんたちはいつから行かれるんですか?。


セリさんと二人だけですか?」


サキサは少年の頭に手を伸ばして優しく撫でる。


「大丈夫、お前は何も心配しなくていいんだよ」


キシシュはただ黙って頷いた。


 セリには何故かキシシュの気持ちが分かる気がする。


「アゼル様、明日の昼に出立でよろしかったですよね」


「あ、ああ」


アゼルは詳細の書かれた文書が入った封筒をセリに渡す。


「支度金と切符はサキサ嬢に渡しておくよ」


アゼルの隣でサキサが「任せて」とニッコリ笑う。


「ではサキサさん、明日は駅で待ち合わせにしましょう」


そして、セリは準備があるからと席を立つ。


キシシュの手を取り、笑顔でアゼルとサキサに「また明日」と声を掛けてその場を離れた。




 翌日、昼前に駅に着いたサキサは、いつまで経っても現れないセリを待っていた。


サキサはセリの自宅を知らなかったため、一旦軍部に戻ってアゼルを探したが会えない。


昨日、キシシュのために急に休みを取ったので、その分も忙しいのだ。


サキサは駅前に戻り、「確かこっちだったな」とセントラルで最初に会ったセリの友人マミナを訪ねる。


「セリ?。 いいえ、来ていないけど」


「え」


すでに陽は傾き、ウエスト行の列車は今日はもうない。


そしてサキサはそこで初めて、セリが一人でウエストに向かったことに気づいたのである。




「アゼル!」


疲れ果て、軍務局の兵寮に戻って来たアゼルは真っ青になっているサキサに胸倉を掴まれた。


「な、なんだよ」


ただ事ではない様子に他の護衛たちを退室させ、二人っきりになる。


「セリが、セリが」


「どうした」


マミナに会った後、サキサは彼女にセリの自宅を教えてもらって訪ねて行った。


しかし予想通り、セリはいなかった。


「セリが今朝一番の列車でウエストに行ってしまったんだ」


そして、最悪なことがもう一つ。


「キシシュを連れて!」


セリはキシシュと二人でウエストの調査に向かったらしい。




 アゼルは「あー」と天を仰いだ。


セリは、不思議なこと、不可解なものが好きな好奇心旺盛な女性だ。


聡明な彼女なら、ウエストのあの事件の内容を見れば興味が沸くだろう。


その上でサキサを護衛に付ければ大丈夫だと思っていた。


「はあ、またコガに怒られるなあ」


アゼルは盛大にため息を吐いた。



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