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終着駅の恋人 Ⅴ  作者: さつき けい


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6/20

5-6・夕暮れの街


 商店街の通い慣れたジャンクフード店で買い食い。


「うまい!」


「はふはふ、おいひい」


「だろ?」


セリに支払いを任せ、少年たちは薄い鶏肉を焼いたものを挟んだパンにかぶりついている。


辛めの香辛料が効いていてなかなか美味しい。


テーブルがある店ではないので通りの片隅で立ったままだ。


「いいのか?」


お行儀が悪いとサキサは眉をひそめたが、セリは笑っていた。


「ふふふ、今日はまあいいかなと」


日頃、姉に対して厳しい弟は、結局は自分自身にも厳しい。


同年代の友人たちと遊ぶ時くらい子供らしくいて欲しいと思う。




 セリたち一行は、十二、三歳の少年が三人と、それを見守る男女の二人連れ、に見える。


五人は午後の賑やかな街をあちこち見て回った。


「あ、あれはなあに?」


一番幼い水色の髪のローロが次から次へと指差したり駆け出したりするので、その度に一行は立ち止まったり追いかけたりと忙しい。


あーだこーだと説明するトールの側でキシシュはおとなしく聞いてはいるが、やはり珍しいものが多く、その瞳は好奇心で輝いている。




 ふと、セリはじっとこちらを見ている彼らに気づいた。


「な、なに?」


若干引き気味に訊ねると、弟たちは顔を見合わせて笑う。


「いやあ、こっちより楽しそうだからさ」


「う」


それは仕方がない。


何せ初めてセントラルに来たサキサと一緒に色々と買い物とかしたかったのだ。


女同士だとお店を冷やかして歩くだけでも楽しい。


「サキサさんにはサウスでお世話になったから、その」


セリ自身が楽しくなければセントラルの良さが伝わらないと張り切ったが、少々やり過ぎたかもしれない。


恥ずかしそうに顔を赤くするセリを見て、


「まるで恋人同士みたいだね」


と最年少のローロがにこりと笑う。


「なっ」


サキサも慌てる。




 サウスでは皆、知っている顔なので誰も気に留めなかったが、ここはセントラルだ。


今のサキサはいつもの男勝りの口調がその服装と相まって男性にしか見えない。


「あー」


そうなると、本当に恋人同士に見えるわけだ。


だが、キシシュは首を横に振る。


「サキサさんは女のカッコしててもこれが普通だし」


「ぐ」


自覚が無かったようで、サキサは狼狽えてしまう。


だって、サウスではどんなに男性っぽくしていても、サキサが女性であることは誰でも知っていたから、あまり意識していなかったのだ。


 いや、しかし考えてみれば女性に見えないのは幸いかも知れない。


サキサは思い直す。


(この際、女性に見えないほうがいいんじゃないか?)


もちろん、表面上だけだが。




「それより、みんなに見せたいところがあるんだ」


そう言うなり、陽が落ちる前にとトールが走り出す。


「待ってよー」


楽しそうに二人の少年が後に続く。


セリはまだ考えこんでいるサキサの肩を叩いて少年たちの後を追った。


「こっち!」


少し古い五階建ての雑貨店に入り、夕方の混雑が始まる店内を駆けて行く。


トールたちは少し遅れ気味のセリをちゃんと待っていてくれた。


 いつの間にか、人通りの少なくなった通路を歩く。


本当は客が通るような場所ではないが、トールはたまに来ているらしい。


「こんにちはー」


「おー、また来てるのか。 もう暗くなるぞ、早く帰れー」


「わかってるー」


警備員とも気さくに言葉を交わす。


ようやく止まったのは古びた鉄の扉の前である。


「へへっ、ここだよ」


ギイィ、と力いっぱい錆び付いた扉を開いて外へと出る。




 そこは屋上だった。


「わああ」


キシシュとローロが端に駆け寄る。


「ちょ、危ないぞ!」


そう言いながらサキサも彼らと同じように敷地の端の、胸の位置くらいまでの高さの鉄柵にぶつかるように駆け寄った。


そんな彼らの後姿を見て、セリとトールは顔を見合わせて微笑む。


「懐かしいわね」


「うん、小さい頃、よくじいちゃんと来たよな」


祖父がこの建物の警備員たちと知り合いだったのだ。


少し煙たい風の匂いさえ変わらないなあと感じた。




 空がオレンジ色に染まる。


「駅はどっちだろう」


サキサには駅くらいしか方角がわかる建物がない。


街並みを見下ろし、多くの人の流れから駅の方向を探る。


商業地区であるこの辺りは既に見上げるほどの建物が増えていたため、見つけることが出来なかった。


 セリは、多少狭くなったこの空のどこかに、魔鳥がイコガの手紙を持って飛んではいないかと目を凝らす。


そういえば、サウスでの一夜のせいで質問の束を渡し忘れてしまった。


それを思い出し、居ても立っても居られなくなる。


「そろそろ帰りましょう」


「そうだな。 暗くなる前に行くぞ」


建物を出たところでローロを送って行くトールたち少年組と、恋人同士に見えるセリたち二人に分かれた。


 今の自分の姿が男性寄りであることを理由に、サキサはセリを自宅へ送り届け、その後で兵寮へと戻ることになった。


セリは、年下の女性であるサキサが暗い道を一人で歩くことを危惧したが、サキサ自身が笑い飛ばす。


「この制服は伊達ではないよ、セリ嬢」


アゼルに叩き込まれたらしい軍式の敬礼をしてサキサは帰って行った。


「あれなら、しばらくは大丈夫かしら」


セリはアゼルに感謝した。




 夕食後、トールと今日の街の様子を楽しそうに祖父に話して聞かせているキシシュを残し、セリは自室へと戻る。


すぐに紙を用意して、さて何から書こうかしらとペンを手にした。


そして、耳まで赤くしながら最初の恋文部分を考え始める。


触れ合った肌の熱さえ昨日のことにように思い出し、悶えながら。




 翌日、セリはアゼルに魔鳥便をお願いするために軍部局を訪れた。


昨夜は書くことに夢中になってしまい、少し寝不足気味である。


キシシュは今日は非番の祖父と共に美術館へ出かけて行った。


 受付でアゼルの名前を告げる。


「申し訳ないが、アゼル殿は会議に出席中です。


今、宿舎にいる従者を呼びにやらせますので、しばらくお待ちください」


軍務局ではアゼルの父(実は祖父)も幹部として働いているため、家名ではなく名前呼びされているそうだ。


「はい、突然伺いまして申し訳ありません」


セリは約束の無い訪問のため、待たせられるのは当然だと礼を言って静かに待つ。




 しばらくして、快活な靴音をさせてサキサが現れた。


「セリ、どうした」


中年の事務方の軍人に睨まれ、サキサは慌てて緩んだ顔を引き締めて背筋を伸ばす。


「これをアゼル様にお願いしに来ました」


クスクスと笑いそうになる口元を何とか宥め、セリは鞄から丁寧に束ねられた紙を取り出す。


セントラルに来たばかりで要領を得ないサキサに説明するため、衝立ついたてで区切られただけの簡易な応接室を借りる。




「私の研究でお世話になっている方が遠方にいらっしゃるの。


その方に連絡を取るため、アゼル様が侯爵家の名で魔鳥便を使えるように手配してくださって」


侯爵家の名前を使うのだから、アゼルに中身を確認してもらった上で送ることになる。


「あ……の方に渡せばいいのだな?」


まだ反発しているのか、サキサはアゼルを名前で呼びたくないらしい。


「ええ、急ぎではありませんので」


サウスでも警備隊に所属していたサキサである。


軍の制服も似合っているし、雰囲気もここの兵士たちに溶け込んでいる。


セリはサキサの局内での様子も見れて安心した。


「アゼル様によろしくお伝え下さい」


何かあればまた連絡してもらえるようお願いして別れた。




 昼食後、アゼルはサキサからセリの手紙を受け取った。


「順調そうで何よりだ」


ニヤニヤしながら受け取ったアゼルにサキサが首を傾げる。


「読みたいか?」


ここは幹部候補用の執務室の一つ。


二人の他には誰もいない。


アゼルは意味深な笑顔でサキサに向けてピラピラと手紙を振って見せる。


「よ、よろしいんですか?」


好奇心に負けたサキサが最初の一枚を読み、その甘い言葉の羅列に酷く負けた気分になるのはすぐだった。



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