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終着駅の恋人 Ⅴ  作者: さつき けい


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5-7・キシシュの待遇


 セリが『ウエストエンド』のイコガ宛に魔鳥便を送ってから数日が経った。


キシシュの職場探しは「まずはセントラルに慣れてからで良いのでは」というセリの母親の一声で、一旦中止。


今はセリも書類整理くらいしかやることがないので、トールが学校へ行っている間、キシシュは家事を手伝っている。


勉強するために遠いところから来たのに申し訳なく思う。


「これ、良かったら」


セリは自分が勉強のために使っていた本をキシシュの部屋へ運び込んだ。


「いいの?、ありがとう!」


運ぶのを手伝ってくれた祖父も、


「まだ難しいかもしれんが、分からないことがあれば遠慮なく聞くんだぞ」


そう言ってキシシュの頭をワシワシと撫でた。




 セリは、キシシュに医療機関で働きながら無料の学校に通うことを提案した。


この国では、短期間で魔力の操作だけを学ぶ無料の魔法学校と、社会に役立つ魔力の使い方を長期間学ぶ有料の魔法学校がある。


キシシュは魔力が有ることは分かっていたが、サウスでもまだ検査は受けられない年齢だった。


「魔法学校なら自分に合った魔法も教えてもらえるし」


「で、でもそこまでご迷惑をお掛けするわけには」


キシシュの言葉にセリの家族は顔を見合わせて笑う。


「迷惑だなんて思っていないわ。


サウスではセリがお世話になったのだから、キシシュくんの手助けをするのは当たり前よ」


母親は、嫌な顔一つせずに家事を手伝ってくれる少年に頷いてみせる。


「君は将来、きっと立派な医療術者になる。


そうしたらセリを助けてくれるだろう?」


自分の娘のためだ、と父親も孤児の少年に援助を申し出た。


涙ぐむキシシュに祖父は、


「狭い家だが賄い付きの下宿だと思えば良い」


と、勝手にずっと居るものだと決め付ける。


「俺、弟が欲しかったんだ!」


最後にトールが叫んで、皆が楽しそうに笑った。




 まずは住民登録をとセリは役所に顔を出し、サウスから取り寄せた書類を提出する。


「街の移動申請はしたから、必ず入学できるはず」


大都市セントラルは住所が定かではない移民が多い。


キシシュはサウスからの移動ではあるが扱いは移民とほぼ変わらない。


そのため、受け入れには魔力検査が必須になっていた。


特に今はセントラルでも移民は問題になっているため、国内の移動だけといっても審査が厳しい。




 しかも、お役所の仕事はなかなか進まない。


「それで、登録はいつ頃になるでしょうか」


セリは住民局の窓口に再三通って、答えを待っていた。


「はあ、もうしばらくお待ちください」


窓口の男性職員はいつも渋い顔をする。


 移動といってもまだ働けない子供ひとりで、しかも魔力持ち。


申請がなかなか通らないのは仕方がないとセリも分かってはいるが。


「申請書に不備はないはずです」


サウスの施設の経営者である老婆は孤児たちの書類に関しては慣れたものだった。


しかし、いつもなら養子縁組で送り出すのに今回は働き口を求めての移動である。


無職の子供が増えるのはセントラルとしては困るらしい。


「ええ、まあ、じゃあ魔力検査だけでもやりましょうか」


後ろ頭を掻きながら邪魔くさそうに職員が答えた。


「ありがとうございます!」


セリが早速キシシュを呼びに行こうとすると、


「明後日の午後ね」


そう言って職員は受付票を渡してきた。




「必ず魔力を制御出来る監視員を連れて来てください」


魔力検査とは、まだ魔力を使った事もない者から魔力を引き出し、どれくらいのことが出来るかを調べる作業である。


未知数である魔力を使わせるのだから当然、危険が伴う。


そのため、暴走した魔力を制御出来る監視員が立ち会うのだ。


その監視員を役所のほうで用意する場合は、もっと日程が遅くなると言われた。


 制御出来るほどの魔力持ちは貴族などの上流階級の者が多く、日頃から役所に常駐していない。


そのため、検査する人数が溜まってから呼び出すことになっている。


だが今回、特別に早く承認する条件として、セリのほうでそういう者を用意出来るならということだった。


「あんた、お高いほうの魔法学校出だよな。


それなら知り合いの一人くらい連れて来れるでしょ」


やはり、ここでも魔力持ちはあまり良く思われていない。


「わ、分かりました」


多少引きつり気味な笑顔で、セリは役所を後にした。




 さて、困ったことになった。


「誰に頼もうかしら」


親友であるマミナなら快く引き受けてはくれるだろうが、彼女は魔法学校での成績があまり良くなかったので制御が不安になる。


駅広場の飲食店でいつものお茶を頼み、外のテーブルに座って一息ついたところで、セリはため息を吐いた。


またアゼルに頼むか、誰かを紹介してもらうしかない。


「頼み事ばかりしてるなあ」


他人に頼ってばかりの自分が嫌になる。




「やあ」


ぼんやりしていたら、いつの間にかサキサが来ていた。


お互いに時間が合えばここで会うことになっている。


「どうした、悩み事かな?」


サキサは今日も凛々しい軍務局の制服姿だ。


すっかり上流階級の側近の立ち居振る舞いになってきている。


セリは「サキサさん、カッコイイ」と、つい呟いてしまう。


「そうか?、ありがとう」


ニコリと笑うサキサも、サウスの警備隊の制服よりは気に入っているらしい。


 注文した飲み物を受け取りながら、サキサは周りを見回す。


「最近、どうも外出すると誰かに見られている気がしてならないんだ」


そう言いながら、セリの隣の椅子に座る。


「それはそうでしょうね」


広場の空いたテーブルに座った若い女性たちがチラチラとこちらを見ている。


アゼルの時も同じような状態だったなあ、とセリは苦笑いを浮かべた。




「それより、どうした。 キシシュのことかい?」


首を傾げるサキサのことはひとまず置いて、セリはアゼルに相談しようかどうか迷っているという話をした。


「迷惑かどうかは分からないが、彼ならあまり気にしないだろうと思うけどな」


サキサもこの数日でアゼルとずいぶん打ち解けたようだ。


「うーん、もしかしてだけど」


少し声を落とし、サキサはセリに顔を寄せて来る。


「今、アゼル様はちょいと難しい問題を抱えていてね。


それに力を貸してあげればどうだろう」


借りを返せるかもしれないと言う。


「それ、詳しく聞いてもいいかしら」


親密そうに肩を寄せ合って話をしている姿を見た女性たちが黄色い悲鳴を上げているのに気づかない二人だった。




「それで、二人して私に何のようだ?」


軍務局にサキサと押し掛けたセリは、アゼルに面会を申し込んだ。


「実は明後日の午後なんですが」


サキサに促され、セリは魔力検査の監視員が出来る者を紹介して欲しいとお願いをした。


「それくらいなら構わないよ」


アゼルは学生時代の知り合いで動けそうなものを頭の中で考え始める。


「その、いつもお世話になりっぱなしで申し訳ないので、何か私で出来ることがあれば……」


セリはチラッとサキサを見る。


口元をニタリを歪めたサキサは、いかにも貴族の従者らしくうやうやしく口を開いた。


「アゼル様。 確かどこかの街の教会で調べたいことがあると伺いました」


「ん?」


アゼルは執務用の椅子に座ったまま、サキサの顔を見上げた。


「軍の人間では出来ない仕事だとおっしゃっていましたよね。


この際、セリ嬢に協力をお願いしてはどうでしょうか」


「はあ?」


アゼルの口から素っ頓狂な声が出た。




 農業都市ウエストの教会で行方不明者が出ている。


ウエストには警備隊というのはおらず、教会所属の騎士が街の治安を守っていた。


今まではそれで問題はなかったのだが、最近になって「巡礼に行った者が戻らない」という訴えが何件かセントラルの軍部に届いたのである。


 宗教がらみというのはとにかく内部の者の口が堅いため、外からの調査が難しい。


こういう場合はおとりとして身分を隠した者が潜入することがあるのだ。


「馬鹿か!、セリをあんな危ないところには行かせられん」


「もちろん、私も同行しますからご心配なく!」


「ええええー」


満面の笑みのサキサの言葉に、セリもアゼルも驚いた。



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